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オシニャンは、大人の猫


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:横井マリ(ライティング・ゼミ12月開講コース)
 
 
「保護猫のボランティアに行く。ママも一緒に行くって言ってあるから」
唐突に娘から宣言された。訳が分からず説明を求める。
 
インスタグラムで友人の友達リストを覗いていたら、住んでいる市の公式アカウントをフォローしていた→公式アカウントってどんな人がフォローしているんだろと覗いてみたら、保護猫のボランティア団体にたどり着いた→ボランティアを募集していると知ったから、そこに書いてあったアドレスに連絡を入れてみた→ぜひ遊びに来てくださいねと返事が来たから、行くことにした。ということらしい。
今どきの子のSNSを通じた交友関係の広がり方を見せつけられたようで驚いた。もちろん、娘にこんな行動力があったことにも。
 
それにしても、娘の猫好きがそこまで情熱を伴うものだとは知らなかった。
かく言う私も猫アレルギーがあるけど大の猫好きで、独身時代、猫が飼いたくて一人暮らしをし、数週間後には捨て猫をもらって飼い始めていたタチだ。さらに言えば、保護猫活動にも関わったことがある。その話を娘にした覚えはないから、血は争えないもんだなぁと思う。
 
そして当日、娘と出掛けた譲渡会は、イメージしていたものとちょっと違っていた。
「大きいね」
それが第一印象だった。
 
猫を譲り受けたいと思ってやって来る方の中には、子猫がいることを期待して、譲渡会へ足を運んでくれる方が多いだろう。実は私も子猫がいるものと思って会場を訪れていた。だが、今回の譲渡会は、そんな夢見るようなフワフワとした雰囲気は皆無だったのだ。
 
並べられた猫たちは健康診断をし、ワクチンや去勢・避妊手術を施し、栄養状態を回復させてから、譲渡会にデビューしている。保護されてから既に数カ月が経過しており、そこから何年も貰い手が見つからないこともある。その間、当然大きくなり、ペットショップの子猫のような愛らしさはなくなる。中には、野良ネコ生活を送っていたせいで人慣れしていない子もいる。そんな子はケージの奥でこちらに背を向けており、覗き込もうものならうなり声を上げてくる。
兄弟・姉妹で保護された猫は二匹でぴったり寄り添って寝転んでおり、どちらか一匹だけを譲り受けるなどと、口が裂けても言えない雰囲気を醸し出している。
歓迎されていない感が半端ないのだ。
 
猫を飼いたいという人が思い描く可愛らしい子猫と、もらってもらいたい大人の猫。イメージが違いすぎるのだ。なかなか貰い手が見つからないのも分かる気がする。
 
19,705匹。
これが、令和2年度に殺処分された猫の数である。今から35年ほど前、私が保護猫活動に関わった頃の殺処分頭数は12万頭を超えていたと記憶している。その時からすれば驚くほど数は減っているが、まだ2万匹近い猫の命が奪われ、心をウロにして殺処分という仕事を引き受けざるを得ない人がいるのだ。何かできないかと心から思う。
 
しかし、娘も私も猫アレルギーであること、住んでいるマンションがペット不可で育成ボランティアは難しいことを伝えると、保護猫団体の副会長さんからこう提案された。
「SNSとか触れますか?」
それならやれそうだ。娘の目がキランと嬉しそうに輝いた。
 
自宅に戻り、猫ちゃん達の魅力をSNSでどう発信しようか作戦会議をする。
 
例えば、ケージの中で溶け合って眠っていた二匹の猫。仲良し姉妹に見えるけれど、実は同じ時期に保護されただけで、姉妹ではないのだという。保護された時点で推定3歳。現在、5歳。人間の年齢で言えば、36歳。立派な大人の猫である。
大人の猫の魅力か……、そう考えていて、ある人物の顔が思い浮かんだ。阿佐ヶ谷姉妹である。ちょっぴりドジで、チャーミングで、本当の姉妹ではないのにそっくりなところも、阿佐ヶ谷姉妹のお二人と酷似しているではないか。
 
大人の猫を飼うことを、阿佐ヶ谷姉妹と暮らすと想像したらどうだろう。
さすがに初めは心を許さない感じがあるだろう。その間、グイグイ行くのはおススメしない。お二人の暮らしに敬意を払い、陰からこっそり眺めて楽しませていただく感じがいいだろう。そして、まずはお姉さんの方から、猫を虜にする魔法のおやつ・チュールで少しずつ懐柔してはいかがだろう。
いつか必ず間合いが詰まってくるはずだ。ある日、お二人の方から、
「ねぇねぇ、聞いてちょうだい」
とばかりに近づいてくれるようになったら。絶対嬉しいし、その暮らしは絶対楽しいに違いない。
 
娘が関わることになった保護猫団体の会長さんは、私費をつぎ込んで猫ちゃん達を育てている。どの子も会長さんには随分慣れ、何より元保護猫とは思えないほど毛艶がいい。
「いいご飯食べさせてるからね。うふふ」
既に十数匹の保護猫を抱えているという会長さんは、不敵にほほ笑む。この肝っ玉かあちゃんの元で人間の愛情を知った大人の猫ちゃん達に、いつか素敵な飼い主が見つかりますように。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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