メディアグランプリ

1個のハンバーガーを分け合った青春


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記事:寮生α (ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
マクドナルドといえば世界一のハンバーガーチェーンだ。初めて日本に店舗ができたのは1971年だから、おそらく多くの人は、何度もマクドナルドを利用した経験があるのではないだろうか。
 
だが、1個のハンバーガーを4つに切って分けあった経験がある人間は、おそらく私だけだろう。
 
当時高校1年生だった私は、全寮制の高校にいた。その高校に娯楽はなく、当然お菓子も持ち込めない。現金の所持すら認められていなかった。校内に自販機はあったけれど、学校の発行したプリペイドカードを差し込まないとコーラを飲めなかった。プリペイドカードの残高が切れたら、実家の親に報告して振り込んでもらわないと新規のカードがもらえない。
 
学生証の住所欄には“校内”とそっけない2文字が書いているだけで、私たちの高校生活は学園の敷地内で完結しなければいけなかった。そして学園にいるときは勉強か部活しか行動の選択肢がない。あきらめて勉強をしたやつから、しかたなく成績が上がっていった。
ちなみにお盆と正月しか実家に帰らないので、その度に漫画喫茶に行って半年分の週間少年ジャンプを読んだことを覚えている。
 
なんでそんな学校に入ったかというと、不登校児だったからだ。親元にいてはこのままひきこもっているだけだったので、追い出されるように全寮制の高校を受験した。合格してしまったのを後悔したのは、入学して3日後だ。寮にいるのはそんなやつらばっかりだった。
 
さて、私のような高校編入組は3年間我慢すれば卒業できる。けれど本校は中高一貫校で、なかには中一から寮生活の強者がいた。6年間もこんな生活を続けるなんて、修験者じゃないだろうか。当然修験者じゃない中学生の方が多いので、寮では夜な夜なホームシックになった後輩がすすり泣いた。
 
「マクドナルドのハンバーガーが食べたい」
 
同じ部屋の後輩のホームシックはちょっと特徴的だった。そう言って泣くのは今月もう5回目で、先輩としてはいい加減どうにかしたい。彼はおどおどしたタイプの13歳で、あまり自分の意見を言わなかった。一部屋14人のタコ部屋で、最年少の彼が言う唯一の要望がハンバーガーなのだ。先輩としてどうにかするようにと、寮監督の先生に厳命された。
 
つまり、なんとかして彼にハンバーガーを食べさせてあげなければならない。少なくとも当時の私はそう解釈した。
 
マクドナルドでテイクアウトするためには、引率の教師がいない状況下で外出する必要がある。部活の遠征では顧問が引率するためアウトだ。また例外的に学園の外に行くときには、事前に申請した交通費と同額の現金が支給される。そのなかからハンバーガー代100円を捻出しなければならない。勉強以外にすることのない学園生活だったので、ノートのすみに計画を書き込む暇は十分にあった。むしろスパイ映画の登場人物になった気分でわくわくした。かしこい私は計画を思いついた。
 
その日、英検の2次試験を受けに私は外出した。多くのクラスメイトが準2級を受験する中、私は調子に乗ったふりをして2級を受験した。計画通りに一次試験を突破した私は、ほかの準2級の2次試験を受けるクラスメイトとは試験時間が違う。そのため引率の先生は準2級を受験する生徒だけの送り迎えをし、私には電車に乗って帰ってくるように言い渡した。計画通りである。
 
2次試験を受け終えた私は、帰りの電車に乗る前にマクドナルドに寄ってハンバーガーを買った。これで100円足りなくなる。そのまま公園のベンチで教科書を読んで時間を潰してから、携帯電話で職員室に電話をかけた。
 
「先生、2次試験が長引いて電車を逃してしまいました。寮の夕食に間に合いません」
田舎の高校だったので、一本電車を逃すと次は40分後だ。十分に報告すべき理由だと思い電話したと、先生にいい子ぶって伝える。最寄駅から徒歩40分の学園なので、駅に着く頃先生に車で迎えに来てもらう手筈になっていた。これは報告しなければならないだろう。
 
「あと、次の電車が来るまで、駅前のマクドナルドで勉強してもいいですか」
これでOKと言ってもらえれば楽だったのだが、許してもらえなかった。しかし、断れるであろうことは折り込み済みだ。
 
「それじゃあ駅の待合室で勉強していますね。めちゃくちゃ喉乾いたんで、自販機で飲み物だけ買わせてください!」
教師の返答を待たずに電話を切った。最初に無茶な注文をしておけば、次の現実的なお願いは聞いてもらえやすいと、いつか本で読んだテクニックだ。
 
そして、大人しく駅の待合室で教科書を読みながら40分後の電車を待ち、遅れて最寄駅に到着した。改札前には迎えの先生が来ていた。
 
「先生! コーラ買っちゃったんで切符代足りませんでした! 精算したいんでお金貸してください」
 
空になったコーラのペットボトルを持って、先生に頭を下げる。もちろん、寮の自販機で買って、捨てずにカバンに忍ばせていたものだ。わざわざ最寄駅まで車で迎えに来てくれる先生は、新任の下っ端だ。拝み倒せばお金を貸してくれるという算段があった。実際、成功した。
 
先生にお金を借りて運賃精算を済ませ、寮に戻る。部屋のみんなには今日の計画を伝えていたので、入り口には見張りがいた。ここでハンバーガーを渡しているところを目撃されては元も子もない。
 
後輩は震えるような目でカバンから出したハンバーガーを見つめていた。ちょっと潰れていたし、だいぶ冷めてしまったが、それでも泣くほど食べたかったメニューだ。文字通りよだれを垂らしていた。人がよだれを垂らしているのを初めて見た。
 
けれど、彼は手に取ったハンバーガーをすぐに食べなかった。包みを開いて、少しだけ目線を周囲に向けてから、もう一度ハンバーガーを包みに戻した。
 
「これ、きっと僕以外にも食べたいですよね。分けて食べませんか」
 
これが1個のハンバーガーを4つに切って分けあった顛末だ。当時の部屋には彼を含めて4人の中学生がいたので、ハンバーガーは彼らが食べた。
 
ちなみに完璧と思えた計画だったが、包み紙の処理を考えていなかった。ゴミとして捨てることもできないので、カバンの底に隠したのだが、バレてしまった。
 
めちゃくちゃに怒られた。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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