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メディアグランプリ

登校拒否と内緒のパイナップルパン


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ひさだまりこ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
春になると思い出す。娘の登校拒否と先生方との心の交流。
 
1年生になるのをとても楽しみにしていた娘。入学式の日も嬉しくて仕方がないという感じだった。それなのに。
 
学校が始まって1週間、学校に行けなくなってしまった。「どうして学校に行かないといけないの? 」6歳の心の葛藤。とってつけたような大人の答えはどれも娘の心には響かなかった。
 
泣きじゃくって家から出られない日もあった。頑張れる日は登校時間をずらして学校まで歩いた。学校に着いても教室に入れない。「おはようございます」と挨拶だけして帰宅する。「また明日待ってるからね! 」と先生方が明るく声をかけてくれる。それが娘の精一杯だった。
 
ある日、学校まで行くと「おかあさん、今日はちょっとお話ししませんか? 」と教頭先生に案内された。その間、娘は支援の先生に絵本を読んでもらっていた。別の日には夫が呼ばれた。教頭先生と音楽の趣味が合うらしく、ジャズの話で盛り上がったと言う。
 
次の日、「ご家庭に問題はないようですね。どちらかと言うと自由にのびのび子育てをされているようですし…」と教頭先生の一言。どこか責められているような気がしていたので、思わぬ評価が得られて心が緩んだ。「お子さんによって原因はいろいろあると思いますけどね。でも、原因なんてわからなくてもいいんですよ」そう言って教頭先生は笑った。
 
4月後半。教室に入れない娘のために支援の先生が別の部屋を用意してくれた。絵本を読んだり、一緒にお花摘みをして、押し花のしおりを作ってくれた。
 
先生方の連携のおかげで、娘が学校にいられる時間が1時間、2時間と少しずつ増えていった。それでも午前中には娘を迎えに行き、子連れで職場へ向かう。「なんで学校に行かせないの? そんなに甘やかしていいと思ってるの? 」パートのおばさんは厳しかった。
 
私にだってわからない。1歳から娘を保育園に預けて働いてきた。ここで娘に寄り添わなければ、守らなければいけない何かを手放してしまうような気がしていた。私のせいかもしれない。もう十分、自分を責めている。泣きたいのは私の方だった。
 
5月、教頭先生が自宅を訪ねてきた。「 母の日にどうぞ。おかあさんはいつも頑張っていますからね! 」と言って、お菓子をプレゼントしてくれた。10歳以上年が離れたおじさんに母の日のプレゼントをもらうなんて思いもしなかった。思わず笑ってしまったけれど、同時に心がとても緩んだ。
 
ある日は大量のパイナップルパンを自宅に届けてくれた。教頭先生は娘に会うわけでもなく「本当は給食を持ち出しちゃいけないんですけどね、これ、子どもたちに一番人気のパンなのでぜひ食べてみてください、内緒ですよ」そう言って笑った。このパイナップルパンは後に娘の一番好きな給食パンになった。
 
今思えば、教頭先生は、登校拒否児童と家族の心をケアするチームリーダーだったのかもしれない。おかあさんも娘さんも十分がんばっていますよ、そんなエールを私はいつも受け取っていた。
 
5月になっても娘は教室に入れなかった。そして、担任の先生から大胆な提案があった。「おかあさん、一緒に教室で過ごしてみませんか? 」ピカピカの1年生の教室に私の席が用意された。
 
音楽の時間。1年生の合唱が教室に響き渡る。元気でとても可愛らしい。けれど、娘はそこにいない。やはり教室には入れず、廊下で立ち尽くしていた。それでも少しずつ状況は変わりつつあった。
 
理科の時間。校庭に出て花の種を植える。学校にはサポートの先生がたくさんいるので、私もよく間違えられた。「先生、これはどれくらい水をかけるの?」「先生、ちょっと手伝って」他の子どもたちの世話を焼いているうちに、娘は少しずつ学校に馴染んでいった。
 
何か劇的な変化があったわけではないけれど、娘は少しずつ学校に行く理由をつかみ始めていたのだと思う。6月になり、運動会の練習が始まると目標ができて教室に入れるようになった。ずっと拒否していた給食も食べられるようになった。
 
夏休みに入る頃、やっと娘は登校班で登校できるようになった。それでも1年生が終わる最後の1日まで泣かない日はなかった。6年生の班長さんが「人生は甘くないんやから、こんなことでくじけとったら生きていけんよ」と励ましてくれたときには、思わず私も感動してしまった。
 
娘が学校に行けるようになるまで、たくさんの人が娘に寄り添ってくれた。娘はそのときのことをきちんと覚えていて、高学年になると低学年の子どもたちの面倒をよく見るようになった。学校に行きたくないと言って泣いている子の手を引いて通学路を歩いた。自分がしてもらったことを私もするんだと言った。
 
自分が経験したからこそ、同じ思いをしている子に寄り添うことができるのだと思う。登校拒否を経験して、娘も私も人に優しくなった。環境の変化にとまどう春。周りと同じように進めなくても、時に動けなくなることがあってもいい。くじけそうになる春、私はいつも思い出す。「おかあさんはいつも頑張っていますからね! 」そう言ってくれた教頭先生と甘くて優しいパイナップルパンの味。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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