メディアグランプリ

同期の相棒が亡くなって、どう想っているのだろう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山田THX将治(天狼院・書塾)
 
 
先日の3月18日、俳優の宝田明さん逝去の報が流れた。
ニュースでは、既に14日に息を引き取っていたとのことだった。
87歳という享年から、亡くなっても不思議はないと知りつつも、私は、宝田さんの死に驚いた。何故なら、亡くなった報の少し前、出演した映画の舞台挨拶に立たれていたからだ。
車いすでの登場ではあったが、挨拶をされたのは3月10日のことだった。
 
 
宝田明さんは、1934(昭和9)年生まれ。丁度、私の両親と同い年だ。
旧・満州で誕生し、戦後の混乱期に命からがら日本に戻ったという話を、私は何度も耳にしていた。そこで聞かれた話は、両親から聞く戦争時の話よりも、切迫感があったものだ。
宝田さんは、御自分の戦争体験からか一貫して“反戦”“平和”の姿勢を貫いていた。3月10日の舞台挨拶でも、丁度77年前の当日である『東京大空襲』の話や、昨今の東ヨーロッパのことに言及されていたという。
それより、死の僅か4日前というのに、大衆の前に顔を出すという俳優としてのプロ魂には頭が下がる思いがした。
それが例え、車いす姿であろうとも。
 
宝田明さんは、映画界で当時制度化されていた新人システム『ニューフェイス』で、東宝からデビューしている。宝田さんは、第6期東宝ニューフェイスだ。昭和一桁の生まれとしては極めて長身(183cm)で、ハンサムな顔立ちで人気を得た。
ただし、当時としては無類の長身だったが為に、困ったこともあったそうだ。それは、若い時分の映画撮影時のこと、宝田さんはロケ先のアクシデントで、脚を複雑骨折してしまった。緊急に手術が必要だったが、ロケ先の地方のこと、長身の宝田さんを乗せるベッドが用意出来なかったそうだ。
仕方なく、二台のベッドを繋いで、何とか手術出来たそうだ。そのことを宝田氏は、
「あの時、病院の医師に機転に感謝しています。こうして現在歩けるのも、ベッドを繋いでくれた医師の御蔭です」
と、インタビューで仰っていた。
 
 
御若い方は御存知無いと思うが、宝田明さんは、少々残念な映画俳優だ。それは、黒澤明監督や小津安二郎監督といった巨匠・名匠との接点が少なく、代表作と呼べる作品が無いことだ。
強いて代表作とするならば、主演デビュー作品の『ゴジラ』(1954年)ということに為るだろう。
私の記憶でも、宝田さんは主に舞台で活躍(多くの東宝系ミュージカルに出演)されている俳優という認識だった。テレビドラマも、たまに重要な脇役として出演するも、代表作と呼べる程ではなかった。
 
ただ、1991年にフジテレビの深夜枠で放映された『アメリカの夜』というバラエティー番組は大変印象深かった。
『アメリカの夜』は、同名の映画も有るが、ライティングを落として夜間シーンを昼間撮影するという映画界での用語のことだ。
番組では、映画界の用語を毎回、初心者にも解り易く解説する構成に為っていた。取り上げられたのは『カットイン』『フェードアウト』や『ワイプ』といった、一度は耳にしたことが有る用語ばかりだった。
宝田明さんは、同番組のMCとして、舞台で演技する様に務められていた。その姿はまるで、歳を重ねるのならこう在りたいと思わせる、実に恰好良い紳士だった。
これは正に、宝田明さんの真骨頂だった。
 
 
私は、実は一度だけ生で、しかも間近で宝田明さんに御逢いしたことが有る。しかも、ほんの少しだが会話したこともある。
それは、20年程前のこと、川崎の岡本太郎美術館で開催された、戦後の機械や道具に関する展示会のオープニングパーティーだった。セレモニーが始まる前、私が興味津々で初期型の電気洗濯機の観ていると、頭上後方から、
「懐かしいなぁ」
と、聞き覚えがある声が聞こえていたのだ。
宝田明さんの声だった。私は恐る恐る、
「宝田さんも御使いでしたか?」
と、尋ねてみた。
「いや、買えたのは映画で稼げる様に為ってからですね」
と、宝田さんは遥かに高い位置から、笑顔で答えて下さった。
 
オープニングセレモニーでの宝田明さんの挨拶も、忘れ得ぬものだった。
開催場所が東宝撮影所や円谷プロダクションと程近いこともあり、セレモニーには宝田明さんと共にゴジラ(勿論、着ぐるみ)が登場していた。
宝田さんの挨拶中、ゴジラが飽きた様な素振りをすると、
「少しは、大人しくしなさい!」
と、宝田さんはゴジラを一喝した。
済まなそうにするゴジラを見て、
「実は、彼(ゴジラ)とは、東宝ニューフェイスの同期です。長い同級なので、気易くしてしまいました」
と、事情を説明された。続けて、
「彼は同期の出世頭です。何しろ、アメリカまで進出しているのですから。私は、ゴジラと同期であることを誇りにしています」
と、挨拶された。
事実、東宝のニューフェイス一覧には、第6期生として宝田明さんと共にゴジラも名を連ねている。
 
 
私は、宝田明さんの急逝を知った時、真っ先にこう思ってしまった。
『これで、東宝ニューフェイス第6期は、ゴジラしか残っていないな』と。
 
更に、
『これから先、同期の相棒無しにゴジラはどうしてゆくのだろう』とも考えた。
 
 
そして今、ゴジラにはこう思っている。
残された唯一のニューフェイスとして、同級生の分まで活躍し続けて欲しいと。
 
 
思わず私は、ラックから『ゴジラ』のDVDを取り出した。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~21:00
TEL:029-897-3325



2022-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事