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骨伝導イヤホンがイヤホン嫌いにヒットした話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西條みね子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
「これねー、今年買ったものの中で、ベストスリーに入るよ!」
 
電化製品好きの知人から渡されたのは、イヤホンである。普通のイヤホンと少し違うのは、骨伝導のイヤホンということだ。
右耳と左耳を繋ぐワイヤー部分は後頭部に回す形になっており、見た目は何だか「磁気で肩こりを治すやつ」のようだ。
 
知人がえらく勧めてくるので、渡されたイヤホンを試しにつけてみる。
「オオ! 聞こえますねー」
右耳と左耳はこめかみにあてる仕様になっており、耳を塞いでいない。それなのに音がちゃんと聞こえる、というのは不思議な体験だ。
 
「コレ面白いですね」
「でしょう!」
知人に渡しながら、いやーちょっと珍しい経験が出来てヨカッタヨカッタ、と思っていた私は、まさか翌日、その骨伝導イヤホンを買うことになるとは思ってもみなかったのである。
 
 
全くの偶然なのだが、その3日後に入院を控えていた。
 
命に全く別状はなく、大した手術でもないので、術後、4、5日は病院で暇をもてあますことが予想された。iPhone、iPad、PC、本も何冊か入れ、準備は万全、と思っていたが、iPhoneに付属していたイヤホンを少し前になくしたことを、突如、思い出したのである。
 
日頃、ほとんど音楽を聞かない私は、日常でイヤホンに想いを馳せる時間は皆無だった。しかし、今回は困る。病院でYouTubeも見れないし、こういう時こそ映画の1本でも楽しもう、と目論んでいた計画が台無しだ。
 
慌てて家電量販店にイヤホンを調達しに行った。
 
あまり興味がないので、ずらりと並ぶイヤホンを見ても、何が何だかわからない。ふと、先日貸してもらった、骨伝導イヤホンが目に入った。
 
単純に、耳に入れてないのに聞こえるのが面白いなー、という感想だったが、同時に、耳がギュッと塞がれる閉塞感がないのは良いなあ、とチラリと思ったのを思い出したのである。
なぜだかわからないが、あの閉塞感がちょっと苦手なのだ。電車の中や外出先で、イヤホンを使ってまで、音が出るコンテンツを楽しもうという気にならず、電車内はもっぱら記事や本などの文字コンテンツに頼っていた。
 
必要とはいえ、「耳が塞がれる」というあまり好きではない行為のためにお金を使うのは気が進まないし、結果がわかっていて何だか面白くない。せっかくなら、ちょっと面白い方を買ってみようではないか。
こうして勢いで買ったイヤホンを手に、意気揚々と入院に臨んだのである。
 
手術はさっさと終わり、お楽しみの「暇をもてあます」タイムに突入した。
面白いよ、と教えてもらっていた海外ドラマを見るために、早速、骨伝導イヤホンをつけてみる。
「オオーー、聞こえる聞こえる」
こめかみの骨に、ブルブルと僅かな振動を感じ、
「音は波だ、っていうのは本当なんだなー」
などと感心しながら、ドラマ鑑賞に勤しんだ。
 
「失礼しまーす。血圧を測りますねー」
顔を上げると、看護師さんがカーテンを開けながら、カートをベッドの横につけていた。
「お願いします」
腕を差し出しながら、少し世間話をする。
終わると、ドラマを少し戻して、再び鑑賞に入る。
 
「体温測りますね-」
「ドレーン交換します」
「ゴミ回収しますね」
看護師さんや清掃員さんが代わる代わる訪れ、そのうち
「先生の診察です」
とお医者さんが巡回に来る頃には、私は理解した。
 
骨伝導イヤホンは、イヤホンの音を聞きつつ、外の音も聞こえるのだ。
ただ聞こえるだけではない。私の耳が「聞く音を選んで」聞いているのである。
 
看護師さんの声が聞こえた瞬間、私の耳は即座に、その声にスイッチングした。ドラマの音は同じ大きさで流れているにもかかわらず、急速に聞こえなくなった。反対に、ドラマを見ているときは、隣の患者さんを診察する声は聞こえない。耳には入っているが、選択的に聞こえないのである。
骨伝導イヤホンは、人間の持つ便利な音の選択機能を活かしてくれる、いわば「耳に自由を残してくれる」イヤホンなのだ。
 
普通のイヤホンはイヤホンの音しか聞こえない。
もし、今回の入院で普通のイヤホンを使っていたら、看護師さんの声は聞こえず、目で気づいてから、あわ、あわと慌てて外し、しかも看護師さんにもう一度、説明させるという、微妙に面倒臭い患者になっていただろう。
 
普通のイヤホンの閉塞感が苦手なのも、この辺に理由がある気がした。物理的に耳が詰まる、というだけでなく、耳に選択の自由がないのが不満なのである。
 
 
「いやー、つくづく、人間の耳って聞きたい音を選んで聞いてるんだなーと思ったねー」
骨伝導イヤホンに感心した私は、退院後、会社で同僚たちに話していた。
同僚の中で唯一、自分も持っている、という人がいた。
「私、サイクリングしながら使ってますよ。車とか危ないし。旦那と2人でLINEの通話を繋いで、会話しながら走るんですよ」
なるほど。
自転車をこぎながら会話はしたいが、車の音が聞こえなくなったら、それはそれで大変だ。耳に自由を残すことが、安全確保と同義なのだ。
 
私は当初、骨伝導イヤホンの誕生は、音楽好きが、音楽を楽しむシチュエーションを極めた結果、生まれたのかと思っていた。少なくとも、イヤホンが苦手で音楽も聞かない自分が、その領域に踏み込むことはないだろうと。
 
しかし違ったのである。同時に聞こえる音を増やしながら、耳で自由に選択できる、音のお便利ツールだったのだ。
 
音楽が好きな人は、むしろ音に浸りたいのだから、雑音はシャットダウンしたいはずだ。逆である。雑音を拾いたい人こそ、骨伝導イヤホンがヒットする人なのだ。
 
 
「音を楽しむ」とかじゃなくて、「音を逃すな」とか「効率的に音を使い分けよ」みたいなキャッチコピーはどうだろう。
音楽好きなお洒落人じゃなくて、ビジネスマンとか現場の人とか、お仕事パーソンを全面に押し出したらいんじゃないかな?
「イヤホン」と音楽の結びつきが強すぎるから、いっそ「イヤホン」じゃない、新しい名前つけちゃうのはどうだろう??
 
頼まれてもいないのに、骨伝導イヤホンの売り込み方をあれこれ考えながら、将来、工事現場で警備をしているおじさんとか、イベントの現場進行とか、「音をたくさん聞かなければならない仕事の人」が骨伝導イヤホンをバリバリ使う世の中になったら楽しいなー、と勝手な未来を想像して、ちょっと楽しい気持ちになった。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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