メディアグランプリ

お茶のみから見えたのは、人間らしさ


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記事:佐藤知子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
私の生まれ育った地域には「お茶のみ」の風習がある。
小さい頃、よく祖母に連れられて近所に出向き、お茶のみに混ぜてもらった。三世代同居がほとんどだったから、どの家でもいろいろなことが起きて、話題に事欠かなかった。あの当時60代から80代位のおばあちゃんたちのあつまりだった。
 
行き先は、歩いて行ける範囲で何件かあり、1対1の時もあれば複数集まることもあった。その日によって違う場所で、違う組み合わせで集まる。うちに来てくれる人もいて、おばあちゃんのこともあれば、おじいちゃんのこともあった。
お茶を飲みながら、近所の人が入院したとか、体調はどうだとか、自分の家のこと、畑のことなど様々な情報が飛び交った。私はただ祖母の側にいて、出されたジュースやお茶菓子をいただいたり、縁側でお絵描きをしていた。未就学児の私には、全く関係のない話だったから、周りから見たら、もちろん聞いていていないように見えたと思うが、案外しっかり聞いていた。祖母たちが話す言葉をシャワーのように浴びながら過ごした。時には深刻な話もあったし、自慢話に及んで誰かが気分を害するような場面もあったりした。おばあちゃんたちの表情を見たり、声を聞き取りながら、大人の事情というものを感じとっていた。子供なりに心が動いていた。つまり、そこに混じっていた。
もちろん、まだ小さくて、それを聞いたからどうにかしなくちゃ、とかこうしたらいいんじゃない?などという感覚ではないけれど。
黙って聞いていると、みんな「おとなしいねえ。おりこうさんだねえ」と褒めてくれた。
 
当時はまだ、社会福祉制度や社会保障が十分ではなく、貧困や障害にからむ生活苦が今よりもあったと思う。でも、生活水準が満たされていた人でも強い淋しさを抱えていたりするから、幸せって何だろう、決してお金だけではないのだ、と感じ取っていた。こうやって、気心知れた人たちと過ごす時間も幸せのひとつだ、ということが、何となくわかっていた。
 
ところで、お茶のみにはお茶請けが用意される。
中でも、漬物は各家庭の味が出ていて、毎年でも何度でも情報交換が始まる。この辺りの、どこの家でも出てくるのが、「青菜(せいさい)漬け」と「おみ漬け」だ。
青菜という、アブラナ科の一種の葉物野菜がある。塩、醤油、砂糖などで漬けるのだが、幅広で肉厚の茎はシャキシャキといただけるし、葉の部分はご飯をくるんで食べると美味しい。茎と葉、どちらが好きか、自然と好みが出てくる。
また、青菜を細く刻んで、大根、ニンジン、しその実などと漬け込んだ、おみ漬けも最高。切った材料を一旦塩漬けにし、醤油、砂糖、生姜などを煮立てたタレに漬け替える。白いご飯によく合うのだ。
砂糖をザラメや黒砂糖にしたり、焼酎を加えたり、好みの分量の微調整があり、お宅ごとの味の違いに、小さいながら驚いたものだ。
 
ある日、とても好みの味の青菜漬けに出会ったため、もじもじしながらおかわりをお願いした。おばあちゃん達は、「食べろ、食べろ」と何度もよそってくれた。未就学児が漬物をバリバリ食べながらお茶を飲んでいるのだから、もし、今の若いお母さん達から見つかったら、おばあちゃん共々怒られていただろう光景だった。何か幸せだったな、と思う。
 
いつもの馴染みの顔が見える。来そうな人が、来そうな時間に来る。それだけで安心感があるものだ。そうかと思えば、思いもかけない人が突然訪れたりする。祖母も私もびっくりして、慌てて準備して招き入れることもあった。
 
ある日我が家に訪れたおじいちゃんは、祖父の姉の話をしていた。女学校の時、16歳で結核で亡くなってしまったが、美人で頭も良く、優しくて、実は憧れの的だったと聞いた。このおじいちゃんも、ご先祖様のこと好きだったのかな?若い頃の秘密の話を聞けたような気がした。
 
お茶のみは、本当に親しい人だけで行われる。
つながり合っているから、お互いにとっての存在感がすごい。誰の意識の中にも、一人一人が存在しているのがわかった。
 
長い年月が過ぎて、あの当時のおばあちゃんたちは誰もいなくなった。
地域は受け継がれているが、つながりは少なくなってきたようで、意識的にあつまりの場がつくられている。実家の母は、月1回公民館に集まって、輪投げの練習会に参加している。
 
今私が住んでいるところは、新興住宅地だ。日頃の挨拶はきちんと交わしている。
これから年をとり、定年を迎えた後、私は誰かとお茶のみをしているだろうか。
誰か気に掛けてくれるだろうか。
私という存在を覚え続けていてもらえるだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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