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桜餅食べたい!


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記事:わこ(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
「桜餅好かんから食べんよ!」
小さな私は、桜餅が嫌いだった。
 
桜が満開を終え散り始めるころ、祖母がいつも桜餅を買ってくれた。
祖母からしたら、私が桜餅を好きと思い込んでいたらしく、この季節になると買っていたのだ。
 
九州の桜餅は関西風なので、もちもち触感の「道明寺」を使う。
中に入れる餡は場所によって違うようだが、私のいた宮崎では、粒を少し潰した感じの小豆餡を入れていた。
 
小さな私は、小豆餡も好きではないが、一番嫌いだったのは、塩味のある桜の葉だ。
「一緒に食べろ」などいわれるのは言語道断。まっぴらごめんだった。
 
祖母はこの季節になると毎日のように買ってくるのだが、毎回「あんた好きやろ、はよ食べない」という。ここでいう「食べない」とは「食べなさい」ということだ。
私は毎回「いらんていうがね。桜餅は好かんとよ」と、このやり取りが続くのだ。
 
祖母は、私がいらないというたびに悲しそうな顔をしていた。
なので、3回に1回はしぶしぶ食べることにしていた。
食べるといっても、葉っぱは外す。
べっとりと道明寺についた葉っぱは、なかなか取れない。
5分以上かけて葉っぱを取っていく。
その光景を祖母は見ながら「葉っぱも一緒に食べればいいとに……」というが、私は一緒に食べても、美味しいとは当時全く思わなかったのだ。
毎年このやり取りは続いたが、私が二十歳になった時、祖母が亡くなりその後は、桜餅を食べることはほとんどなくなった。
 
私が30歳くらいの時に、パンを作りたくて教室に通った。
その時に、パン以外のお菓子を先生が教えてくれていた。
「今日のお菓子は桜餅です」と言われ、私は焦った。
「桜餅! 私嫌なんだけどな~」心の声が漏れそうになった。
味だけではなく、あの塩漬けした桜の葉のにおいも嫌だったからだ。
だが、なぜかその時一瞬「桜餅って自分で作れるんだ」そう思った。
 
道明寺、塩漬けした桜の葉、こしあん、少量の砂糖と塩、食紅等、わりと身近にある材料で作れることを知った。
そして、作る工程も意外と簡単で桜餅を作る工程が好きだなと感じた。
 
試食の時間がきた。私は相変わらず桜の葉を外して食べた。
ん? うまい!
道明寺とほんのり甘いこしあんのバランスがめちゃくちゃ良くて思わず声に出してしまった。
何かの間違いか……
一人興奮していた。
 
先生から「2個目は葉っぱも一緒に食べてみて」と言われた。
すかさず「先生! それはできません。桜の葉嫌いなんです。せっかくおいしい桜餅なのに、葉っぱを一緒に食べるなんて!」
私は先生に半分講義するようにいったのだ。
「騙されたと思って食べてみて」先生はあくまでも私に葉っぱ付きの桜餅を食べさせたいらしい。
しぶしぶ2個目は葉っぱ付きの桜餅をパクリ!
目をつむって食べてみた。
 
お? 美味しいかも……
心の中で呟いていたが、すかさず先生は「美味しいでしょ!」と嬉しそうに言った。
どうやら美味しさが私の顔に出ていたらしくニヤけていたようだ。
 
自分で作ったから美味しいのかな?
粒あんじゃなくて、こしあんだったからかな?
色んな事を考えてみた。だって、あんなに嫌いだった桜餅ですよ!
こんなにおいしいなんて……
 
子供の時の味覚と大人になっての味覚は変わるというが、こんなにおいしいと思うことがあるのだろうかと不思議でならなかった。
道明寺とほんのり甘いこしあん、そしてそれを包んだ桜の葉はいい塩加減で口の中ですっと溶け、鼻からは桜の香りが抜けていった。
あんなに嫌いだった桜の葉の香りだったのに……
 
歳をとるってこういうことなのかな……
ふと私は思った。
 
それから、17年前東京に住むようになってからも桜餅を買って食べるようになった。
自分でも作れるが一人だと作る気にはなれない。
 
東京に来て驚いたのは、小麦粉で薄く焼いた生地に餡を包んで桜の葉で巻いたものだった。
聞いたところによるとこのタイプは「長命寺」というのだそうだ。
このタイプも実は、自分で作ることは簡単だ。
知り合いに聞いてみると、小麦粉で昔から生地を作っていたそうなのだが、銀座あけぼのという菓子店では、白玉粉を使ってもちもち感を出しているらしい。
 
関西風の「道明寺」と関東風の「長命寺」か…… 実に面白い。
いわれは色々あるようだが、またゆっくり調べることにしよう。
 
最近は、どちらのタイプも東京で買うことができるが、私はやはり口に馴染んだ「道明寺」の桜餅が好きだなと、食べ比べしてわかることもあった。
 
小さいころ、あんなに嫌いだった桜餅。
今では、満開の桜が散り始め、薄ピンク色のまばらについた桜の花、桜の散った赤茶色の枝、緑色の新葉、この3色がバランスよくついた桜の木をみると、私の「桜餅が食べたい!」と思う気持ちを掻き立てるのだ。
枝を見ながらこんなことを思うのは私くらいのものかもしれないな……
と、駅まで歩く朝でさえそんなことを思っている。
 
この季節になると毎日のように祖母が買ってきてくれた桜餅。もっとおいしそうに食べたら喜んでくれたかな、などとあの頃のことを思い出す。
感動の薄かった私に、祖母はきっと四季の大切さや、その季節だからこそ食べて楽しむ心を教えてくれていたのかもしれない。
あ~桜餅食べたい!
 
 
 
 
***
 
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2022-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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