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こんな時だからこそ、学ぼう


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ズズキ ヤスヒロ(スピード・ライティング特講)
 
 
「君は、なにを研究しているんだい?」
眺めていた論文に目くばせしながら、隣の席に座っていた、ラフに軍服をきた初老の紳士が話しかけてきた。
大学院1年の夏の終わりに、リトアニアの首都、ビルニュスで開催された国際会議に参加していた。少し時間ができたので、近郊の観光地,カウナスに電車で向かっていた。
「数理生態学です」
「そうか。じゃ、同志だな」
白髪混じりの短髪。精悍な顔つき。アスリートのような体つき。
鋭い目が、すこしほころんだ。
「え?」
「私は、実は研究者を目指していたんだ」
「子供のころから、自然が好きでね。ずっと、生態学者になることを夢見ていた」
リトアニアの自然が豊かであること、幼い頃は森で遊んでいたこと、そして、美しい昆虫や植物についての話を、いろいろ聞かせてくれた。
昔話をしている彼の目は、とても澄んで、キラキラしていた。
 
終点のカウナスが近づいてきた。
彼は、少し厳しい目つきになった。
「でも、自分の夢はすべて諦めた。革命が起きたんだ。自分は、大学をやめた。国のために、自分の人生を捧げると決めた。そして、軍に入った」
わたしは、リトアニアでどのような革命があったか、知らない。
でも、彼の言葉から、革命で多くの血が流れたことを感じた。
 
電車が、カウナス駅に着いた。
別れぎわ、彼は、我が子を見る父親のような、とても優しい目をしていた。
「君は…… いいな」
目がうっすらと涙で光っているように、みえた。
「大学で、学べる。がんばれ。同志」
 
この国では、そんな昔でもない頃に、若者が夢をあきらめ、国のために命を投げ出した過去があった。
独立は勝ち取った。だが、多くの生命が失われ、たくさんの血が流れたのだろう。
 
リトアニアから、さして遠くない、ウクライナで戦争がおきている。
多くの若者たちが、将来を諦め、国のために生命を投げ出している。
ウクライナ情勢のニュースを見ると、リトアニアで出会った彼を思い出す。
あの美しかったリトアニアも、ふたたび戦争に巻き込まれてしまうのだろうか。
 
学ぶ、ってなんだろう?
私は、子供のころからずっと『受験勉強』をしてきた。
大学に入ったら、遊ぶことが最優先。講義をサボり、要領よく試験でよい点をとることに力を入れていた。
私は、本当に、学んできたのだろうか。
 
ずっと、ひっかかっていることがある。
若い頃から、ヨーロッパ出張の仕事が多かった。
どんなに貧しい小国でも、平日の午前中に、博物館や美術館に行くと、たくさんの子供たちで、あふれていた。
引率している先生がいるので、授業の一環なのだろう。
どの国でも、静かに先生の話を聞いている子、キャッキャと走り回っている子、子供たちはみんな同じ。どんないたずらっ子でも、作品に対する敬意と、それに触れる喜びであふれてキラキラしていた。
美術館のいたるところの絵画の前で、たいてい腹ばいになって、夢中になって『模写』をしている。自分の国の歴史や文化を、全身で感じて、表現している。
 
私は、小学校から高校まで、日本の文化について学んだことがない。
あのヨーロッパの子供たちのように、美術館で夢中になって、日本画や浮世絵の『模写』をした経験がない。試験のために、教科書や参考書に載っていた、名画や絵師の名前を丸暗記した記憶しかない。
 
ずっと以前に、仕事でミラノに行った。
イタリア人というと、陽気で、高田純次みたいなちょっと適当なイメージがあるかもしれない。確かに、そんな連中はいる。でも、真面目で、控えめ、時間厳守。日本人みたいなイタリア人もたくさんいる。
仕事が終わって、日本人みたいなイタリア人の仕事仲間とバーに行った。
特に盛り上がるわけでもなく、静かに、仕事の話をしていた。
 
突然、近くの客に話しかけられた。
「失礼。君ってさ、もしかして日本人だったりする?」
ワイングラスを片手に、『チャラチャラしたイタリア人』、の代表みたいな、兄ちゃんが話しかけてきた。
20代のジローラモさんみたいな、兄ちゃんは、耳と鼻にピアスをしている。
静かなるイタリア人たちは、私たちは、この日本人とは関係ありません、という感じで知らんぷりしている。
「え、はい。私は日本人ですけど」
兄ちゃんは、目をまんまるくすると、大きな声で、
「やったー! 俺さ、日本大好きなんだよ!かんぱーい!」
そこから、彼の日本映画への愛、の話が延々と続いた。
彼は、オズ、がいかに偉大か、オズのカメラワークがどれだけ斬新か、
ずっと、オズ、オズと興奮してしゃべっている。
「すいません。あなたがさっきから言っているオズを、私は知らないのですが……」
彼は、信じられない、という顔で私を見つめて絶句した。
そして、絞り出すように、
「オズ ヤスジローだろ。日本の偉大な映画監督じゃないか!」
それから、彼に小津安二郎について、講釈をうけ、おすすめの映画を教えてもらった。
 
受験勉強も勉強だ。
もし、受験勉強が人生を豊かにしているなら、それは学びだろう。
自分の場合は、受験勉強は、学びではなく、ただの手段だった。
 
世界がこんな状況の今、だからこそ、学ぼう。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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