『小公女セーラ』の未来を勝手に考える
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記事:山本三景(ライティング・ゼミ12月コース)
「酒を買って、つまみを食べながら『小公女セーラ』をみる」
そんなLINEが金曜日の夜に友人から送られてきた。
『小公女セーラ』とは、まだテレビに勢いがある1985年に、『世界名作劇場』としてフジテレビで放送されていた子ども向けアニメである。
アメリカの児童文学作家であるフランシス・ホジソン・バーネットが書いた19世紀のイギリスを舞台にした『小公女』という小説が原作だ。
友人が契約している動画配信サービスでは、『世界名作劇場』のアニメが2月1日より配信になったそうで、見放題ということだ。
うらやましい限りだ。
『赤毛のアン』や『若草物語』などの海外の児童文学が原作のアニメが見放題なんて!
私が加入している動画配信サービスでは配信されていないので、本気で契約を切り替えようかと悩んでいる。
『小公女セーラ』は、上流階級の家庭で何不自由なく育ったセーラというイギリス人の少女が主人公だ。
父親が友人とインドでダイヤモンド鉱山の事業をしていて、莫大な資産を持つ超お金持ちのお嬢様なのである。
舞台が19世紀のイギリスということで、当時、イギリスの植民地支配下にあったインドとの関係もあり、セーラはインドからロンドンにある『ミンチン女学院』という寄宿舎へ7歳のときにやってくる。
なにせ、寄付金額が半端ないため、学院長のミンチン先生をはじめとする大人たちは、セーラを特別扱いする。
ミンチン先生の媚びへつらいに、この時代のイギリスの階級社会を垣間見ることができる。
順風満帆にみえる物語の出だしだが、友人いわく、その他の子どもたちが
「なんでセーラだけ? 贔屓よ!」
と、冒頭から後々のいじめにつながる作りになっているとのこと。
ジェットコースターの、あの乗り始めの段階に似ている。
ジェットコースターは徐々にのぼっていって、高さは最高潮をむかえる。
セーラが11歳の誕生日パーティーのときに、父親が事業に失敗して、突然亡くなってしまう。
そう、セーラの乗っていた人生のジェットコースターは急降下だ。
そして友人からLINE。
「ミンチン先生、こんな子どもに酷すぎる……」
セーラの父親が亡くなってからのミンチン先生の「愛憎の変」がえげつないのだ。
可愛さ余って憎さ百倍だ。
セーラは屋根裏部屋に移されて、学院では使用人として無賃金でこき使われる。
食べ物もろくに食べさせてもらえずに朝早くから夜遅くまで働かされる。
ミンチン先生やまわりの使用人だけでなく、同じ学院の女の子にも執拗ないじめをされるのである。
もう「可哀そう」が過ぎるのだ。
暗いアニメではある。
しかし、セーラはそんな自分の境遇を呪うことなく、健気ですごく良い子なのだ。
もう、人格者だ。
どんなに使用人の労働が過酷であっても愚痴も言わない。
いや、「愚痴を言う」という概念がないのだと思う。
「天使ですか?」というぐらい、心の真っ白な少女なのである。
もう少し子どもらしくあってもいいのに……と思う。
友人から、逐一LINEで感想が送られてくるので、遠い昔にみた、私の記憶の中の『小公女セーラ』の引き出しがひらいていく。
全46話のうち、ほぼ大半が辛い話であるが、最後はハッピーエンドである。
ちゃんとセーラを光の方へ導いてくれる人が現れる。
最後は爽快だ。
ふと、会社の人たちと飲んだときのことを思い出した。
会社の人が集まると、誰かの噂話や仕事の愚痴の話になるものだ。
ある人が言った。
「あの人、苦手なんだよね。なんか怖い」
そして、その人は続けてこう言った。
「あの人は愚痴をまったく言わないから何を考えているかわかんない。腹の中がみえないから怖い」
そうか。
妙に納得してしまった。
悪口を言う人の傍には寄りたくない。
愚痴をあまり言い過ぎる人も嫌われる。
しかし、愚痴をまったく言わないのも、腹を割って話していないと思われることがあるのだ。
そんな昔の会話を思い出していた。
「親密になるのは同じ何かを共有するのが早道である」
友人からのLINEである。
心が綺麗すぎるセーラに、本当の友達ができないのではないかと私は心配になってしまった。
きっとセーラは心が綺麗なまま、成長するだろう。
何も悪くないのに、逆に空気読めないと思われないか……
ご近所づきあいとか、大丈夫か……
友人の感想から始まったLINEは、いつの間にか私の「セーラの未来についての不安」に変わっていた。
「セーラ、ご近所づきあいできない気がする」
そんな私の言葉に友人は言う。
「お手伝いさんがやりますから」
「あまりに人格者だと、空気が違いすぎてママ友とうまくやれない気がする」
そんな私の言葉に友人は言う。
「乳母がやりますから」
「セーラは決して人のことを悪く言わない。旦那にひどいことをされないだろうか」
そんな私の言葉に友人は言う。
「セーラはきっと心の清い富豪の御曹司と結ばれるよ」
「きっとセーラは回覧板を回してもらえない!」
そんな私の言葉に友人は言う。
「どこまでも昭和庶民の考えから足を洗えない!」と。
こうして、私たちの不毛なLINEのやり取りは夜を越えていった。
***
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