メディアグランプリ

我が家のコミュニケーションモンスター


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記事:山本のぞみ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「山本さんって、ああいう人と結婚するんですね……意外です」
知人に夫を紹介した後の決まり文句である。
多くの人から「ああいう人」呼ばわりされている私の夫だが、正直なところ彼のような人間には彼以外に出会ったことがない。そういう意味では「世界でたった一人の相手」ということになろう。ただ、それは少女漫画などで憧れるようなキラキラした意図ではない。
 
彼の特徴は本当にいろいろとあるが、形容するならば「コミュニケーションモンスター」が一番しっくりとくる。興味関心がある人にはぐいぐいと近づき、ものの30分もあればしっかりお友達になって連絡先を獲得してくるのである。
同じバスに乗り合わせた全く知らない人であっても、彼の好きなスポーツチームのグッズを見かければ条件反射的に話しかけ、バスを降りる頃には「じゃあまた会いましょう」ということも過去にあった。
 
4年ほど前のある日、メッセージアプリで1枚の写真が送られてきた。
写真を見ると、見知らぬイケメン外国人2人と新幹線で一杯やっている彼のスリーショットだった。
「は? どういうこと? このイケメン誰? 友達?」
すかさず返信すると、更にもう一枚楽しそうな写真が送られてきた。
 
その日、彼は小田原競輪場へ向かっていた。数年前から競輪にはまっていた彼は、お目当ての選手が出るレースには度々応援の為遠征に出かけていた。
とは言え、彼のホームが静岡なので、西は名古屋、東は千葉あたりまでが行動範囲だった。
 
競輪は日本発祥の自転車競技である。オリンピックの種目の中にも「KEIRIN」があり、自転車競技の盛んなフランスやイタリアなどのヨーロッパ諸国の選手は非常に強く、東京オリンピックでも優勝したのはイギリスのジェーソン・ケニー選手だった。
 
日本の各地にある競輪場では、競輪学校を卒業した日本人選手が基本的にレースに出場している。
しかし、ある一定の時期になると、外国から「KEIRIN」選手が遠征に来ることが恒例になっていた。ここ2年はコロナ禍で外国人選手の受け入れは殆どなくなってしまったが、当時はそれこそ五輪出場クラスの選手もゴロゴロと入ってきて、日本選手の多くが全く歯が立たないというようなレースがいくつもあった。
普段とは違ったレース展開を楽しむのもよし、世界のスピードを体感するもよし、また賭け事として外国人選手は「堅い」ので、車券を買えば大体当たる。古参の競輪ファンの中にはアンチも居たが、多くのファンはその力強い走りを見て世界の広さを感じるのだった。
 
そんな外国人選手の走りを一目みたい、声援を送りたい、そんな思いで彼も出かけて行った。荷物の中には、応援用の団扇が仕込まれていて、その団扇には選手の母国語でのメッセージが書かれていた。数日前から夜な夜な準備していたのはこの為だったのか……
 
そして応援した帰り道、お目当ての選手と新幹線でばったり遭遇。そのまま話しかけて、一緒に新幹線へ乗り込んだという流れだったようだ。(小田原―熱海を共にしたそう)
話し掛ける方もなかなかだが、団扇を持った怪しいファンと一緒の座席に座る方も相当だ。
それが、マティエス・ブフリ(オランダ)とサム・ウェブスター(ニュージーランド)である。
それからというものSNSでも繋がり、度々連絡をしているようだった。
遠征に来ていた彼らが国へ戻った後も、レースの結果を調べては一喜一憂、
そして、2020年の東京オリンピック開催へと繋がっていった。
 
一度は延期されてしまった大会、2021年の出場権をかけてそれぞれの国でのレースが行われていたが、マティエス・ブフリ、サム・ウェブスター両名とも無事に出場が決定した。
2人ともそれぞれの国でのトップ選手だったが、まさか五輪選手とお友達になるとは、夫のコミュニケーションモンスターぶりは相当なものだ。
そして、レースは全て仕事中も何とかリアルタイム観戦を果たし、彼とお友達のオリンピックは幕を閉じることとなる。
 
ウェブスターは惜しくも予選敗退、ブフリはチームスプリントで金メダルを獲得した。
どんな結果でも、身近な人が出場するとなると特別な気持ちになる。
それは誰しもが感じることだが、我が家のモンスターは更に上を行く。
何を思ったか、活躍した2人の為になんと金メダルを自作。(娘と一緒に紙粘土と金色絵具にて作成)
「そんなもんもらって嬉しいと思う?」
冷ややかな視線を向ける私の言葉はまるで聞こえていないようだった。
選手の所属チームへ連絡し、どこへメダルを郵送したら良いのかということまで調べ上げて、あっという間に国際郵便にて発送してしまったのだった。
 
思い立ったらどんどん突き進んでしまう、相手からどう思われようと自分の気持ちに正直に進んでしまう我が家のモンスターは、傍で見ていて羨ましくも感じるほどだ。
相手の迷惑を考えることも時には必要だが、それ以上に自分がどうしていきたいのかが自分の中でハッキリしていることや、そこに向かって動いていくことができるのはもはや才能である。
周囲の空気を読んだり、同町圧力の中で生きている私にとって、彼は特異な存在であり、
そんな私の気質を知っている知人が彼を見るとまた、その奇人ぶりが際立つのかもしれない。
 
さて、彼が送った手作り金メダルのその後だが、1か月ほど経って無事に2人の手に渡った。
SNSでは2人して、受けっとった写真とコメントを送ってきてくれた。
そして更に1か月後には、驚くことに彼らからお返しの品々が届いたのだった。
我が家のコミュニケーションモンスターのこの一連の大躍進には、彼の類まれな行動力だけではなく、確実に受け取る側の度量の広さがあってこそなのだ。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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