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セキセイインコの恩返し


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記事:河野 眞寂(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
今から14年ほど前、ある“鳥”を飼っていた。
名前は、“ちび”。
オスのセキセイインコだ。
羽は、ほとんどが白で、鮮やかなコバルトブルーの羽が混じっていた。
 
セキセイインコは、言葉をよく覚えるといわれるが、
本当によく覚え、よくしゃべる鳥だった。
頭もよく、私の名前は、すぐに覚えた。
「まきちゃん」
「かわいい」
「大好き」
だが、何気なく話している“言葉”に興味を持つのか、とんでもない言葉も覚えた。
「くさい」
「よっこいしょ」
「うんこ」
どれも、教えてはいない。
夫と私の会話や私たち夫婦と遊んでいて、ちび君に発見される言葉だった。
しかも、その言葉を駆使して、会話に入ってくる。
「まきちゃん、かわいい」
これは、許せる。
「まきちゃん、くさい」
なんとか許せる。
「まきちゃん、うんこ」
もう、捕まえてお仕置きしたいレベルだが、首を傾け見上げる姿が愛らしく
「どうしたの?僕は何か言った?」
とでも言いたげに、じっとこちらを見てくる。
叱られないのをわかっているようだった。
ずるい鳥だ。
愛おしい。
子どものいない私たち夫婦にとって、ちび君はわが子も同然だった。
 
ちび君は、8歳になった頃、人間でいうところの
胃がんになり、あっけなくこの世を去ってしまった。
 
最後の日、ちび君は、私の父が見送った。
私の父は、不思議なことに、ちび君と関わる家族の中で、一番ちび君を嫌っている人物だった。
父以外は、みんな出かけていて、たまたま“その場”に居合わせてしまったのだ。
状態が悪くなり、ケージの底で、バタバタと苦しそうに暴れている鳥を見て、慌てて出かけている私に電話をかけてきた。
「鳥が……死にそうだ……あ、死んだ……」
どうしてよいのかわからず、声が動揺している。
「かわいそうに」と鼻声で、何度もつぶやいている。
嫌っていたとはいえ、生き物の最後を見送るのはしんどい事だったようで、
なかなか電話を切らないまま、「かわいそう」「かわいそう」と何度もつぶやいていた。
それは、
「どうして、最後が俺なんだ。どうして、親代わりのお前たちじゃないんだ」
と言わんばかりで、最後を押し付けられた“怒り”を、私にぶつけているようだった。
 
それから、1年ほどした5月の新緑の季節。
甲突川という川沿いの公園で、花や木を販売する“木市”がひらかれていた。
そこでは、花や木だけでなく、鳥の販売もあり、セキセイインコも売られていた。
たまたま、通りがかった私たち夫婦は、そこで、死んだ“ちび君”にそっくりな子を見つけてしまい、釘付けになった。そして、すぐに購入して、飼うことにした。
名前も“ちび”にした。
本当にそっくりで、違ったのは、メスで、とてもおとなしかった。
買ってすぐ両親に見せたくて、実家に連れて行った。
なぜか、父が、
「置いていけ」
と言い、両親が飼うことになった。
 
不思議と、ちびは両親に、特に父に懐いた。
父は、“鳥”を嫌っていたとは思えないほど、ちびを可愛がっていた。
ちびは、一日のほとんどを、居間にある電気のひもに取り付けられた、アーチ型の止まり木にとまり過ごした。
下に降りるでもなく、自分のケージに帰るでもなく、一日をそこで過ごし、両親と一緒にテレビを見て過ごしていた。
今まで飼った鳥の中でも異常な程、じっとしていた。
動き回る鳥は、慣れた人でないと、踏みつぶしたり、飛んで外へ逃がしてしまったりと事故が多い。だから、鳥を飼ったことのない両親にとって、じっとしているのは、好都合だった。
まるで、両親に飼われるために生まれてきたようだった。
おしゃべりは、しない鳥だったが、時折、テレビから流れる演歌に合わせ、
「ぴぃーぴぃー」
とご機嫌に歌ったりした。
また、あるときは、時代劇の格闘シーンで、自分も暴れたくなったのか、バサバサと羽をはばたかせ、止まり木をブランコのように揺らし、楽しそうに過ごしていた。
父も母も、まるでわが子のように可愛がっていて、とても幸せそうだった。
それは、ちびも同じようだった。
 
そのちびも、4歳でこの世を去ってしまった。
父がその死を一番に悲しんだ。
あんな小さなボディなのに、父にとっては、とても大きな存在だった。
 
父は、もう、セキセイインコは飼わなくなったが、
今では、庭に来る鳥に、餌を与えるほど鳥好きになった。
でも、来る鳥は、カラスでも、メジロでも、スズメでも
“しろ”と呼んでいる。
確かに、ちびは白かった。
 
動物の愛は、直球で純粋。
だから、とても、癒され、満たされるのだ。
そして、自分も愛される存在なのだと、気づかせてくれる。
 
私は思う。
ちびは、絶対に私たちの飼っていた、ちび君の生まれ変わり。
父のことを、「この人(父)なら、僕のことを嫌っているから死ぬとこ見せても平気だな」
と思って、見送ってもらったら、思いのほか落ち込んでしまった。だから、慌てて見送ってもらったお礼に、幸せな体験をさせようと、愛を伝えようとお空から降りてきたんだって。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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