メディアグランプリ

7年間の呪縛を解いた面接官


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塚本 よしこ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「どうして先生辞めたの?」
33歳の夏、私はある会社の面接を受けていた。
その会社は「若者を正社員にする」という新たな事業を始めるところだった。簡単に言えばハローワークの若者版だ。そこでキャリアコンサルタントの募集があった。若者と面談し企業に紹介する、そんなお仕事だった。
 
中学校の教員を早々に辞めてしまった私は、その後の再就職に苦しんだ。
就職活動の仕方が分からないし、教員はなんの職務経歴にもならなかった。
自分のような人のお手伝いができるかもしれない。
それに、また仕事に情熱を持って取り組みたい! そう思っていた頃だった。
 
1次を通過し、2次試験の面接に名古屋から東京に来ていた。
この面接というのが、不思議な面接だった。
面接官はたった1人。志望動機など定番の質問は一切ない。
「名古屋から来たんだ、私も名古屋」
単身赴任しているというF氏は、最初からフランクで、緊張をさせない。
 
今までの事について、どうして? それで? と、とにかく聞いてくれるのだ。
「あなたはどういう人ですか?」それをずっと問われているようだった。
40分はとうに過ぎていただろう。そろそろ終わりかな、そう思っていた時だった。
 
「どうして先生辞めたのか? 伝わってこない」
えっ……。
首をかしげている。釈然としないようだ。
それは隠したい過去だった。序盤でさらっと通り過ぎた。
面接は順調に進んでいる気がした。それなのに、またその話に戻るなんて。
 
こういうのが背水の陣?
F氏のそれまでの様子から、適当なことを言っても見透かされるだろう。
もう諦めるしかない。
 
いわゆる荒れた学校に赴任した私は、日々向けられる心無い言葉や態度に疲弊していた。
部活の指導では一時期総スカン。近い先生ともうまくいかない。
休みはほぼなく、気分転換も出来なかった。
2年目のある日、出勤途中にクレーン車を見かけると、
「私に落ちてきてくれないかな、学校に行かなくて済む」そう思った。
その時、もはや病んでるなと感じた。
当時、療養休暇はメジャーではなく、無理なら辞めるしか思い浮かばなかった。
 
3度目でやっと合格したのに、生涯安泰と言われていた職業を、いとも簡単に辞めてしまったのだ。しかも就職氷河期だった。20代なりの色んな理由があったが、2年で辞めたことは若気の至りと言ってもよかった。
 
どこまで話したかは覚えてないが、F氏に正直に経緯を伝えた。
「すぐ辞める若者」「続かない若者」そう思われて、もうおしまいだ。
メンタルを病んでいたかもしれないとなれば、なおさらだ。
 
でもF氏は思わぬことを言った。
「寂しかったんだね……」
えっ?
何を言われたのか分からない。ただ、部屋に差す日をぼーっと見つめた。
自分の前に幾重にもあった鎧が溶けていくようだった。
そう、そうだった。どこにも味方がいないと思っていた。孤独だった。
自分では表現できなかったが、正にそうだった。
 
そして、最後の言葉にまたびっくりする。
「この面接は合格!」
結局、最終面接へのアドバイスまで頂いて、帰宅することとなった。
 
すごい人に会ってしまった! すごい面接を受けてしまった!
なんだ、あの深い面接は……。
 
未熟だったけど、あの2年間自分なりに頑張ったのも事実だ。
辞めてから7年間ずっと自分を否定してきた。
「落ちこぼれ」「ダメな奴」そんな呪縛が解けていく。
とにかく嬉しかった。あの人の下で働きたい! あんなに深く人を理解したい!
 
人生の中で「熱狂、情熱」そんな言葉が浮かぶ出来事を教えてください。
そんな質問があったら、皆さんは何と答えるだろう?
私はこの時の、どうしてもこの会社で働きたい! F氏の下で働きたい! そう熱く思った事を思い出す。
 
最終面接は落とす為のものではないと聞いてはいたものの、何の手応えもなく終わった。
居ても立っても居られない。この情熱をどうしたらいいだろう。
私は狂ったように面接の礼状を何回も何枚も書いた。
面接で感動したこと、社会的意義を感じること等を書き綴った。
 
もう何も出来ることがなくなると、奈良の大神神社までお参りに行ったりもした。
「神様、チャンスをください。人生をやり直したい!」
大げさだけど、そんな気持ちだった。
 
待ちに待った郵便が届く。心を無にして開けた。
「採用」
やったぁ! こうして私は30歳を過ぎてから東京デビューすることとなった。
 
キーパーソンF氏との出会い、それはドクターイエローに遭遇したかのようだった。
幸運の兆し。タイミングが合わなければ出会えないし、人生で何度も出会えるものでもない。
それに、あの面接はまさにドクターの治療のようだった。
脱線していた私は、受容してもらったことで息を吹き返したのだ。
 
すぐ辞めるかもしれないリスクがあったのに、どうして合格に?
何年も経ってからF氏に聞いてみた。
「人生いい時ばかり過ごしている人なんて薄っぺらいんだよね」
「そのことをどう捉えて、また前を向けているのかが、人の器に繋がる」
涙が込み上げた。あの時出会えて本当によかった。
辛かった経験が、貴重な財産に変わっていった。
 
お江戸にいざ出陣! 晴れやかな気持ちで引っ越しの準備をしていた。
すると、東京の住所が書かれた白い封筒がいくつも出てきた。
 
実は、何回も書いた礼状は1通も出していなかった。
思いが強すぎるラブレターは振られる確率が高い!
そう思いとどまったのだ。
きっと熱い思いだけは、時空を超えて届いていたに違いない。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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