fbpx
メディアグランプリ

1世紀を生きた祖母


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:早川実花(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
その知らせは夏の暑い日、仕事で自宅のパソコンの前に齧り付いていた時に聞いた。
「おばあちゃんが………」
家族からの電話だった。祖母、101歳の夏。
 
訃報を聞いた私は、呆然と、ワードのデータを改行していた。
そして、気づいたら歯ブラシにクレンジング剤をつけ、お札を縦に折っていた。
 
大好きな祖母が亡くなって、もうすぐ1年が経とうとしている。
 
祖母は100歳まで、自分で身の回りのことをしていた。
洋服が好きだった祖母は施設に入るその時まで自分で服を選び、
あれはだめ、これはいい、それは好かん、と好みの細かさまで健在だった。
 
私たち兄妹は祖母に育ててもらったようなもので、まさにおばあちゃん子。
私は同性ということもあり、祖母とはいろんな話をした。
 
「これは誰にも言ってないことよ、娘たちにも言うとらん。内緒よ」
どこまで本当に内緒かは分からないが、とりあえず家系のトップシークレットを私は数多く知っている。
 
祖母は綺麗好きで、朝起きると雨の日以外は必ず玄関のたたきを膝をついて拭いていた。
誰が来てもいいように。恥ずかしくないように。
100歳まで自分でお化粧をしていたのも、今考えるとすごいことだと思う。
化粧水はぱしゃぱしゃたっぷりつけるし、眉だってしっかり描く。
そして、外出するときはお気に入りの指輪をつける。
 
まだ30代なのに、すっぴんで平気で出歩く私とは大違いだ。
 
大正生まれの祖母は女学校に行きたかったが、その夢は叶わなかった。
学び足りなかったのだろう。祖母は、100歳になっても新聞を読み、漢字や四字熟語のドリルをしていた。
「これ、知っとるね?」
難しい魚へんの漢字を見せては、読み仮名を自慢げに披露していた。
向上心の塊だった祖母。
世が世なら祖母は学者かキャリアウーマンだったに違いない。
 
そんな祖母のお通夜でのこと。
 
お通夜後、まだ弔問に来て下さっていたので、祖母の祭壇の前に家族が座っていた。
すると弔問客の居ないタイミングで、父、母、兄が3人で喧嘩をし始めた。
おそらく父を始め、家族みんなが慣れない手続きや対応で疲れていたし、お通夜が終わって一息というタイミングで、気が緩み、本音で喋り出したのだろう。
 
私以外が不機嫌な中、私は平常心で、3人の間を取りもった。
私はお嫁に行って、長らく家を出ていたので、客観的に3人の喧嘩を見ることが出来た。
ちょうど「負のエネルギーは受け取らない」という特訓をしていたこともあり、まさに3人の負のエネルギーを受け取らなかったというのも大きかった。
祖母の亡骸の前で喧嘩などしてほしくなかったので、落ち着いてもらうためにあの手この手で3人をなだめた。
 
私は、20代半ばから、ずっと0.5人前カウントだった。
病気がちでこういう行事の時は決まって体調を崩し、手伝いなど出来たことがなかった。
手伝いなどあてにもされていなかった。
 
そんな私が2日間、体調も崩さず、途中、家族の喧嘩の仲裁をし、父と母の代わりに雑用を買って出て、火葬場でお骨まで拾えたのは、自分を保てていた証拠だ。
これは、私にとっては奇跡に近いことだ。
 
大好きな祖母を見送るその時くらい、祖母にしっかりしている姿を見せたかった。
頼りない末孫が、ちゃんと地に足を着けて立とうとしている所を見せて祖母に安心して欲しかった。
 
「あんたのしたいようにしんしゃい」
どんな時も祖母は私の味方だった。
そんな祖母を見送る時は、この世に不安や未練を残さずにちゃんと成仏できるようにしてあげたかった。
 
無邪気で、気丈で、歳を重ねても「女」であり続けた祖母。
大正、昭和、平成、令和を生き抜き、戦争も経験した祖母の口癖は
「長生きしとらんなら、私はいい思いはしとらんよ」だった。
 
祖母の長寿遺伝子はきっと私にも隔世遺伝で受け継がれているに違いない。
 
こういう話になると、いつもは周囲に
「私は80歳くらいになったら、ピンピンコロリでお願いしたいわ」と、照れを隠すように言うのだが、やっぱり祖母みたいに老後を思いっきり謳歌する人生もいいかもしれないとこれをしたためながら思ったりもしている。
 
拝啓 おばあちゃん
あの世はどんな感じですか?
極楽浄土の世界、すごい興味あるけど、まだ追いかけるのは早すぎるんで、
この世のアレコレ、味わい尽くしてからそっちに行きますね。
そうそう、おばあちゃんが施設に入る前に植えた水仙が今年も綺麗に咲いたと母から連絡が来ましたよ。
実家に帰ったら、大好きなお菓子でも持ってお仏壇まで迎えに行くんで、一緒に水仙を眺めましょう。
 

敬具

 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~21:00
TEL:029-897-3325



2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事