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図書館は、誰のもの?


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記事:岡部みほ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「えー、図書館かぁ」
息子が図書館に行きたいというのに対し、私はこう答えた。
図書館が嫌いなわけではない。むしろ、大好きだ。図書館も本屋も友だちの家の本棚も、本に囲まれた空間というものが大好きで、本に囲まれていると、ワクワクする。
私が毎日でも行きたい場所に、子どもが行きたいと言っているなんて、最高! と、思ったのも束の間、不安がよぎる。
走り回るよなぁ。騒ぐよなぁ。泣くよなぁ。どうせゆっくり本選べないしなぁ。
そんなたくさんの不安が頭を走り抜けた結果の返答であった。
 
何度か子ども二人を連れて図書館へは行っていたが、子どもの本しか借りられないこともあったし、自分の本はドライブスルーのように何冊か手に取り中身も見ずにカウンターへ、ということも多々あった。
そんなある日、上の子が少し落ちついて本が読めるようになったので、私も自分の本を選びに足早にお目当てのコーナーへ向かった。
すると、後ろをヨチヨチとついてきていた好奇心旺盛な娘が、気がつくと静かになっていた。ラッキーと思い(思えば、子どもが静かになった時なんて、大抵大人がやって欲しくないことやってる時ですよね〜)、娘から目を離し、一瞬、本棚に夢中になってしまった。
すると、横から”パタン、パタン”と音が聞こえる。
ヤバい、そう思って横を見ると、床に散らばるたくさんの本。
本棚から本を片っ端から床へ出していたのである。
あ~やっぱりゆっくり本を選ぶのは無理か。図書館、公共の場っていうけど、子連れに全然優しくないじゃん……ていうか、早く本を本棚に戻さないと! 図書館の人に見つかる前にしまわないと! と、思った時には時すでに遅し。図書館の方がやってきてしまった。
「すいません、今すぐしまいます。ごめんなさい!」
小声で、叫んだ。
私の頭にはその時すでに職員の方の、「本を大切に扱ってください」「子どもをちゃんと見ててください」という声が浮かんでいた。
でも、実際耳に届いた言葉は、違った。
「本棚から本出すの、楽しいですよね。しまっておきますよ。そちら(私が急いで選んだたくさんの手に持ってる本も)しまいましょうか?ゆっくり選んでくださいね」と、娘が出した本を本棚にしまいながら、娘に微笑みかけ、声をかけてくれていた。
娘は、満足そうに微笑み、私のもとへ歩いてきた。
きっと、迷惑だっただろう。読まない本を棚から出すのも、床に散らかすのも。やらなくてもいい仕事が増え、ゲンナリしたかもしれない。
でも、でもだ。私にかけてくれたのは、娘のことも私のことも否定しない、優しい言葉と優しい微笑みだったのだ。
また別の日には、息子が前に借りた本をもう一度借りたいというので、その本を探すも、タイトルもわからず、なかなか出会えない。
「ヴェルトフリーデンっていう合言葉が出てくる本なんです」という、難解なヒントも丁寧にメモをし、一生懸命に探してくれる。また別の職員の方も、一緒になってヴェルトフリーデンの本を探してくれたのだった。
探していた本が見つかった時には、探してくださった二人の職員の方と、私とで、妙な一体感の元、小さな声で、喜んだ。
その様子を見ていた息子は、ポカンとしていたが、きっと自分の探している本のためにこんなに一生懸命になってくれたんだ、と心には刻まれているはずだ。
その経験は、図書館という存在がより身近になる特別なことだと感じた。
ちなみに私たちが一体になって喜んでいる時、足元ではまた本を片っ端から出す娘なのでありました(今回も、怒らないで下さり感謝)。
行き渋っていた、図書館。
大好きだけど、あまり楽しめなかった図書館。
公共の場と言いながら、子ども連れにはなかなかハードルの高い場所だなと思っていたけど、図書館は、大人も子どもも笑顔になれる場所だった。
図書館は、故郷だ。
静かだけど、温かくて、優しくて、気がつくと寄ってしまう場所。
大人も子どもも安心していられる場所。
みんなのために開かれた、公共の場。
もしあの時、注意を受けていたら、多分私は、やっぱり子連れで図書館は無理なんだ、と大好きな場所に行くことを諦めていたと思う。
元々大好きだった図書館という場所がますます好きになり、子どもたちの心に、居心地の良い場所というイメージの種を蒔いてくれた、素敵な図書館員さんたちに出会えたことは、とても幸運だった。
 
私の出会った図書館員さんたちは、まだルールのわからない子どもたちという利用者に、姿や行動で、ルールを教えてくれているのだなと、ふと思った。それは、親が頭ごなしに「走っちゃダメ!」「静かにしなさい!」「本を大切に扱いなさい!」というより、ずっとずっと効果があるように思えた。
やはり図書館は、みんなの場だ。
また今度、子どもたちに「図書館に行きたい」といわれたら私はこう答える。
「やったー! 行こう!」と。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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