メディアグランプリ

夏休みの宿題、それは便秘解消だった


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記事:玉置裕香(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
夏休み。それは楽しい時間の始まり。子供も大人も。
子供の頃、夏休みの計画はわくわくした。何しよう。誰と遊ぼう。
大人になっても変わらない。どこに行こう。何食べよう。
でも、子供には夏休みの宿題がある。
算数や国語のドリル。読書感想文、図画工作、自由研究。昔はラジオ体操もあった。
計画通りにできた子はいるのだろうか。最終日に親に怒られた子は多いはず。私もその一人。読書感想文が大嫌いだった。泣きながら書いていた。
 
 
去年の夏。私は泣いていた。
4か月前に新しい手術を学びたくて職場が変わった。
朝から晩まで働いた。週2回の当直ではほとんど眠れなかった。眠くても朝は来る。
重症患者さんがいたらさらに大変だった。
週末も休みはない。回診や緊急対応でつぶれた。
デスクワークも多かった。
慣れない環境、任された仕事のプレッシャー。直属の上司に診療の相談をしても自己責任で、といわれた。孤独だった。
メンタルは崩壊した。涙がひたすら流れた。
悲しいとも、つらいともわからない。
もう無理だ、それだけはわかった。
仕事に行けなくなった。
 
独りでいたらヤバイ。脳はそう判断したのだろう。
母へ電話し、実家に戻った。大雨で列車は一部不通。近くまで迎えに来てくれた。
「無事でよかった」
母の第一声を聞き、涙がでた。
存在するだけでいいと言われている気がした。
 
2週間、実家にいた。
規則正しい生活。温かい食事にお風呂。眠れないときはあるけど、穏やかな時間。
私の体を癒していく。
その間、精神科の診断書を持ってこい、上司にいわれた。そういうものかな、と思った。
地元の精神科を母に尋ねた。すると、母は怒った。
「あなたに必要なのは休息。寝てない頭で考えても無駄よ。メンタルよりも先に体を休めなさい」
 
仕事について考えると涙がでた。もっと頑張りたいと思っても、頭と体は拒否した。
もうあそこでは働けない。
2週間後、私は辞表を出した。
 
 
長い夏休みが始まった。
体は遊びたがった。海や山、島へと遊びに行った。
たまに小遣い稼ぎにバイトもした。
楽しかった。体はますます元気になった。自由だった。時間はたっぷりあった。
1か月過ぎた。休みに飽きてきた。計画しないと何もない毎日。
心がぽっかりと空いていた。
満たされない何か。
 
急に収入がなくなり、貯金は減った。生きていれば金はかかる。バイトをしなくては。
友人に医者の求人情報を教えてもらった。手始めに3つ登録した。
バイトに励んだ。頭は使わない。たまに調べるだけでなんとかなった。簡単だった。
バイトは私でなくてもよい。その日だけで終わる。医師という資格が必要なだけ。
職場で誰かと話すわけでもない。
問診も診察も必要なことはわかる。でも、そこに価値を見出せない。
虚しかった。
 
私が生きている意味は何だろう。もし役割があるなら何だろう。
私が頑張ってきたこと、今からやりたいこと、好きなことは何だろう。
なぜ外科医を目指したのか思い出す。
生きるためには食べて、うんこを出さないといけない。
出せない苦しみを私は知っている。それを取り除くことができたら。私は大腸を勉強した。
好きになって、外科医になったのだ。
働きたい。
大腸が好きだ。今までしてきた仕事は別の誰かができる。
もっと違う世界で、苦しんでいる人の役に立てたら。
 
 
2月、福岡へ引越しした。次の職場が決まったからだ。
友人からある書店について教えてもらった。
「試練は乗り越えられる人にしかやってこないよ。今の思いを書いてみたら。
きっと自分のためになるよ。もしかしたら今後の役に立つかもしれないし。
無理だったらやめてもいいしね」
 
運命か必然か。
翌日私は書店を訪ねた。そこで知った。
「毎週2000字の課題提出があります」
夏休みの宿題で泣いていた自分を思い出す。おかしかった。
 
ふと、考える。なぜ読書感想文が嫌いだったのだろう。
すぐに思い当たった。
思いを言葉にできなかった。正しくは、“良く見られたい”という気持ちが邪魔をしていた。
そして、昔から家族に言われていた呪いの言葉。何をいいたいのかわからない。
木を見て森を見ず。幼い私は全体を伝えず、細かいところばかり。伝わるわけがない。
 
私は今までうまく出せてなかったんだ。心だけが取り残されていた。
吐き出すチャンスをようやく見つけた。
長い便秘をしていた気分に近い。スッキリ出せなかった。宿便だ。
良い薬、見つけた!
昨夜、ふと気づいた。これ、私の夏休みの宿題だったんだ。
締め切り明日だ。やらなきゃ。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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