メディアグランプリ

キャバクラで失った先に見つけたもの


202*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:園田 美穂(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
「ねえ! どうするの?」
 
鈴虫の鳴き声がする街頭の下で、友達に決断を迫られていた。地味な私には一生無縁、もはや恐怖だとさえ思っていた夜の世界『キャバクラ』。それなのに今、そこに足を踏み入れようとしている私がいる。
 
「もう、5秒以内に決めて! 5・4・3・2・1……」
 
「行く!! 行くよ行く!!!」
 
気付いたらそう答えていた。
 
「とりあえず、あそこのボックス席ついてもらえる?」
 
週末の忙しい時間帯。『とにかく楽しく話せたらいい』とだけ告げられた私は、店に着いてすぐにお客さんの隣に座った。その人は何の知識もない私に、お酒の作り方、タバコの火の付け方、灰皿の変え方など丁寧に教えてくれた。そんな優しいお客さんのお陰で、その日はなんとか乗り越えることができた。
 
その帰り、店のオーナーに呼ばれた。今日はどうだったか? 続けられそうか? そんな話をされた。生活がギリギリだったので、少し不安を抱きながらも「頑張ります」そう、答えた。
 
出勤中は、待機していたソファー席から働く女の子たちを観察していた。綺麗に整った顔立ち、くびれのある体、すらっと伸びた足。見れば見るほど、完全に場違いだということを自覚させられる。タバコの火をつけたライターだって、みんなのように色気ある胸元に収めることは、どう頑張っても不可能だった。
 
こうなったら、キャラ推しでいくしかない。そう思いキャラ作りに奮闘し、どんな席でも馬鹿を演じた。自分を底の底まで落とした。席がしらけているとき時は、携帯電話に書き留めていた自虐ネタを披露した。「まじ、ばかすぎじゃん!」これが私の役割だった。ここで働くにはこうする他なかった。
 
そんなある日店の女の子と話していると、店内の空気が少し変わった気がした。ふと入り口を見ると、セカンドバックを持った40代くらいの男性が立っている。それに気付いたオーナーがあわてて会釈をし、VIPルームへ通した。その個室には、代わる代わる女の子がつかされた。そして私の番になった時、オーナーにこう耳打ちをされた。
 
「この人、この辺で飲み歩く社長で有名なんよ。気に入った女の子がいたら金かなり使うから、頑張って掴んで! ベタベタされるの好きだから頼むな」
 
やるしかなかった。半ばヤケクソだった。目の前にあるお酒の入ったグラスを手に取り、一気飲みした。なるべく近い距離で会話をした。灰皿を替えながら、さりげなく手に触れた。そして、気づけば指名がもらえていた。それを見てオーナーからは「よくやった」と言葉をかけてもらい、ここで働くことを認めてもらえた気がした。
 
売り上げはどんどん伸びて行った。社長の接待で指名されることが増え、シャンパンの開く音が何度も響き渡った。一人で何十万というお金を使ってくれる人もいた。気づけば店の中で、一番売り上げがあがるようになっていた。給料もどんどん上がっていった。そして女の子からも、こう聞かれ始めた。「ねえ、どうやって売り上げ上げてるの?」
 
「心殺してます」
 
その答えしか見つからなかった。
 
そんなことを続けているうちに、お金に対する感覚は麻痺していった。この人からお金を出させるにはどうしたらいいだろう。そんなことさえ考え始めていた。人がお金にしか見えなくなっていた。自分のことも嫌いになっていった。心もどんどん壊れていった。「もう辞めたいです」気付いたらそうオーナーに言っていた。
 
そこから新しい仕事を探す為に求人サイトを見ていた。掲載されている時給を見て、私は目を疑った。
 
『え、低すぎ』
 
金銭感覚が狂うということは使い方だけではないのだと、その時初めて気が付いた。そしてある一つの求人に出会った。それは訪問型の年配の方に対する生活のサポートだった。時給は1000円。それでも『やってみたい』そう思った。
 
訪問先は、大きな家に住む80代のおばあさんだった。腰は折れ曲がり、膝も事故で曲げづらく、しゃがめなくなっているとのことだった。そのおばあさんに代わり、初日は広い家の掃除をした。お風呂掃除はその体ですることはかなり厳しかったようで、隅々まで綺麗に掃除をした。その最中お風呂の外に異変を感じ、ドアを開けるとなんと目の前が水で溢れていた。おばあさんもその光景を見て慌てていた。急いで部屋の水をお風呂に流して、なんとか水をおさえることができた。洗濯機の排水溝がつまり、水が溢れ出したのが原因だった。
 
「本当にありがとうございます。私一人だったら、もうどしようも出来ませんでした。本当に助かりました」
 
そう、何度も何度もお礼を言われた。なんだか私は嬉しかった。
 
次の日は買い物についてきて欲しいと言われた。荷物を抱えて帰ることが出来なくなってしまったと、おばあさんは言った。外の天気はよく、その日は絶好の買い物日和だった。
 
スーパーに着いて、一緒にたくさん買い物をした。「このいちご美味しそうね」「このお魚、捌いてもらおうかしら」その横顔は少女のようだった。それからお土産屋さんで足を止めたおばあさんは、並べられた和菓子を見つめていた。
 
「これ美味しそうね。いくつかもらいましょうか」
 
そして両手は抱えきれないくらいの荷物になった。あばあさんはとても嬉しそうだった。その帰り道、私にこう話した。
 
「今日は本当にありがとうございました。私今一人で暮らしてるでしょ? 気軽に買い物にも行けなくなってしまったから、こうやって誰かが側にいてくれるだけで安心して外にも出れるんです。本当に助かりました」
 
私は嬉しかった。大袈裟かもしれないが、そこに私の生きる意味さえ感じ始めていた。お金はこんな風に誰かのありがとうの先から生まれていくのかもしれない。そんな温かい働き方をしていきたいと思いながら、温かい風の吹く道を、二人でゆっくり歩いていった。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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