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人を殺さず、自分が死なないために必要なこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西條みね子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「人を殺さず、自分が死なないために必要なことは何なのか」
 
10年ぶりにハンドルを握りながら、私は考えていた。
何だ、車の話か、と思った方もいるかもしれないが、ペーパードライバーにとっては死活問題だ。実際、車は人を殺すし、自分も死ぬのである。
 
自動車免許を取得してから10年、一度も運転しないまま時が過ぎてしまった。教習所に通っていたときからなんとなく危なっかしく、「運転怖い」としか思えなかった。大学卒業後に上京し、都会の交通量におののいてからは、「運転」は人を殺すか自分が死ぬかのアンタッチャブル領域と化した。
 
都心の発達した交通網にすっかり甘え、車のことを忘れかけていたが、ふとしたきっかけで、ペーパードライバー講習を受けてみようか、という気になった。
大概の講習が3日か4日、と言うことを知ると、俄然、興味がわいてきた。
嘘でしょ?? 今、私、ゼロベースだよ?? 免許を取るときは20日もかかったのに、4日間で運転を覚え、「運転怖い」まで克服できるようになれるものなのだろうか……。
 
興味を持ったときが始めどきである。
早速、「ペーパードライバー講習」で検索する。
あちこちの自動車教習所が講座を開いている。中には、ペーパードライバー専門の会社や、個人で請け負っている人もいる。「女性専門」「特定ルート特訓」「ご自宅出張有り」など、推しポイントもバラエティに富んでおり、ペーパードライバー業界はなかなか賑わっているようだ。
 
読み進めると、若い頃は私と同様、発達した交通網に甘えきり、必要性を感じていなかったが、人生の後半で必要にせまられる人が多いようなのだ。
二大巨頭は「子供の送迎」と「親の介護」である。
介護……。なるほど……。
 
半数以上の講習に、「怖くなくなる」の文字が踊っている。
なんだ、やっぱり、みんな怖いんだな。そうだよねー、とちょっと安心する。
 
さて、どこに頼もう。
自動車教習所でもきっちり基礎を教えてくれるだろうが、私が知りたいのはなんとなく違う気がした。
10年前の記憶が甦る。必要なことを1から10までおさらいしても、出来ないものは出来ない気がする。私が知りたいのは「人を殺さず自分も死なないために重要なことを上から並べた時に、初めの10個は何なのか?!」なのだ。
 
ましてや、4日間しかないのだ。S字カーブなどやっている場合ではない。10年前の仮免許テストで、S字カーブで脱輪した記憶はあるが、よっぽどの農道を走らない限りは、人生で教習レベルのS字カーブにお目見えすることはないだろう。そして、私は農道は走らない。
 
いろいろ物色した結果、ホームページの「実践的に教えます」という言葉と方針から、ある個人の方にお願いすることにした。
何となくこの人は期待に応えてくれそうだ。
 
約束の時間に、講師のおじさんがやってきた。
車種はわからないが、少し車高が高く、私物が転がっており、明らかにおじさんが日常的に使っている私用車である。
 
「とりあえず、運転席に座って座って!」
と、自分は助手席に座ると、鉄製の長い棒の先に、金具が付いたものを取り出した。助手席から手を伸ばして、金具を運転席のブレーキに固定する。
教習車ではないので、助手席にブレーキやハンドルは付いていない。いざとなったら、助手席から棒を押せばブレーキが踏める、という実に原始的な仕組みであった。
ホントにこれでやるの、、と目を白黒させながら運転席に座る私に、
「この棒、特注で作ったんですよー」
とお構いなしに話を続ける。
 
「じゃ、とりあえずゆっくりアクセル踏んでー。そこの角曲がって、住宅地に入りましょうか」
本気ですか! 10年ぶりなんですけど!! と思いながらも、勢いに押されてアクセルを踏む。車はそろそろと動き出した。住宅地の1ブロックを、時速20キロでぐるぐる回り、1時間ほどして右折左折に慣れたところで、
「はい、そしたらそのまままっすぐ進んで、大通りに出てー」
と明るく促す。
ギャーとわめく私を
「大丈夫、大丈夫」
と軽く受け流し、また勢いにつられてアクセルを踏む。通りに出たらもうアクセルを踏まざるを得ない。まわりが速いのだ。
言われるがまま1時間ほど走り回り、初日は終わった。
 
2回目からはいきなり大通りだ。言われるがまま都内を走る。
運転の合間に指摘されることは、確かに実践的だった。
 
「アクセルもブレーキも踏んでいない状態って、車はじわじわと前進するんだよ。何もしなくても進んでくれるの。だから、急いでアクセル踏まなくて良いんだよ」
初心者はブレーキから足を離してすぐに、アクセルを踏まねば!
と焦って踏むので、強く踏みすぎて事故るそうだ。アクセルかブレーキか、の二者択一ではなく、「何も踏んでない時間」があっても良いのだ。これを知るだけで心の余裕ができ、落ち着いてアクセルを踏める。
 
まさに、焦ってアクセルをふかしていた私には、目から鱗だった。
こんなの、教習所では習わなかったよ……。
 
「車線変更するときはね、車体の3分の1が入りたい車線に入ったら、もう終わり。あ、終わった、と思って良いんだよ」
初心者は、入りたい車線に完全に入りきろうとして、頑張ってハンドルを切りすぎてしまうらしい。3分の1入れば、もう終わり。あとは、何となく走っているうちに、自然に車線におさまっている。
 
難なく運転をこなす方には、当たり前すぎてむしろ意識すらしていないかもしれない。が、「運転怖い」の人間はそこのところがわからないのである。
 
標識や交通ルールに関しては、
「黄色い線は、踏んじゃダメだからね!」
だけだった。まさに、1番大事なやつのみである。
 
目から鱗をボタボタ落としながら、4日間の講習は終わった。
そして、私は確かに、運転ができるようになっていたのである。
 
4日間でいくつかのポイントを教わったが、重要なのは「車体を3分の1入れる」といった技術的な点ではなく、
「(3分の1で)終わって良い」
「(アクセルもブレーキも)踏まなくて良い」
という「力の抜きどころ」だったように思う。
思うに、「運転怖い」の人は「やらねば!!」と焦ってしまうのだ。
焦った結果、踏みすぎや切りすぎなど余分な動きをしてしまい、あげくに急発進などして事故につながるのだ。
 
「人も殺さず、自分も死なないために必要なことは、『心の余裕』だったなぁ」
答えがわかって納得した。
 
そして、心の余裕の「作り方」を教えてくれるのがプロなのだ。余裕を持つ、なんて当たり前に聞こえるが、作り方を知らなければ作れない。
「何事にも、プロフェッショナルの世界ってあるんだな」
と感心しながら、会ったときよりも何割か増しの尊敬の念を込めて、ホコリをかぶった車で立ち去っていくおじさんを見送った。
 
 
 
 
***
 
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2022-03-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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