メディアグランプリ

内緒の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:玉置裕香(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
私は幸せだった。あなたが側にいて、笑っていた。
あなたの背中を見送りながら、待ってと声をかけた。
そこで夢から醒めた。
現実か夢かわからなかった。
涙が流れていた。幸せなときは終わったんだ、と思った。
現実に戻った。
「ピ――――――――――」
ずっと機械の音が鳴り響く。心電図モニターの音。
眠りから覚めても私の鼓動は遅かった。徐脈を知らせるアラームがうるさかった。
 
10年前、初めて会った時からかっこよかった。憧れの先輩であった。
上司からの信頼も厚かった。任された仕事はきっちりこなした。
後輩への指示も的確で、わかりやすく、早い。話は面白くて、とても優しかった。
私が遅刻をして上司に怒られても、私の代わりに謝ってくれた。
そんな先輩に惚れないわけがない。
仲間で飲みに行っては、率先して羽目を外し、盛り上げる。ちゃんと上司も立てるのだ。
男女問わず人気だったのはもちろんだ。
そんな先輩も悪い癖があった。女癖。
英雄は色を好むのか。飲むと女性を口説こうとした。
羨ましいな、そんな風に横目で何度見ただろう。
 
職場が変わり、会うことはほとんどなくなった。
でもあの時のかっこよかった先輩は忘れられなかった。
1年に1度か2度。顔を見られればテンションは上がった。
カッコよく、一流になれ。
そんな言葉をかけられると嬉しかった。仕事への情熱は増していく。
おかげさまで、仕事に没頭して恋愛脳を置き去りにした。8年もの時間が過ぎていった。
 
偶然だった。セミナーで会った。
「このあと、近くで飲みに行くか」
そう先輩から声をかけられて、行かないわけがない。
「行きます!」即答だった。
その日はどうしたのか。かなり酔っぱらっていたと思う。
いつの間にかキスをしていた。一度の過ちを犯したのだった。
 
1ヶ月が経過した。何か体調が変だな。食欲が止まらない。
ふと気付くと生理が遅れていた。
もしや…妊娠検査薬で調べるとビンゴだった。
私は嬉しかった。産みたい。そう思った。
シングルマザーで子育てをしている友達に相談した。なんとかなる、そう思っていた。
でも現実は厳しかった。
 
両親に出産の希望を話しに行く日。私は赤い車に乗っていた。ガソリンを入れ、さあいくぞ、と思ったら後ろからドーン。車がぶつかってきた。とっさにお腹をかばった。
車の後ろがかなり凹んでいた。あーあ、ついてない。不吉な予感しかしなかった。
案の定、実家では大反対をくらった。
「未婚」の壁はとてつもなく厚い。そして冷たい。
両親の目は世間よりもずっと冷たかった。
悲しかった。ずっと泣いていた。
私だけでなく、子供を否定されるのはつらかった。それでも産みたかった。
ぶつけられた車は、いいきっかけと思った。チャイルドシートが乗れる、大きな車にした。
でも非難の毎日は続いた。電話やメール、直接家に着てすぐに始末をしろと言われた。
気分はジェットコースターのようにアップダウンした。
夜は友達に電話をし、励ましてもらいながらも、夜中は泣きじゃくる。
どうしていいかわからない。もう疲弊していた。
 
安全に子供をおろすリミットも迫る。
そんなとき先輩から長いメールが届いた。できれば私の将来のことを考えて、決断をしてほしい。そんな内容だった。
ずるい、と思った。私にはあなたとの嬉しかった記録すら持てないのだろうか。
私は泣きながら、決断を下した。
こんな弱い私では無理だ……
 
 
2年の月日が経った。あの時の記憶は遠く、本当にあったのだろうかとふと思う。
私は秘密の箱を開ける。
そこには白黒の写真。中には〇月△日。虫のように小さく、白い。サイズ9mm。
本当にいたんだな。今もしこの世にいたら…
見たら涙が止まらない。後悔はではない。寂しさ、虚しさ。そして自分への無力さ。
私はそっと箱を閉じる。
 
 
私は夢を見た。
あなたの夢を。楽しく飲んだ後に、あなたの背中を見ながらお別れをしていた。
またいつか会いましょう。
手を振っていた。そこで目が醒めた。外が明るかった。
現実に引き戻された。なんでこんな日にあなたの夢を見たのだろう。
ああ、そうか。
今日は2年前に購入した車を手放すのだ。そのために実家に戻ってきたのだ。
長かった。私は自分の気持ちに決着をつけるのにこんなにも時間がかかったのだ。
 
私は高速道路を運転する。車の中ではいつもラジオを聴いている。
懐かしの音楽が流れきた。ガンズ・アンド・ローゼス。Sweet Child O‘ mine。
その後に、こんなコーナーがあった。
あなたの内緒の話を送ってください。
春休みになると、お子さんも聞くかもしれないので、誰にも言えない話を…いまのうちに
 
 
 
 
***
 
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2022-03-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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