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昭和母、娘の成長邪魔するなかれ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塚本 よしこ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「コーチ、もっとしごいてください!」
小学生の頃、夢中になって見ていたアニメは「エースをねらえ!」だ。
主人公の岡ひろみ、宗方コーチ、お蝶婦人、そんな名前を聞くと懐かしく思い出す方もみえるかもしれない。コーチの厳しい練習に耐えながら、テニスの才能を開花させていく。
このようなアニメは「スポーツ」と「根性」を合わせてスポ根アニメと言われるらしい。
 
私がやっていたバスケの先生もアニメの世界に負けず劣らず厳しかった。それに耐え、頑張る。スポーツはそういうものだと思っていた。試合に行くと、どのチームの応援旗にもよく「努力」や「根性」の文字を見かけた。
私はまさに「努力」と「根性」の昭和時代、そのど真ん中を生きてきた。
 
「やってみたい!」
ショッピングモールで踊っている子たちを見て娘がつぶやく。
新体操とチアダンスの発表会だった。
小さい子の演技は可愛らしい。娘と同じ4歳か5歳くらいだろうか?
見ているだけで和やかな気持ちになった。
女の子だし、華やかな経験もさせてやりたい。
結局どちらにするか迷ったあげく、チアダンスをすることになった。
 
4月に入会してすぐ、月末に発表会があるので出ないかとお誘いを頂いた。
やれるのだろうか? 本番まで3回の練習しかない。
1曲だけでも出られたら嬉しい、そう思って参加させてもらうことになった。
 
「家でも練習してきてくださいねー」
先生が練習の様子を撮らせてくれた。
 
どう見ても娘だけがずれている。
「合ってるじゃん!」
動画を見せると娘からそんな言葉が返ってきた。
 
何と前向きな! いやいや、1人ずれてますけど……。
「練習しなくていいの?」
「友達の見たらいいじゃん!」
「え?」
昭和母(私)は思う。おいおい自分で覚えなさい!
 
小さい頃、私はピアノを習っていた。家で練習しなきゃいけないのがとにかく嫌だった。
練習したくない気持ちもよく分かる。
でも娘が練習しないせいで、発表がめちゃくちゃになってしまったらどうしよう。急にそんな思いに駆られた。
 
親になって思う。
家でやらなきゃいけない、やらせなきゃいけない習い事の何と面倒なことよ!
やらなくてもいいと思えたら楽なのだけど、練習させたくなってしまう。
こちらが言わなくても練習してー!
呑気な娘にヤキモキした。
 
「最近はユーチューブ見ただけで、楽譜読めなくてもピアノ弾ける子とかいるらしいよ」
「私たちは昭和モデル、努力と根性の時代だけど、今の子には当てはまらないかもしれないよね」
「やりたい! と始めたのに、無理に練習させたら、やらされるものになってしまうよね」
友人と会ってこんな話になった。
 
「もう練習するように言わないようにする!」
「失敗するのもいい思い出かもしれないよね」
そう言って友人と分かれた。
 
そして、あっという間に本番当日がきた。
娘は朝からずっとテレビを見ている。
途中から入会して、1番練習しなきゃいけないのにいいのか?
ちゃんと覚えているんだろうか?
 
集合時間が近づいてきた。でも全然練習する気配はない。
あーもう限界だ。
「練習しないの?」
言ってしまった……。
友人との約束は24時間ももたなかった。
 
「今日本番だよ! みんな練習してるよ」
友達が練習しているか本当は知らない。でも、そうも言わないと動かない。
 
音楽をかけて、気の乗らない娘に練習させた。
ここから私は監督に変身だ。
「違う!」
ついつい声が出てしまう。
「もう1回」
「違うよ、最初から」
こんなやり取りを何回かした。
 
「もういやっ!!」
泣き出してしまった。
あちゃあ……。やってしまった。
これ以上は無理だ。急いで会場に向かった。
 
ショッピングモールの1階に作られた舞台。沢山のお客さんが見守っている。
 
前奏が始まり、5人の子どもたちが軽快に入ってきた。
携帯のビデオの文字を押したものの、画面は気にせず娘の姿を肉眼で見つめる。
朝出来なかったところが出来ている。今までで最高じゃないか。
途中から涙が込み上げてきた。
1曲目が無事終わる。ふー、やっと息が出来た。
 
続いて、2曲目、3曲目。
自信がなければ出なくてもいいと言われていたが、結局3曲全てに出演した。
「あっぱれ!!」
そんな言葉を叫びたくなった。やった! やり切った!
 
「すごいね、度胸あるね」
終わって先生が声をかけてくれた。
「数回の練習で、快挙だね」
他のママも声をかけてくれる。娘も私も高揚したまま帰路についた。
 
大人の既成概念というものは、ブラウン管テレビのようなものだ。
今は使えないし、不必要だ。無理に与えられたら迷惑としか言いようがない。
娘には1か月で3曲踊るのは難しいという考えはない。だから普通にやり切ったのだと思った。
 
「努力と根性! 厳しい練習に耐えて頑張る」「何かを達成するには時間がかかる」
そんな考えは、もう今の子にはそぐわないのかもしれない。
「楽しく軽やかに!」「その気になればやれてしまう!」そんな時代かもしれない。
 
昭和母、娘の成長邪魔するなかれ!
過剰に心配したり、今までの当たり前で子ども達を見ていないか? 事あるごとに思い出し、気をつけていきたい。
そして、昭和な自分を日々アップデートするようにしていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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