子供を溺愛し過ぎたら、児童虐待で通報されました。
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記事:鈴木千弥(ライティング・ゼミ4月コース)
完全な親バカだが、うちの娘は可愛い。そんじょそこらの子役にも負けていないと自負している。当年とって四歳、毎日ツインテールを揺らしながらご機嫌で保育園に通っている。
そんな彼女も二歳の頃は完全なる「イヤイヤ期」だった。
何か自分の意向に沿わないことがあれば、末はオペラ歌手かと思うくらいの大きな声でギャン泣きする。夜は遅くまで寝ない。無理に寝かそうとするとギャン泣き。夜寝る時間が遅いので朝は時間になっても起きず(実は今もここは変わらないのだが)、朝ご飯も寝ていて食べない。
ただ「欠食幼児」にするわけにもいかないので、食べさせる。まずスプーンでご飯を口元に持っていき、口元をチョンチョンとそのスプーンで刺激すると口をパクッと開けるのでご飯を放りこむのだ。
そのうちようやく目が覚めてくると、日によってかなりぐずりだす。それをなだめながら自分の口にも朝ご飯を流し込み、保育園に出発する時間に照準を合わせて自分と子どもの支度を整えていく。そんな毎日だった。
その日は朝から不穏な状態だった。いつもよりも寝起きの機嫌が悪い。そして朝ご飯を食べさせているうちに、前日の夜にぐずりながら繰り返し見ていたテレビのアニメを見たいと言い出した。私はふと不安になった。これを見せると、昨夜のようにエンドレスでアニメを見たいと言い、保育園に間に合わないのでは……。
「だめよ、昨日いっぱい見たでしょ」
「やだー、見るー!」
ぐずぐず泣きが始まったが、まだギャン泣きのレベルには達していない。もうちょっとテレビを見せないで行けるかも……と思っていたところ、いきなり夫がテレビを付けた! な、何をするんだ、昨日の夜に散々ぐずった原因が開始されてしまったではないか。夫を睨みつけるが、夫は娘に大甘だ。娘の望みは何でもカナエマス。
案の定、アニメが終わっても娘はもう一回同じアニメを見たがった。だがもう登園へのタイムリミットは迫っている。こうなると大甘の夫も焦りだす。二人で玄関に娘を誘導するが、娘は動かない。
「テレビはさ、保育園から帰って来てから見ようよ」
「イヤー! ギャー!」
ギャン泣きが始まった。一度こうなると、もうどうにもならない。このまま泣かせたままにするのは可哀そうだと、娘に甘い夫婦は二人がかりで娘をなだめにかかる。しょうがないのでテレビもつけてみたが、すでに遅し。泣き止まない。抱っこは拒否され、好きなぬいぐるみを渡しても投げ捨てる。大好きなバナナも受け付けません。おもちゃなんか見向きもしませんよ。
その後も夫と二人で娘を泣き止ませようとあらゆる手をつくし、なんとか娘を泣き止ませることができた。すぐに娘と夫は保育園に出発していったが、気付けば30分ほど経過していた。
やれやれ、やっと出発したか。なんとか9時からのオンライン会議にも間に合いそうだ、と思っていたところ、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「○○警察署の者です、ちょっとお話よろしいでしょうか」
インターホンの画像には、制服をきた警官が映し出された。
「はい?」
ドアを開けると警官が二人。
「あの、児童虐待がこちらであると通報を受けまして」
警官から衝撃的な言葉が飛び出した。
「お子さんは今どこに?」
「保育園に行っていますけど」
「あれ、本当ですか? 男の子ですよね。怒鳴り声が聞こえたと」
「いえ、うちは女の子ですけど。怒鳴っていないし」
警官が言うには、このご時世、通報があれば確認しなければならないという。
「泣いていたのは確かですよね。体に傷がないかなど確認させていただきたかったのですが」
「泣いていたのは確かですが。泣き止ませようとあやしていただけです。体の傷ですか?虫刺されぐらいしかないですけど」
虐待をしていない自信は大ありだ。泣いているまま保育園に連れていくのも可哀そうだから、必死で泣き止まそうと努力していたのだ。虐待の反対の溺愛をしているじゃないか。
そしてその時不意に、通報した人への怒りではなく、そもそも昨日からのぐずりの原因であるテレビをつけてしまった夫への怒りが込み上げてきた。腹いせに目の前の警官に言い放つ。
「そもそもですね、昨日からのぐずりの原因のテレビを旦那がつけちゃったことが原因なんですよ。分かっていたはずなのに、なんでつけるかなあ」
警官はハッとした顔をして、
「自分も妻からよく、余計な事をして、と怒られるんですよね……いや奥さんは優しそうな人なので、問題ないとは思うのですが、通報があったら確認しなければいけないので、すみません。もうすぐ担当の刑事もやってくると思うので」
と下手に出てきた。いや、優しそうな人とか今言っても遅いから!
すぐに私服の刑事が到着する。インターホンが鳴ってから5分以内だ。動きが早いんだな、と妙に冷静に考えていた。
刑事にも娘の所在を確認されたので、娘の名、保育園名と娘の所属のクラス名を伝えると刑事は驚いた顔をした。
「え、見に行っていいんですか?」
「ええ、どうぞ見に行ってください、元気にやっていると思いますので」
9時からのオンライン会議の2分前だ。私は刑事の鼻先でドアをバタンと閉めた。
その後、当然、虐待の疑惑は晴れたとの連絡が来た。
冷静に考えてみると、30分あの泣き声が響いていたのだから、近所にとっては単純にうるさかった、というもあるかと思われた。7月初旬の朝の内で、クーラーを入れるまでもない気温だったこともあり、窓を開けて網戸で過ごしていたこともあるだろう。
そのため、以後ギャン泣きが始まると、家中の窓を閉めてから子供をあやすという習慣ができた。再度児童虐待で通報された場合、今度は本当に娘が児童相談所に連れていかれかねないからなのだが、本末転倒である。
あれから二年たち、私の中ではすっかり「ネタ」になっている事件だったが、いつか娘が大きくなったら、こんな事があったよと、この文章を読んでもらおうと思っている。
***
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