趣味ひとつない万年インドアな私が、キャンプを好きになった理由
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:田中 惣規(ライティング・ゼミ4月コース)
「趣味はありますか?」
半年前の私は、そう聞かれて答えられるような趣味はこれと言ってなかった。
そんな私にできた初めての趣味。それが「キャンプ」だった。
普段とは違う場所、普段とは違う景色、匂い。
雄大な自然の音や空気を感じながら焚き火を囲み食べる食事。
何にも縛られることのない自分だけの時間、空間。
人生で一度でもキャンプを経験したことのある人は、キャンプの数多くの魅力に魅了される人も少なくないだろう。
そんな無数の魅力がある中、万年インドアだった私がキャンプにハマった理由。それは、寝る時間の「とある感覚」にあった。
2022年10月2日(今から約半年前)、私は友人ら数名でキャンプに出かけた。埼玉県秩父市は、好天に恵まれ、これぞキャンプ日和! と言わんばかりの晴天の朝を迎えた。そういう私は、これが人生で初めてのキャンプだった。
キャンプ慣れをして自らをプロキャンパーと名乗る友人(KT)に手取り足取り教えてもらいながら、初めてのテント張り、初めての焚き火の準備を終える。
何もかもが初めてで新鮮だったが、それより何よりも驚いたことは、万年インドアな私がすこぶる高く高揚していたことである。全然キャラでもない私が、今にも発狂し大自然の中大声で叫びたくなるほどの興奮。
踊る心を抑えるのは、容易ではなかった。
山に登り、全力できれいな空気を吸った。湧き水で手を洗い口に含むと、体中に大自然の恵みがグングン入っていくのを感じた。丘からの景色は、都心の一室で外界と無縁の生活を送る私に、世界の広さをこれ以上ないほどに実感させた。
山を降りて陽が沈む頃には、私はすっかりキャンプの虜になっていた。
夜には日中準備した焚き火を囲い、仲間たちとキャンプ飯を食べた。火加減もわからずに焼きすぎて焦げた肉と野菜は、普段食べているちょうど良い焼き加減で食べるそれらよりも、うんと美味しく感じたのは夢ではなかった。
キャンプ飯を堪能し、歯磨きを終える。
風呂に入らない気持ち悪さよりも、歯を磨かない気持ち悪さの方が気になるのは彼らだけなのだろうか。
ふと浮かぶ疑問は、静かに胸の内にしまった。
歯磨きを終え、辺りを照らしていたライトが消えた。
いよいよ就寝か。と思った矢先「ちょっと待った」と友人KTが何やら探しに行った。どうやら自称プロキャンパーの彼には、まだ計画があるらしい。
数分後、彼が取り出してきたのは3つのキャンドルだった。
「そんなキャンドルでは周りは明るくならないぞ」
そう言う私を気にも留めず、真っ暗闇の中彼がキャンドルに火をつけると、
「なんだ、こんなに良いものがあるなら早く言ってくれ」
私は彼を茶化すように、すぐさま前言を撤回した。
先ほどまで炎々と燃えていた焚き火とは打って代わり、ひんやりとした夜風に靡(なび)きながら小さく揺れる炎は、不思議と心が落ち着き、安らぐような神秘的な空間を生み出していた。
キャンドルの火に釘付けになる私たちに、友人KTは「上を見てごらん」と呟いた。見上げた私たちは息を呑んだ。なぜ先ほどまで気づかなかったのだろう。と不思議なほどの無数の星が、10月初旬の澄んだ空に輝いていた。
日中のアクティビティや夜のBBQがキャンプの醍醐味だと思っていた(素人キャンパーの)私は、ここにきて初めて自称プロキャンパーの彼を認めたのだった。
彼はキャンドルに火をつけ終えると、最近見つけたらしいお気に入りのコーヒー豆について自慢げに話しながら、焚き火で沸かしておいた湯で私たちにコーヒーを注ぎ、また話し続けた。
それから何時間たっただろう……。
寝落ちるものもいたが、私は肌を刺す冷たい風から身をまもりながら、なんだかんだ楽しみにしていた人生初のテントでの就寝を迎えた。
虫の音と、時折吹き抜ける風に揺れる木々の音が響く。
地面に腰を下ろすと、地面はゴツゴツしてひんやりしている。
岩肌を感じながら寝袋に包(くる)まり横になる。
するとその瞬間、
「ズバーン!」
全身を駆け抜ける衝撃と同時に、私は「とても懐かしい感覚」に包まれた。
「——私は、この感覚を知っている!」
キャンプも最終局面、そして初めてのはずのテント内で、今日一番の衝撃に私の身体は溢れ出るアドレナリンと冴えわたる感覚にまた高揚した。
そして思い出したのだった。
——私は、7歳の時、一度だけ家出をしたことがある。
その時なぜ家出をしたのかははっきりとは覚えていないが、母親と揉めた結果、勢いで家を飛び出したのだ。時間もおそらく夜の11時を回っていたと思う。
深夜の外の世界は、小さな私にとって、親もいない初めての外界だった。
勢いで飛び出してしまったが、何も持っておらず、頼る宛もなかった。
しかしこちらから家を出ていてメソメソと帰るわけにもいかない。
私には小さいながらに、一人で生きていける! という立派なプライドがあったのだ。
とりあえずこれから一人で生きていくにあたって、「寝場所」と「ふとん」は必要だと考えた私は、一旦家に帰り身支度を始めるのだった。
母親はこの時、どうせ泣きべそかいて戻ってきたのだろう。と思ったのかもしれないが、私はそう考えているであろう母親の視線を横目に、自慢げに家出の身支度をしていた。
そして、数十円ほどの貯金と、少量のおやつ、ふとんは重くて持ち運べないと考え「寝袋」に取り替え、家の横に隣接していた屋根付きの空き地(駐車場)へと向かったのである(この後、さすがに砂利の上で寝袋は痛かったのか、家に戻り「風呂場のシート」を持ってまた出たことは、翌日まで母親にバレていなかったと本人は語っている)。
そしてとうとう、屋根付きの空き地にて、ゴツゴツしてひんやりした地面の上で風呂場のシートと寝袋を敷き岩肌を感じながら寝た私は、母親の想定を裏切り人生初の家出を成功させたのだった。
——そんな忘れるはずもない7歳の真夜中の「あの感覚」が、十数年後、キャンプ中のテントの中の私とリンクし、突発的に記憶を思い出させたのだった。
普段とは違う場所、普段とは違う景色、匂い。
雄大な自然の音や空気を感じながら焚き火を囲み食べる食事。
何にも縛られることのない自分だけの時間、空間。
人生で一度でもキャンプを経験したことのある人は、キャンプの数多くの魅力に魅了される人も少なくないだろう。
そんな無数の魅力がある中、半年前まで万年インドアだった私も、今はキャンプにハマっている。
そこまでハマった理由。
それは、キャンプ中の寝る時間の「とある感覚」にあったのだった。
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