メディアグランプリ

思い出の品を手放すタイミング


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大野祐子(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
春。
引っ越し・新生活のシーズンを迎え、家の中の整理をする人も多いのではないだろうか。かくいうわたしも気づけば9年住んだ賃貸から引っ越すこととなった。
荷造りに荷物の整理。嫌でもやるしかない、この機会をうまく使って身の回りをすっきりさせたい。そう思って重たい腰を上げた。
 
家具やインテリアにはこだわりがあって買い集めてはいたが、実際は遊びで外出することがほとんどで、家でゆっくり過ごすことはあまりなかった。
家でのゆとりある暮らしを実現させるために店頭で悩みに悩んで購入した間接照明も、気づけばうっすらホコリをかぶっている。
 
そうやって9年かけて増えたものを、この機会に一掃しよう。
頭では要るもの要らないものをスパッと判別してどんどん捨ててしまおうとイメージするものの、毎回必ず阻むものがある。
大掃除で手が止まる定番、昔のアルバムや手紙に文集たちだ。
実家を出るときに、何となく自分の分身のような感覚で持ってきた。
 
これらの思い出の品は、駅の改札内にあるマネケンに似ている。
電車の乗り換え中に、甘い香りに誘われて、“移動” に集中していたはずがすっかり小腹を満たすおやつタイムの頭に切り替わってしまう。次の瞬間にはお店の前で足を止め、ショーケースを見ながらどの味にしようか悩む。
日頃の生活では、今目の前にあることに集中して前に進み続けている。思い出の品たちは、その流れを塞き止め、一気に過去の記憶を呼び起こし、懐かしさに浸る時間にしてしまう。
 
そんな甘い誘惑が、引っ越しや大掃除のたびに繰り返されて「とりあえず置いておこう」 で段ボール1つ分のスペースを占めたままにしている。
思い返してみれば、年末の大掃除のタイミングでしか手に取ることもなく、普段の時間を割いて思い出にふけることもない。
ここで考えてみたいのが、この“過去を振り返る時間” が自分にとってどれだけ重要なものなのか。
 
ただただ「こんな人いたなぁ」 「こんな出来事あったなぁ」 を思い出すのも話のネタになり楽しいが、絶対に忘れたくないことかと聞かれれば、アルバムを見てようやく思い出すくらいの記憶なのである。
ふんわりした記憶と感情を思い出し、過去の自分に戻ったような感覚になる。この浮遊感にも似た感覚がなかなか抜け出せず、思い出の品の多くを手放せずにいる。
 
自分にとって本当に大切な人は、今でもコンタクトを取っていたり、SNSで近況を知ることができる。
本当に大切な思い出は、そういう人たちに会ったときにも思い出されるし、感情が大きく動いたときに連動して呼び起こされることもある。
 
つまり思い出の品は、今の自分にとって薬にも毒にもならないものであり、それを大切に保管し、時間とスペースをささげていることになる。毎日狭い一人暮らしの部屋で足を折りたたみながらごはんを食べているのに、年に数回も見ないそれらに圧迫されているのだ。
スペースだけで言うと、今やデータをスキャンしてしまえばかさばることもない。
しかし、そのデータを開くときが果たしてくるのか。
 
手に取って見られるものだからこそついついその時間に浸ってしまうが、これがフォルダを開いて画面で表示されるデータになってしまうとそのフォルダを開くことすらほぼ無くなってしまう気がする。何ともやっかいで取り扱いに困る。
 
こうして、捨てるか否かをうんうんと悩む時間すら“思い出の品” は私の時間を奪っていると考えると、
今、自分がやりたいこと、興味があることに費やす時間が十分に取れていないのに、そのちょっとした過去を懐かしむ時間を毎年1時間も割いていること自体が疑問に感じられ、手放すタイミングが見えてくるのではないだろうか。
 
今の自分があるのは、過去の自分が積み重なってきたからに他ならないが、その過程を振り返るトリガーにはなり得ない思い出の品たちがたくさん手元にある。
全部が全部、必要ないものとして捨てることはできないし、そうする必要もない。
ただ、本当に大切なものを見失わないために、今の自分が本当に大切だと思うものだけを残して他を手放す。
 
次の新しい場所での生活は、未来の自分に目を向けてる。過去の自分を思って引っ越しや家の整理をする人はいないのではないだろうか。
最小限の大切な思い出と、要らないものを整理してできたスペースには、すっきりした感覚と未来へのわくわくが詰まっている。
 
荷物が軽くなると、気持ちも軽くなった気がする。
物であふれていた部屋に、スペースができると心に余裕ができた気がする。
 
この、過去をいったんリセットして新たな日常がスタートする感覚をできるだけ継続できるよう、安易に“思い出の品” になりそうなものには手をだすまい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事