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タイに行きたい!


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記事:nao(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
コロナ禍が終わったら、行きたいところはありますか?
 
と聞かれたら、私は迷いなく、
 
「タイに行きたい!」
 
と答える。なぜならタイに、どうしても会いたい人がいるからだ。
 
彼女と出会ったのはもう15年も前のことになる。
 
大学4回生を休学してのシドニー留学がスタートして2日目。
語学学校でオリエンテーションを受けていたときのこと。
 
同じグループの韓国人の男の子のところに、
 
「彼氏の友達なの」
 
と後ろから抱き着いてきたアジア系の可愛らしい女の子。
少し年下に見える。18歳くらいかな? と思った。
 
それが彼女との出会いだった。
次の日クラスルームに行くと、彼女がいた。
 
「タイ出身で、もうすぐ23歳なんだ」
 
絶対に年下だと思っていた彼女はまさかの1つ年上だった。
 
なんで、どうやって、そんなに仲良くなったのだろう?
正直、全然覚えていないけれど、気づけば、彼女と私はいつも一緒にいて、クラスで1番の仲良しになっていた。
 
彼女に会うまでのタイのイメージは、学校の授業で習った「発展途上国」だった。失礼ながら、貧しい国で、留学ができるようなイメージはなかった。
 
彼女に出会ったことでタイのイメージが変わった。
 
目上の人に礼儀正しく、いすに座っている先生に話すときはいつも膝をついてから話しかけていたのが驚きだった。
 
日本人同士だとちょっとした冗談のつもりで済むが、頭を押さえられるのは恐怖でしかないらしい。同じ行動でも、国によって解釈が大きく異なることを知って気を付けなきゃと思った。
 
日本では褒め言葉でしかない「キレイ」という言葉も、タイ語では「醜い」になってしまうことも知った。
 
そして、独特で難しい、タイ訛りの英語のリスニング力に自信ができた。
 
そうして、いつしか放課後も、いつも一緒にいるようになった。
 
マクドナルドのビックマックをプラスチックのナイフで半分こして食べた。Lサイズのコーラにストローを2本さすのもお決まりだった。
 
彼女はいつもどこへでも、私を連れて歩いた。韓国人の彼氏と映画を見るときでさえ、私を連れていった。
 
そして、留学開始から2ヶ月が経ち、ホストファミリーとの契約が終了したとき、シドニーの中心部のアパートで暮らしていた彼女のところに引っ越すことになった。
 
タイ人と日本人のルームシェアが始まった。
 
とても仲良しだったけれど、育った環境が違いすぎて合わないこともたくさんあった。
 
7月、南半球のオーストラリアは冬になった。
 
寒い夜は、長そでのあったかい服を着て、ふとんと毛布にくるまって眠るのが好きな私。
 
常夏の国タイ出身の彼女は、暖房を効かせたぽかぽかした部屋でタンクトップを着て眠るのを好んだ。
 
料理が好きな彼女がいつも私にふるまってくれたものはいつも辛すぎた。彼女の出身地、タイの東北部は、ソムタム(青パパイヤのサラダ)など、タイの中でも特に辛い料理が多い地方で、辛い、辛いと騒いで水ばかり飲む私に、
 
「水よりお湯を飲んだ方がいいよ」
 
と手加減してくれることはなかった。
毎日、修行のように食べ続け、辛いものも苦手だったパクチーも大好きになった。
 
そして、8月3日がやってきた。彼女の23歳の誕生日のはずだった。
タイの実家への電話を終えた彼女が言った。
 
「私、25歳になったんだって」と。
 
日本も昔はそうだったと聞いたことがある。
実際の生年月日と戸籍上の生年月日が異なっていて、パスポート上の誕生日は5月だけど、本当は8月生まれなのだという話は聞いていたが、まさか自分の年齢を2歳も勘違いしていたなんて……。
 
1つ年上だった彼女は、誕生日がきて、3つ年上になった。
 
いつのまにか、彼女と私は“sis”になっていた。sister(英語で「女性のきょうだい」)の略で、親友より空気に近い、側にいるのが当たり前の存在だった。
 
そして、1月。
 
「あなたのことは、彼氏に頼んでおいたから。タイで待ってるね」
 
と、彼女はタイに帰っていった。
 
そうして、友達の彼氏とその友達に見送られて、私の約10ヶ月のシドニー留学は終わりを告げることになった。
 
日本に帰って2週間後、私は彼女の待つタイに旅立ち、各部屋にシャワールームがあり、住み込みのお手伝いさんがいる豪華な実家に泊めてもらった。
 
それからも年に1回は、シドニーで永住権を獲得した彼女に会いに行った。彼女は私にとって充電器のようなもので、仕事でくたくたになった私に癒しと元気をくれた。
 
彼女が韓国人の彼氏の次の次くらいに付き合ったドイツ人と結婚することになったときも、タイの彼女の地元での結婚式に招待してもらった。
 
クーデターによる戒厳令が発令されていた頃で、外国からやってきた彼女の友達は私だけだった。
 
そして何年か経ったある日、なぜかずっとタイにいた彼女が突然、日本に来たいと言い出した。
 
一緒に行きたい場所を聞いたところ、心斎橋の中古のブランド品をたくさん扱っているお店に行きたい、とのこと。
 
彼女の希望どおり、1日中ひたすら中古のルイ・ヴィトンを眺めて過ごした次の日、私は仕事に行かなくてはならず、彼女たちは自分たちで行動する日になった。
 
Facebookを見ると、USJや大阪城の写真がアップされていた。
 
……私もルイ・ヴィトンより、観光がしたかったな、と思った。
 
そして、帰る日の前の夜、彼女は私に打ち明けた。
 
産後うつがひどかった彼女はタイに帰ったまま、旦那さんのいるオーストラリアにも、旦那さんの出身地ドイツにも行けなくなってしまった、と。
 
今回もチャレンジで、不安だったし、直前になってやめようかと思ったけれど、日本に来て本当によかった、と。
 
いつもパワフルなイメージのある彼女からは想像できない言葉で驚いたが、彼女にとっても、私が充電器のようになれたことが嬉しかった。
 
コロナ禍になり、約2年。
タイにいる彼女にはもちろん会えていない。会いたい。
タイに行きたい!
 
あなたには、コロナ禍が終わったら、行きたいところはありますか?
 
 
 
 
***
 
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2022-04-19 | Posted in メディアグランプリ

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