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家を持って、理想をろ過してみた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山本のぞみ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「ちょうど、今山本さんがお住まいのマンションから目と鼻の先に、分譲住宅を計画しているんですよ。」
それは、突然の山本家建築プロジェクトのスタートを示す言葉だった。更に営業マンは続ける。
「8月以内の引渡しに間に合えば、建売住宅のプランを全て注文住宅の図面に書き直すこともできますが、検討してみませんか?」
 
それは4年前の1月下旬のことだった。
散歩中にたまたま、地元の建築会社が分譲住宅の販売会をしており、呼び止められたことがきっかけだった。
営業マンに乗せられたと言われれば、確かにそうかもしれない。
 
30代に突入してからというもの、結婚した友人が次々と自分の家を建築し始めた。
新築された家に行くと、とても羨ましく感じた。
「いつかは、私も自分の家が持ちたい」
結婚して、子どもを産んで、自分の家を持つ。まさに、ステレオタイプのような理想だが、やっぱり叶えたくなってしまう。
 
自分が家を建てるなら、どんな家が良いだろうか?
SNSには華やかな世界が広がっている。
広いリビング、吹き抜けのあるオシャレな空間、シンプルでセンスの良い内装。
広々とした敷地は日当たりが良くて、そうだな、平屋が素敵なんじゃないかな。
ウッドデッキにはハンモックを置いて、子どもが遊ぶのを眺めたり、夏はプールをしたり……そんな妄想が、友人の新築に駆けつける度、SNSの素敵な投稿を見つける度に入道雲のように広がっていた。
いつかは、そんな家に私も住みたい。田舎でもいいから、のびのび暮らしたい。
 
住宅を建築した今思うのは、住宅を建築していくことはコーヒーを淹れることと似ている。
様々な期待全てを叶えることができないが、フィルターを通すことで、雑念の中にある大切なことが見いだせた気がする。
 
家の建築を進める上で大事なことは何だろうか?
人によって、何を優先するのかは様々だと思う。田舎には田舎の良さがあり、都市部には都市部の良さがある。
以前、住宅に関係するような仕事をしていた時期があり、住宅建築に関してはそこそこ知識があるつもりだった。建築事業者ほどではないが、住宅の図面は日常的に見ていた。
様々な価値観の中で作られていく住宅は、同じ敷地面積でも、ひとつとして同じものは無かった。
 
そんな私がいざ、自分の家を建築した結果、私の夢は見事に打ち砕かれることになった。
あんなに大きく広がっていた私の夢は、狭小地の3階建て住宅というコンパクトな結果に収まっている。
私が生まれ育った田舎では、車が5台は置けるような庭がついてくるのが通常だが、今は普通車がやっと停められる程度の庭になった。
希望していた日当たりは北向きの日陰土地になり、ウッドデッキなんて夢のまた夢、家のすぐそばを人が往来するような状況だ。
 
「こんなはずじゃなかった」と思わなかったと言えば嘘になる。
未だに、理想の家を見かけると羨ましく思う。しかし、私はこれで良かったのだと思える。
それは、「この家は何の為に建てるのか」というフィルターを通して、思考がろ過できたことがきっかけだ。
 
冒頭の話を聞いたとき、正直に私は迷っていた。
主要駅からほど近く、学校環境も良好、徒歩でも生活が賄えるエリアというのは、私が住んでいる地方都市ではごく限られた地域だった。
しかし、30代共働き家庭でも出せる金額では、それこそ「猫の額」ほどの土地しか買えないのだ。この土地では、私の理想は叶えられない。
ただ、なかなか土地が出るエリアではないし、これを逃したら次のタイミングは何年先になるか分からない。
 
そんな私の迷いを変えたのは、実家の母の言葉だった。
「庭なんて広くても、草刈りが大変なだけだよ」
「田舎に住んだら人付き合いが大変だからね」
「家を建てる時はワクワクするけど、いざ住んだらこんなもんかーってもんよ」
 
なんて夢の無い話をするのか! しかし、改めて考えてみた。
 
確かに、庭が広ければ草取りが大変だ。夏場はやぶ蚊がたくさん出るし、ムカデやヘビの脅威にさらされたことも、この30年間数えきれないほどだった。
子どもがのびのび遊べる環境ならば、新居の立地ならば歩いてすぐのところに公園がいくつもある。
日当たりに関しても、北向きでも2階以上ならば日中割と明るいし、そもそも共働き家庭で日中家にいることが無い。日当たりが良いということは外壁劣化も早まるだろうし、日陰の家の方がメンテナンスコストが少ないのかもしれない。
 
などなど、冷静に分析した結果、建てようとしている土地の良さがじわじわと浮き上がってくる。
 
極めつけはメディアなどでもよく取り上げられている「空き家問題」だ。
実家のすぐそばにも20年ほど放置された古い家がある。壊すにも費用がかかり、それをどう捻出するのか話し合いがつかずに、どんどん朽ちていくがどうにもならない。
売ろうにも建物が邪魔をしてなかなか買い手がつかない状況だった。(売ったとしても、そもそも土地が安いため、解体費用を出したらマイナスになってしまう)
 
夢見た暮らしの時計を、今から30年後、40年度に早送りしてみる。
60代~70代になった夫婦、子どもは自立して2人の生活だろう。田舎に住めば少し買い物に出るにも車が必須になる。高齢者の運転は危険だ。
また、2人とも病気になり施設に入ってしまったり、もしくはこの世を去った後、この家はどうなるだろうか?
少なくとも、子どもたちの負担になるような不動産は持ちたくない。何のために家を建てるのかといえば、結局のところ「子どもたちのため」というところに行きつくのだから。
 
お金がたくさんあれば全て解決なのだが、そうともいかない人が大多数だ。
何かを取れば、必ず逆の何かを諦めなければならない。そこに誰もが納得する正解は無い。
自分の理想や自己顕示欲、何が必要なのか、ごちゃごちゃになって大切なものが見つからない時は一つフィルターを通すことをお勧めしたい。
美味しいコーヒーが出来上がるように、自分の大切な何かが最後に残るだろう。
 
そして、現在。
真っ白な壁には元気よく落書きがされ、床にはおもちゃが散らばり、いつついたのか分からない飲み物のこぼした痕が床に散見する。
そんな床を拭きながら都度思う「あぁ、狭いリビングでよかった!!!」
 
 
 
 
***
 
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2022-04-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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