メディアグランプリ

私のすねには、傷がある


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤崎奏(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「すねに傷持つ者」という言葉を聞いたことがあるだろうか。辞書を引くと、「人に知られたくないやましい事や、うしろめたい過去がある者」とある。
私のすねには、傷がある。物理的に。
 
それは、大きな低温やけどの跡だ。
ある2月の寒い日、入社して初めて取引先との会食というものを経験した。だいぶ飲んだのだが緊張で全く酔いが回らなかった私は、帰宅後も冷静な頭で考えていた。「今日は冷える。湯たんぽを布団にいれよう」そしてお湯を沸かし、湯たんぽを足元に設置し、酒の力で爆睡した。
翌日の土曜日、右のすねにぴりぴりと違和感を感じて目が覚めた。触ってみると、ぷくっと膨れている感触がある。「なんだこれ……」うとうとしながらすねを見た私の二日酔いは、一気に吹き飛んだ。
卵の黄身が、すねにのっている。しかもかなり新鮮でプリッとしているやつ。
そう、卵の黄身大の水泡が足にできていたのだ。
「低温やけどだねー」……慌てて駆け込んだ私の動揺をよそに、皮膚科の先生はのんびり言った。どうやら「湯たんぽ×深酒=低温やけど」という公式は、冬の皮膚科ではあるあるらしい。しかし私にとっては一大事だ。恐る恐る、「あの……これって跡とか残るやつですかね……」と聞いてみた。水泡をつぶさなければ大丈夫、とのことだったので一安心。この卵の黄身を守り抜くぞ!! と固く心に誓った。のだが。翌々日、あっけなく黄身はつぶれた。会社に遅刻しそうで焦って乗った自転車のペダルが空振りし、右すねに直撃したのだ。アーメン。
 
かくして私は、「すねに傷持つ者」になった。皮膚移植をしなければ跡は消えないらしい。週明け、同じ会食に同席していた上司に報告したら「俺が飲ませ過ぎたせいか……」と頭を抱えていた。
だが幸か不幸か、私は身体に残る傷を憂うほどデリケートな女ではない。すねに傷持つ者としての烙印を押されたからには、やましさやうしろめたさを抱えて生きる権利がある! と、運命を都合よく解釈している。
 
 
思えば私は、昔からよく小さな嘘をつく。嘘と言うか、「それ、誰トク?」という隠し事が多いのだ。小学校の頃はクラシックバレエを習っていることを友達に隠していたし、中学校で演劇部の部長をしていたことはいまだに周囲に隠している。
なぜそんなに「やましい」「うしろめたい」と感じてしまうのだろう。大した事ではないと頭ではわかっているのに。
 
 
私のやましさが、どれ程大した事ないかをお伝えするために、私の一番の黒歴史をここでさらしてみようと思う。
 
私は高校1年生の秋口から2年生になるまで、学ランを着て学校生活を送っていた。痛すぎる。今の知り合いには絶対知られたくないし、高校時代の友達の記憶からも消し去って欲しい。ちなみにLGBTとは関係ない。
なぜそんなことになったかというと、確かそのころ、髪をベリーショートにしたのだ。別に罰ゲームとかではなく、美容院へ行って「短くしてください」「もっと短く!」と自分でオーダーをした。なぜベリーショートにしたかったのかは覚えていない。
そして、週明けには激しく後悔した。その髪型に女子高生の制服はあまりにもミスマッチで不格好に見えて途方に暮れたのだ。初日は何とか学校に行ったが、制服を着ているのが嫌すぎてずっと泣きそうだった。そして「明日からもう学校に来ないかも……」と、当時付き合っていた2つ上の先輩に話したのである。恋人が突然ベリーショートにしたことを面白がっていた先輩は、理由を聞き、彼には小さくなった学ランを私にくれた。「上にこれ着てればいいんじゃない? 制服だから違反にならないし」私はそれに乗った。
ベリーショートにした上に学ランを着始めた私に、クラスメイトは何も言わなかった。笑いものにもならなかったし、陰口もたたかれなかった。もともと制服こそあれ自由な校風だったし、優しい子が多い学校だったので、私は安心して学ラン姿で生活した。
ただ、一度だけ母親が学校に呼び出されたことがあるらしい。「娘さん、教室で男子の制服を着ています」と。私は学校で学ランに着替えていたので、母はこのことを知らなかった。でも母は「そうですか。それで、誰かに迷惑を掛けていますか?」と涼しい顔で返したらしい。困った担任が「いえ……それは別に……」と口ごもったのをいいことに、「では、何も問題ありませんね。そのままにしておいてください」と答えて帰ってきた母。私はこのことを、高校を卒業してだいぶ経ってから知った。
髪が伸び、卒業した先輩と何となく別れてしまってからは、学ランも着なくなった。
今思えば、ベリーショートJKよりも学ランJKの方が確実に悪目立ちする。もしかしたら、単に彼氏の制服を着ていたいバカップルに見えていたかもしれない。だとしたら相当恥ずかしい。でも、自分の美学みたいなものをどうしても曲げられなかった私の黒歴史。痛すぎる若気の至りだ。
 
以上、平凡な私の人生の黒歴史なんて、所詮こんなもんだ。他人が聞いても「へえー」で終わるくらいには些細な話。
 
 
なぜ些細なことにやましさを感じてしまうのか。自分のことなのにやっぱりよくわからない。
でも、高校時代の黒歴史を振り返ってわかったこともある。それは、たくさんの人に守られていたんだなぁということ。家族、彼氏、友人たち。封印した黒歴史の中に埋もれていた愛を、今更ながら拾い上げた。
 
 
私のすねには、傷がある。目立つところに烙印を押され、私は今日も堂々と、小さな「やましい事」や「うしろめたい過去」を抱えて生きていく。でも、せめてやましさから目をそらさないようにしよう。そこに埋まっている愛を見失わないようにしよう。それがきっと、すねに傷持つ者としての生き様だ。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事