記事:KO格差
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貧困アラサー (ライティング・ゼミ2月コース)
出身大学の30歳時点での想定年収が687万円というネット記事を読んだ。それを知ったときの自分は30歳の無職で、年収は0円。貯金は6桁前半だった。
後輩は腕時計を買いにいったはずなのに、なぜかウイスキーを振る舞われたとSNSにあげていた。別の後輩はデザインの賞を獲得して、界隈ではちょっとした有名人だ。同期は結婚を機に親から都内のマンションをプレゼントされたそうだ。子供が生まれて手狭になったら、また別のマンションを買うらしい。
こういうとき「同じ大学にいたはずなのに、なんでこれほど差が生まれたんだ」と悔しがるのが一般的な感覚なのだろう。だが687万円も差があると、そんなことを考えるのもおこがましかった。自分は何かとてつもない幸運、それこそ人生最大の幸運を使って、なんとか彼らと同じ大学に通えただけの存在なのではないだろうか。そう考えるほうが納得感があった。
その証拠として、私は前職も非正規雇用だ。だから無職になる前は稼いでいたというわけではない。たまたま一緒の講義を受けたよく知らない同期は、起業した会社を売却して無職になっていた。私とは違う無職だ。
ハローワークに行くと、その学歴に合う仕事はないですよと言われ、転職エージェントに会うと、空白期間が長く紹介できる企業がないと言われた。10代のころレールをなぞる人生は嫌だと思っていたが、そもそも敷かれたレールの上を走る能力が自分にはなかったし、今はレールすら見つからない。
どうしてこんなことになったのだろうか。
高校を中退してからしばらくして、どん底だった人生を逆転させるには難関大学に入学するしかないと考えるようになった。いつか読んだ小説に「どうせ他人は最終学歴しか判断しない」と書いてあって、自分も難関大学に入学すれば、その小説のように人生逆転できると信じていた。
塾に行く金銭的余裕はなかったから、参考書をボロボロにするほどひとりで勉強した。つらくなる度、私を見下した奴らの顔を思い出した。必ず見返してやると自分を奮い立たせ、また机に向かった。結果、偏差値72の大学に合格した。
しかし、入学しても思い描いたような人生逆転は起きなかった。
親からの仕送りが、私の父の月収以上の先輩がいた。
有名企業の社長の息子はいつも私に奢ってくれた。
子供部屋が私の実家と同じ広さの友人ができた。
自分の努力ではどうにもできない差を感じた。
そこから目を逸らすように、20代はがむしゃらに働いた。社会に出れば、そんな差なんてすぐに埋まると信じたかった。けれど折りにふれて大学時代の友人に会うたびに、むしろ差が開いていっていることを突きつけられた。どうしてそうなるのかわからなかった。同じ大学を出て、自分の方が長時間働いていて、それなのに給与や仕事内容の差が開いていく。追いつこうと仕事量を増やして、過労で倒れた。そして年収に687万円の差が生まれた。
無職の自分にとって、学歴は足枷でしかなかった。目の前の現実と向き合うべきなのに、常にきらびやかな世界がチラついて邪魔をしてくる。友人に悪いところなんてひとつもないのに、自分との差が辛くて活躍を素直に喜べない。
言語化できない何かが決定的に違っていて、同じ大学に入るだけではそれを埋めることができなかった。それは生まれたときから違っていたものなのかもしれないし、育ってきた環境が原因かもしれない。運の一言で片付けられないほどには、私と彼らは違っていた。そう思おうとした。そのためにこの文章を書いていたのだが、途中で全部自分をごまかすための言い訳だと気づいてしまった。
そう、全部言い訳なのだ。自分と似た境遇から同じ大学に入り、活躍している人もいる。そのような先輩、同期、後輩を複数知っている。奨学金を借りていた後輩も、今は優秀な看護師になっている。自分と一緒に必修単位を落としかけていた同期だって、スポーツメーカーのマーケティングとして流行をしかけている。見えない格差が存在しているなら、彼らだって自分と同じように苦しんでいるはずだ。そうなっていないということは、自分のみじめさは自分によるものだということなのだ。いっそ気づかなければよかったのに、気づかずに毒を吐くエッセイで終われればよかったのに。
出身大学の30歳時点での想定年収が687万円というネット記事を読んだ。読まなければよかったのに読んでしまった。その受け入れ難い格差の原因が、個人ではないどこかにあると信じたくてここまで文章を書いたが、やはり、原因は私にあった。
それは一見救いのない事実に思えるかもしれないが、そうではない。私にしか原因がないのであれば、私が変われば現実も変わるはずである。
マンションを買った同期の家に、コロナが収まったら遊びに行きたい。
後輩のSNSにいいねを押して、センスの良い腕時計をほめたい。
あれほど楽しかった大学生活で得た友人とは、今後もずっと付き合いたい。
だから、この格差を埋めるべく私はがんばるのだ。
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