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卒業式でもらった手紙


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記事:牧 奈穂 (ライティング・ゼミ12月コース)
 
 
春を感じる、暖かな卒業式……
 
3年前の入学式は、冬に戻ったかのような、冷たい雨の降る日に行われた。中学受験で不合格だった、息子の傷ついた心を表したような、雨のスタートだった。
 
そして3年が経ち、卒業式を迎える今、世の中は大きく変わった。コロナ禍で、学校にまともに行くことさえできない。
 
当たり前だった、盛大な卒業式はなくなり、保護者の拍手のみで、体育館に入ってくる息子達を迎える。先生を先頭に、息子達は、ゆっくりとした足取りで入ってきた。3年前の入学式も、同じ担任の先生だった。3年前の光景と重なり、胸に迫るものがある。
 
あっという間に3年が過ぎたような気がする。
傷ついた息子は、反抗期の真っ只中だった。二人で暮らす私達は、親子喧嘩をしたら、止めに入る人はいない。息子は、夜中に家を飛び出し、私は、何度となく車で探しに行ったこともある。
 
そして、大変だった反抗期の嵐が少し落ち着くと、受験勉強が始まった。3年間心に秘めていた、「今度こそ負けない」という気持ちを抱え、1日10時間近くの猛勉強をした。だが、結果は不合格……そして、今、最後に受けた高校の入試結果を待っている状態だ。
 
そんな3年間の息子の姿を思い浮かべながら、在校生の送辞を聞いていた。
 
卒業式は、とてもシンプルで、小さなもので終わった。だが、卒業式の盛大さより、「この3年間をどう生きたか」が、ずっと重要だ。
 
卒業式が終わり、保護者は、体育館で子供達を待つように言われた。その間に、先生から渡されたものは、子供達からの手紙だった。
 
息子からの、その手紙には、
「小学校6年間よりも、ハードで楽しく、濃い生活だった……」
と書かれていた。
 
「この3年間で、いちばん学んだことは、「負け」だったと思う。この中学時代に、「人として勝てない人」、「どんなに頑張っても勝てないこと」に触れていく中で、僕自身の「勝ちたい」という欲が削がれていった気がする。そして、「ありのままの自分でいたい」という気持ちをようやく感じることができるようになったよ」
 
手紙に綴られる、その言葉が、卒業式での姿より、一番感動的だった。3年間で、息子なりに、一歩一歩前に進んでいる。
 
最後の入試に「勝つ」ことで、不合格だった挫折感を乗り越えることが、3年間の息子の目標だった。今度こそ、勉強から逃げない……そう言って、言葉通りの努力を見せたと思う。だから、不合格だった時は、本気で頑張っただけに、心が折れ、魂が抜けたようになってしまったが、その先に見えたものは、「勝つことの素晴らしさ」ではなく、「自分らしくあることの大切さ」だったのだろう。
 
息子とうちに帰って、お昼を食べながら、
「いい手紙だったね。すごく嬉しかったよ」
と話した。
 
すると息子は、
「「負ける」ってさ、学ぶことがたくさんだよね。「勝ち」からは、あまり学べないんだよ。だからさ、うまく行っていた1年、2年の記憶って、あまりない気がするんだ」
そう話し出した。
 
3年生になり、運動会、合唱コンクールのピアノの伴奏、入試……負け続けた息子は、見た目は失敗だらけ……パッとしなかったかもしれないが、負けから見えた世界が、息子に何かを伝えたのだろう。
 
手紙の最後には、
「桜の花びらが散るように、僕も美しく生きていきます」
と締めくくられていた。人に喜びを与えるかのように、華やかに咲いて、潔く散る。私は桜が好きだ。桜のように生きたい、と息子にも話している言葉が、伝わったのかもしれない。
 
挫折感にもがきながら、さらに負けを知り、息子なりに出会ったものは、「ありのままの自分を認めること」だったのだろう。
 
3年間、様々な挑戦をした息子は、きっとまた、新しい世界で、新しい挑戦をして生きていくだろう。
 
人生は、チャレンジで開ける。
失敗するかもしれない……と不安もあるかもしれない。だが、きっと、チャレンジしたその先に、知らなかった世界があるはずだ。
 
何かをチャレンジした先に、見えるもの……それは、結果ではなく、その時に生じた自分の感情なのだろう。その感情が、自分の価値を作り上げていく。
 
息子は、これから、誰と出会い、何をして、どんな感情に出会って行くのだろう。心配するのではなく、引き止めるのではなく、私はいつも応援していきたい。
 
そして、私も息子に負けないくらい、チャレンジして行こう。
 
反抗期の中、挫折をして傷ついた心からスタートした息子は、この3年間の中で、「自分」を見つけ、暖かな春を迎えている。
 
望みを叶え、何かを成し得たからではなく、「自分は素晴らしい存在なんだ。ありのままでいいんだ」と気づけたからだろう。
 
いい3年間だったね……
息子にそう伝えたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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