花嫁船を見たらネットの海に溺れた話 Ver2.0
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ホシノナオミ(ライティング・ゼミ2月コース)
「これは、ホシノさんですか?」
そんな一文と一緒にリンクが送られてきた。
同じ会社の違う部署で仕事を一緒にしているいわゆる同僚。
プライベートなことをそんなに話すこともない。
あったら挨拶するぐらい、そんな距離感の男性である。
私はそのリンクを開いて、目を通す。そして一言、
「はい、そうです……」と返すのが精一杯だった。
ことの始まりはあるGWの旅行だった。
元々私の会社は月曜祝日が休みでない分、長期休暇が長かった。
GWや年末年始などの休みは長いものの、
逆に他の人と休暇が合わないのが悲しいところだ。
その年のGW、私は、
「一緒に旅行できる友人が見つけられないのであれば、
それぞれ現地にいる友人を訪ねていけばいいのだ!」
と親元や実家に帰省する友人達を巡る約1週間の旅というのを計画した。
今考えると押しかけ女房みたいな旅行だ。
東京から広島→岡山→神戸→大阪→奈良→東京という工程だったと思う。
うまい具合に予定が調整でき、観光や食事の予定はほぼ友人たちと一緒に過ごし、
地元人ならではの案内と名物料理を堪能するという素晴らしい旅行となった。
そんな中で、唯一、一人で半日過ごした街があった。
倉敷である。
翌日には次の目的地に移動するのだが、その日の午前中、友人と別れ午後から翌朝まで一人で倉敷で時間を潰すことになったのである。
ちょうど週末だったこともあり、街は多くの観光客で賑わい、出店が出たり、市が主催するイベントなどがいたるところで行われていた。
街は一人で歩くのに丁度いい広さだったし、特に急ぐ時間でもないので、そんなイベントを除きながら、ブラブラとその日の午後を過ごしたのだった。
そして夕方になって始まったのが「瀬戸の花嫁パレード」なるものだった。
夕方の薄暗くなった倉敷の運河を白無垢花嫁姿のモデルさんが渡し船に乗って流れてくる。
白壁の歴史ある街並みと渡し船。
運河の両側から綺麗にライトアップされ、幻想的な音楽と共に演出された、
静かで上品なイベントだったと記憶している。
そんなイベントを見ていた私に一人の男性が話しかけてきた。
「あのぉ、ご旅行ですか?」
「はい。そうです」
「岡山新聞なんですが、ちょっとお話聞いてもいいでしょうか?」
なるほど、このイベントを取材しにきた記者の方だった。
「はい、もちろん」と軽い気持ちで受けた。
「どちらからですか?」
「このイベント、ご覧になっていかがですか?」
「倉敷以外はどの辺を旅行されているんですか?」
など当たり障りない質問に答えた。
「ありがとうございます。こちら明日の岡山新聞にイベントの紹介と共に掲載させていただきますね。ちなみにお名前とお歳を聞いてもいいですか?」
地方紙の小さい記事だし、特に気にせず本名と年齢をお伝えしてその方とは別れた。
明日、岡山新聞を買ってみるかとちょっと思ったが、荷物になるし、
そもそも岡山に親戚も友人もいないので、私を知る人が見るはずもない。
その出来事はその後の楽しい旅行の工程でも、旅行後も一度も思い出されることはなかった。
さて、冒頭のリンクである。
それはまさしくその岡山新聞の記事のリンクであった。
そこには
「1週間の一人旅行で倉敷を訪れた東京の会社員ホシノナオミさん(35歳)は、瀬戸の花嫁のイベントを見て「幻想的な花嫁さんの姿がとても美しく、見ていて憧れてしまいますね」と感想を述べていた」
というような文章が書かれていた。
いや、違う。違わないけど違う。
これだけ読んだら、妙齢のこじらせ独身女性が、傷心の末、一人で1週間旅行をして、瀬戸の花嫁に行き遅れた自分の身を重ね、
あぁなれたらよかったのに、と羨望の眼差しを送っているようにしか聞こえないではないか!
答えた内容は何一つとして間違って書かれてない。
一人旅行とは確かに言ったし、事実その20時間ぐらいは一人だった。
確かに花嫁さん綺麗だったし、そう言った。
間違っていないんだけどさ……。
っていうか、オンラインになるなんて聞いてないぞ、岡山新聞!
初めてエゴサというのをやってみたら、なんと出てくるではないか!
この記事が!
どうやら私は知らない間に、自分の本名と実年齢を一人のちょっとイタイ独身女性としてワールドワイドに晒していたらしい。
誰も私の名前なんてサーチするとは思わなかったけど、会社の微妙な距離感の同僚に何故か表示されるぐらいネットは広く狭いのだ。
「……ネットは広大だわ」
私は遠い目になってそっとP Cを閉じたのだった。
***
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