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生きづらさを抱えた私へ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河野 眞寂(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「彼、結婚するんだってよ。知ってた?」
カビの匂いのする狭い休憩室で、同じ職場の友人にそう聞かれた。
「知らない」
言葉にしようとするけれど、言葉が出なかった。
同じ職場のその“彼”とは、2か月前から付き合っていた。
交際関係があったのだ。
確かにあった……
あまりのショックで、目の前が真っ暗になる。
ゴォーゴォー
古い空調から冷たい風が吹き出されている。
時折、白い冷気が見えている。
古い空調。
壊れてるんだ。
寒い。
それまで、仕事で動き回り熱かった体は、一気に温度を失っていった。
顔がこわばり、青ざめていくのが自分でもわかる。
 
ダマサレタ。
 
二股をかけられた挙句、私は捨てられるのだ。
しかも、その事実を本人からではなく、他人から聞いた。
遊ばれていたのだ……
 
ショックと恥ずかしさと怒り。
色々な感情が、さざ波のように襲ってくる。
体温が、怒りで上がり、ショックで下がる。
コントロールできない!
効きすぎの空調がさらに追い打ちをかけ、意識を失いそうだった。
「戻ります」
ふり絞るように言葉を出すと、休憩室から飛び出した。
そのあとは、仕事をしていたと思う。
記憶があまりない。
その後、“彼”から逃げるように、その職場を去った。
 
私の最初で最後の“最悪の恋愛経験”は、そうやって終わった。
 
それから、幾月か経った頃のことだ。
「きもち悪い」
母の友人の子どもから発せられたその言葉は、私に向かっていた。
「私?」
この子、失礼だな。
眉間にしわを寄せ、私を指さしている。
子どもは、遠慮がない。
少し、いやかなりムッとした。
どこが気持ち悪いんだ!
そう思っていると、今度は、はっきり言われた。
「ガリガリ、がいこつみたい!」
やせている?
私は、見た目が気持ち悪いほどやせている自覚はなかった。
半袖から延びる両腕を、見下ろした。
Tシャツの袖口から延びた腕は、ちゃんとお肉が付いていた。
ちゃんと付いてるじゃん!
しかし、Tシャツの袖口は大きく開いていた。
それは、腕が細くなっている証拠だった。
 
身長は160を超えるのに、体重は、40キロを切っていた。
食事は、7日間で一食分食べていただろうか……。
 
やせているという自覚はほとんどなかった。それが、子供の一言で気付かされたのだ。
 
精神的な落ち込みから、自分の殻に閉じこもり、自分を外から見ることをしていなかった。
食事を食べれていないという“異常”な状態に、自覚がなかった。
 
この事件をきっかけに、私は心療内科を受診する。
 
一番効いたと思うのは、カウンセリングだった。
自分の“状態”を自分で自覚していく過程だった。いわゆる、“俯瞰”だ。
とにかく、外から自分を見るのだ。
生きづらい自分がよく見えた。よく生きていたと思う。
その後、回復した私は、“保健師”という仕事を始めた。この仕事も、私の状態をさらに良くしてくれた。
 
聞きなれない仕事かもしれないが、最近は、ニュースなどで、この仕事を耳にする機会が増えた。保健所や市役所などで、コロナ対応をしていたり、災害時、避難所などに赴き健康状態の確認などを行っている仕事だ。
 
その保健師の仕事の中に、乳幼児健診がある。
 
乳幼児健診では、赤ちゃんが生まれて、三か月から始まって3歳まで定期的に成長・発達を確認していく。
 
そのためには、乳幼児の発達や発達障害について勉強する必要があった。
このことは、自分に思わぬ発見をもたらした。
自分にも強弱はあるが、いわゆる発達の“特性”があるとわかったのだ。
 
私の“特性”として目立つものがある。
・音に敏感。
・色々なものに興味がわくため多動(動きが多い)の状態になりやすい。
・頑固で、物事に対して、切り替えが難しい。
・こだわりが強く、一度こうだと決めたら変えられない。
 
だから失恋しても、ずっとその“人”や“思い”に執着しすぎて、“切り替え”られなかった。
切り替えが難しいから、毎日考え込み、思考にとらわれ、“食事”ができずやせ細ったのだ。
 
乳幼児健診で出会う“特性”のある子どもたちの状態は、自分の“特性”のパズルのピースを合わせるような感覚だった。
 
その後、さらに、凄腕の“心理学者”と出会い、自分の“特性”について知る機会を得た。
そうして、自分の“特性”に合わせて、自分に負担がかからないようにする工夫ができ、生きづらさの解消につながった。
 
たとえば、音に敏感な分、電話や来客に敏感で仕事が手につかないときには、電話は出れそうな人にお願いしたり、窓口から離れた席にしてもらったりした。
他にも、人から言われたことを気にして考え込むことが多かったので、ウォーキングに出て、季節の木や花を見たり、海や風、空や雲などを感じ、思考を逃すようにした。
 
ちょっとした、“変化”だったが、自分には劇的に効果が出た。
 
大事なことは、“自分”の“特性”を知ること。“特性”は、知っても無くならないが、小さくとも自分にできることをやることなのだと思う。
 
今まで、敏感な分、人の視線や感情が気になるので、他人を優先し自分を犠牲にしやすかったが、思い切って自分の“人生”を楽しむことにしたのだ。
 
最近では、“発達障害”も珍しい言葉ではなくなった。
“大人の発達障害”は、YouTubeでもよく目にする。
今でこそ、乳幼児健診などで早めの治療や療育を受けることができたり、知識が広がっていることで、“特性”に対する理解も出てきたが、“特性”がゆえに生きづらさを抱えている人も多いと思う。
 
これまでの経験が、これから関わる“特性”のある人の役に立てばと思う。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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