春の別れに心が揺れる今
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記事:牧 奈穂 (ライティング・ゼミ12月コース)
「俺は成人式に出ないから……」
息子の友人が、ある日、話をした。
「大丈夫だ。俺たちで迎えに行くからさ」
もう一人の友人が、息子と二人で迎えに行くと言う。だから、将来、仲良し3人組で成人式に出ようということのようだ。
息子達は、18歳で成人式があると言われている。高校3年生の入試の頃だ。成人式の話をしながら、息子達の頭の中では、高校生活を描いていたのだろう。
息子には、今まで心から仲良くしたい友人は、ほとんどいなかった。
それは、息子には、共感覚というものがあるからだ。
「紺色のような言葉は、心の中にある箱の中に、入れてしまうんだ。見えないようにね」
小学6年の頃、息子と会話していると、息子が話し出したことがある。
「紺色の言葉? 何を言っているの?」
息子に聞くと、
「濃い紫や濃い青は、冷たい言葉だよ。優しい言葉は、明るい色なんだ。一番いい言葉は、金色だけど、それはほとんど見たことがないな。5回くらいだよ」
と、訳のわからないことを話す。
文字に色を感じる人……とネットで調べてみると、「共感覚」という言葉が出てきた。そんな言葉があるとは、全く知らなかった。文字を見て、その文字に色が見えるようなことを指すようだ。
息子は、書かれてある文字だけではなく、人が話す言葉にも、色を感じる。だから、心が見えるとでも言うのだろうか。もし、誰かが息子をよく思っていなければ、言葉だけでなく、その色まで見える。だから、心が2倍傷ついてきたのかもしれない。
色のついたマーカーで文字の上に線を引くことがあるが、それは嫌なのだそうだ。例えば、息子には「勇気」という文字が赤色に見えている。ここにブルーのマーカーで色を重ねると、紫のようになってしまい、気持ち悪い。
「文字に色が見えるなんて、今まで知らなかったよ。色鮮やかな世界で、素敵だね」
そう私が息子に言うと、
「色なんて、見えないほうがいいよ。世の中は、明るい色より暗い色が多いから……」
その言葉が、今までの息子の孤独感を表している気がした。学校が嫌いで、友人が少ない。リーダシップがあるのに、どこか人を寄せ付けないのは、人の心の中が見えるからだ。
そんな息子が、中学3年生になり、仲良しの友人ができた。仲良し3人組で、冗談を言い合い、笑い合い、ふざけ合う。
「成人式の話」は、入試前に、息子達3人組で話した会話だ。息子達は、同じ高校を目指していた。3人で入るから、またバカふざけするつもりだったのだろう。
だが、息子だけしか合格は叶わなかった。
「自分だけで受かっても、意味がない」
発表の日、そうポツリと話した。春休み中、嬉しいはずなのに、どこかで心が痛い。
中学校の離任式があり、久しぶりに3人は集まった。見た目はふざけていたが、心の中で何かが違う。息子は、自分だけ置いて行かれたような、そんな気持ちのようだ。
「自分だけで受かりたかったわけじゃないんだよ。仕方ないのも分かっている。でも、今日、3人でいることが、辛かった……」
離任式から帰った息子は、そう話をした。合格したのに、どこかで晴れやかでない、春休みの息子の様子が、分かった気がした。
「成人式の話をした、あの空気を思い出すたびに、あぁ、なんで僕だけだったんだ……って、何だか置いて行かれた気がしてさぁ」
何かを語ったら、誰かを傷つけそうで、息子はそっと学校の先生に自分の心を話してきたようだ。
不合格の挫折感を乗り越え、やっと合格できた春……息子が思っていたよりも晴れやかでない理由が、心に伝わってきて切ない気持ちになった。
3人組の一人とは、ずっと仲が悪かった。
「あいつは、人を罵るから嫌いだ」
息子から、何度となく聞いていた。
ところが、その子自身が、何度か罵られる場面を見てきた息子が、助けたことがある。それから少しずつお互いが成長し、歩み寄るようになり、気づいたら仲良しになっていた。
「あんなに仲が悪かったのに、そんなに大事に思っていたのね……」
私は、そう語るしかない。
きっと息子の友人達は、純粋な心の、明るい言葉を発する子だったのだろう。息子が一緒にいられるということは、明るい色の持ち主だったはずだ。
心から合う友人が、やっとできたのに、離れてしまった息子の寂しさは、どんなものだろう。今、そっとしておくことが、友人達への一番の優しさだと思い、息子はじっと一人でうちにいる。
息子の切なさが、痛いほど伝わってきたから、何か励ましてあげたかったが、私も言葉が見つからない。人は、相手の心に寄り添うからこそ、言葉をかけられず、何もできないこともある。
春は出会いと別れの季節でもある。どちらも、ある日突然やってきて、どうすることもできない。自分ではどうしようもないことではあるが、その出会いや別れに、意味を持たせることは、自分次第ではないだろうか。
少し切ない中学3年生の春……息子の心に、これからも明るい色の言葉がたくさん降り注がれるよう、祈りたい。
***
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