本当の地域活性とは? どこにでもある中小企業の“ギャル”が“ビジネスパーソン”に変わるまで
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記事:佐竹宏範(ライティング・ゼミ4月コース)
私は、3年前に東京から長野県松本市に移住した。
『信州100年企業創出プログラム』という信州大学のプログラムへの参加によるものだった。「地元の中小企業で働きながら、信州大学の研究員として研究成果として発表する」というのがプログラムの内容だ。
私が派遣された先は、創業20年の冷凍餃子専門メーカー。スーパーマーケットのお惣菜売場で売られているお惣菜用の餃子を、OEM(他社ブランドでの製品製造)製造している。従業員約50名のおそらく、日本中どこにでもあるように見える中小企業である。中小企業によくあるであろう、創業社長の強いリーダーシップ成長してきたような会社で、特徴的な餃子の開発や海外進出など、餃子に特化して様々なチャレンジを重ね、これまで成長してきた。社長の強いリーダーシップで成長してきた弊害として、社長+兵隊たちといった構造になっており、従業員が増えているなかで社長の目が届かないところではいろいろほころびが出ており、次の成長の障害となっていた。そのような状況なので、従業員の意識も低く、新しいアイディアは従業員からは出ることはなく、いつも社長の発案。従業員はやらされ仕事で、意欲なく、平穏に毎日が過ぎることを願い、その平穏が崩れると離職者が増えるような状況であった。
私に課されたミッションは、従業員のやる気を引き出し、社長+兵隊たちという状況から脱却すること。
まずは、従業員全員の聴き取り調査からはじめた。日ごろからたまっていた不満が大爆発。辛辣な意見もたくさん聴くことができた。辛辣な意見を言えるということは、まだ会社に期待があるということなので、可能性を感じた。その話も面白いのだけれども、今日はまた別のお話。
ひとり、イマ風のギャルがいた。その子は、製造ラインで餃子の検品をしていた。聴き取り調査では、こんなことを言っていた。
「私、ぶっちゃけ仕事ってやる気ないんですよねー。遊ぶカネ欲しさっていうかー」
ある日、その子と飲みに行った。そのとき、こんなことを言っていた。
「私、インテリアデザイナーになりたかったんです。でも、センスがないからー」
当時、その子は22歳。「センスがないからー」で片付けるのは、あまりにもあんまりだと思った。
そのとき、私が背負っていたミッションにもうひとつ、「EC事業の立上げ」というのがあった。これもやはり、社長の念願だった。黒子であるOEM事業だけではなく、自社のブランドで勝負したいという長年の想いがあり、そんななか、たまたま私が以前Eコマースの会社で働いていたこともあり、夢の実現を託された。Eコマースの会社で働いていたとは言っても、私は物流担当だったのだが……
食事をしながら、彼女は写真を撮っていた。Instagramに投稿するための写真とのことだ。
「インテリアではないけど、Webデザインとかやってみない? まずは、Instagramのアカウントを立ち上げて、その運用とかしてみるのはどう?」
「私なんかでいいのかなぁ? 私バカだから……」
と、最初は自信なさげに渋っていた彼女だったが、それでもうれしそうな眼をしていたので、しつこく勧誘した。
「じゃあ、やってみるよ!」
と、最後は明るく引き受けてくれた。
最初は恐る恐る運用していた。が、ユーザーからの反応がうれしかったようで、次第に熱が入るようになり、忙しい業務の合間を縫って一生懸命更新作業を続けていた。しかし、会社で更新作業をしていると、
「周りから遊んでいるように見られるのがイヤだー」
とのことで、家でも更新するようになった。
「お風呂で更新してるんだー。ハ・ダ・カだよ」
と、なんともコメントできないようなことを言っておじさんをからかってくる。
なかなか上手く売上は上がっていかない日々が続いたが、続けていると突然ヒットする日が来た。なんと、Instagramの運用から、売上が突然2倍になった! 売上規模として、“事業”というのに十分な規模だ。彼女は、出荷作業も担当していた。突然増える作業量で、とても大変なはずなのに、工夫しながらうれしそうに改善を重ねていた。
その後、彼女は自分で学びながら、Webページのデザインやキャンペーンの企画まで担うようになっていった。
「私、ぶっちゃけ仕事ってやる気ないんですよねー。遊ぶカネ欲しさっていうかー」
と言っていたギャルが、いっぱしのWebマーケターに成長した。
私は、地域活性を志してこの街にやってきた。
やって来た経緯は、「地方には企業の中核を担う人材がいない。なので、都市部から還流させなければならない」という趣旨のプログラムだ。
でも、それは本当なのだろうか?
地域の元気な若者を探して、地方議員など地域の有力者に紹介してもらおうとお話しにいったりもした。すると、みんな口を揃えてこんなことを言う。
「なにかやりたい、とか、そんな野心を持った若者はみんなこの街を出てしまったよ」
それは、本当なのだろうか?
若者たちが集まる「どうしたら住みたい街になるか?」という趣旨のワークショップでファシリテーターをした。そこでは、みんなこんなことを言っていた。
「この街には刺激的な仕事がない」
本当にそうだろうか?
地方にだって、十分に企業の中核を担える人材はいる。どこにいたって、刺激的な仕事はできる。ただ、それを知らなかったり、チャンスに恵まれないだけだ。
移住者を増やす、交流人口を増やす、など人口を増やすことに地域活性の焦点が当てられているように思う。でも、それで幸せになるのはいったい誰だろう? 活性化することで、幸せになってほしいのは、そこで暮らすひとなのではないだろうか。
どこにでもある中小食品メーカーで、無気力なギャルでも、こんなに活躍できるのだ。
彼女とのお別れのとき、こんなことを言っていた。
「この仕事をしてから自分のやりたいことや、目標・働き方が変わったと思います」
“遊ぶカネほしさ”に働いていたギャルは、自分のやりたいことに基づいて、目標を持って働くビジネスパーソンに変貌した。
これが、地域活性だと、私は思う。
***
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