弦楽器なんて弾けっこない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:早川実花(ライティング・ライブ福岡会場)
「さ、お歌歌おっか!」
ピアノのレッスンが15分ほど経過すると先生はいつもそう言った。
小さい頃、私はピアノを習っていた。
ピアノを習っていたが、実質的には歌を習っていた。
それは何故か。本当のところは今でも私にも分からない。
だが、決まって先生は歌を私に歌わせていた。
考えられるのは、私の指が短いことやピアノが下手だったこと。
私がピアノのレッスンに乗り気でなかったこと。
もう一つあるとすれば、私には歌の方が合っていると先生が思っていたこと。
私の見解は……全てだ。
私の手は、小さい。指は短め。
今でもオクターブ(ドからド)にギリギリといったところだ。
スラリと伸びる綺麗で女性的な指を見ると、惚れ惚れするし、羨ましくなる。
「私もこんな手に生まれたかったな……」
今思うと贅沢な悩みなのだが、思春期の頃は本気でこの指を恨めしく思っていた。
小中高と音楽三昧で育った。
小学校ではトロンボーン、中学では合唱、高校では吹奏楽部でファゴットという楽器を弾いた。
ファゴットという楽器は、古い歴史を持つ楽器で、ダブルリードと言って薄い葦が2枚重なった吹き口から息を通して鳴らす。
ここでも指問題が発生した。正式なキー(指位置)では届かないものがあった。
ファゴットは指10本を使う楽器で、指の短い私にはなかなか難しかった。
隠しキーといって、違う指位置だが正式なキーと同じ音が出るものを練習し、なんとか演奏することが出来た。
もちろん指が短いだけではない。
楽器を演奏するセンスに乏かったという自覚もある。
せっかくもらったソロがどんなに練習しても、どうしても弾けなくて、他の低音楽器の先輩に代わりをお願いしたのは今思い出しても苦い思い出だ。
また、高校では楽器を弾いている時間より、歌っている時間の方が長かったのではと思うくらいだ。
吹奏楽部と合唱部を(半ば強制的に)兼部し、合唱部では予期せず副部長になった。
定期演奏会ではミュージカルステージで主役をさせてもらったりして、定期演奏会に近づくと歌の練習の割合は増えていった。
ピアノの先生はやはり私の特性を見抜いていたのかもしれない。
そんな私はずっと弦楽器に憧れていた。
弦楽器こそ、スラリとした指でスマートに弾きこなすもの、という思い込みがどこかで拭いきれず、指が短い私には無理だと決めつけていた。
夫に何かの拍子でポロリと
「弦楽器を一生に一度でいいから弾いてみたいんだよねっ」
と、軽い気持ちで言った。
「ウクレレなら弾けるんじゃない? 楽器も小さいし、気軽に始められるんじゃない?」
夫は私にそう提案してくれた。
そこからしばらく私はウダウダしていた。
弾いてみたいな。いや、でも無理だよ。弾いてみたらいいじゃん。いや、でも……のループを数ヶ月繰り返していた。
夫はそんな私の様子にしびれを切らし、
「よし、誕生日プレゼントはウクレレだな」
そして、我が家にウクレレを迎え入れることになった。
ウクレレにはロングネックといって、指の太い人でも弾けるものがあるのも初めて知った。
もちろん私はロングネックだ。
ウクレレ専門のショップにはスクールも併設され、無料体験レッスンのチケットを貰ったので、先日受講してきた。
た、楽しい……。
弦を押さえて、正しい位置で弾き鳴らすのが精一杯だったが、1時間があっという間で、ウクレレのあまりの楽しさに即入会してしまった。
弦を縦に真っ直ぐ押さえなくてはならない。
誰に言われたわけでも、教わったわけでもないのにそう思い込んでいた。
「ここはちょっと、こう斜めに押さえると楽ですよ〜」
「力を入れずに、指を軽く曲げるといいですよ〜」
真っ直ぐだと一番上の弦に指が届かなかったが、斜めにするとなんとか届く。
「ちびまる子ちゃんのテーマソング」が、「ハッピーバースデー」が、その日のうちに弾けるようになった。
30数年、弦楽器は私には弾けっこない、スラリとした指で器用に弾ける人だけの特別な楽器だと思い込んでいた。
それはとんだ思い込みと先入観だったと、ウクレレを弾いてみて初めて気づいた。
やりようなんていくらでもある。
真っ直ぐじゃなくていい、斜めからでも、曲がっていてもいい。
好きなように弾いたらいい。
また一つ、思い込み、思考のブロックが外れた。
今のところ覚えたコードは4つ。
この4つで「ハッピーバースデー」が弾けるようになった。
3日後に誕生日を迎える義理の姉に弾き語り動画を撮ってプレゼントしてみようか。
びっくりしながら、喜ぶ顔が目に浮かぶ。
***
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