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我こそはストーカーである。何か問題でも?

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小川大輔(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
数年前、僕の住んでいる部屋の近くに、妙な「建物」ができた。現在23時45分。その「建物」の前をとおり、コンビニへ買い物に行ってきた。理由はこのライティング・ゼミの課題を提出するためだ。
僕は一人暮らしをしているが、部屋で全くパソコンをつけない。インターネット回線すら契約していない。スマホで十分、事足りるからである。加えていえばテレビすらまともにつけていない。2019年の大晦日、そして昨年の夏の甲子園決勝、ここ3年弱で部屋でテレビをつけたのはこの2回だけ。後者は泊り勤務明けだったため、始まった瞬間にソファに座ったまま寝落ちしてしまい、気が付くと試合終了していたのですぐ消したが。
 
そんな僕がどういう訳かライティング・ゼミに参加し、ついにパソコンを起動することになった。
部屋のオブジェと化していたパソコンに電源を入れる。次はキーボードとマウスだ。
「?」
電源が入らない。慌てて電池を確認するためにカバーを開けてみる。
「……!」
目を覆いたくなるような、戦慄の光景が広がった。
 
「何年もそのままにしといたら、そりゃこうなるわな」
 
そういう経緯で新しい電池を買うためにコンビニにダッシュである。……腐って世紀末のようになってしまった電池を処分して……。帰ってきたらキーボードとマウスに、「こんな腐ったもんワシに食わしたままにすんな!」と怒られた。
蘇生の試みには成功したが、Wordで文章を打ち始めるのですらこんな有様だ。
端から見ればかなりヤベェ奴だと思う。
 
何の趣味も興味もなさそうな僕だが、冒頭の「建物」はなぜか気になってしまう。
 
仕事の関係で6年ほど前にこちらに出てきてからずっと同じ所に住んでいるが、住み始めた当初はその存在は無かった。おそらく建設中、もしくはもともとあった何かを改築中であったのだろう。でも気にもしなかった。しばらくしてその「建物」は完成したようだったが、「あれ? こんなところ、あったっけ?」くらいの感覚だった。魂が吹き込まれ、今は確かにその場所に在る「建物」だが、完成しても未完成だった時と同じように最初は僕の頭の中にもその存在は無かったのである。
 
この時期は、まさかこの「建物」に関心を持ち、地味~~にストーキングしていくことになるとは思ってもみなかった。
 
完成してから1年くらいたった5月の良く晴れた日、「建物」の前でおねーさんがビラを配りながら、道行く人に声をかけていた。黒い古民家のようなその「建物」は喫茶店としても使えるらしい。(蛇足になるが僕はカフェという言葉が使えない。文字にはかろうじてできるが、何か言葉として発するのが自分の中でむずがゆいのだ。だから喫茶店とか、お茶と言ってしまう。そのおねーさんはちゃんとカフェと言っていた。人が言うのは何ともない。他にも使えない単語がいくつかある。)
 
なんとなく、本当になんとなくだった。おねーさんの声に誘導されたのかなんなのか、僕はフラフラ~っとその「建物」の中に入っていった。
 
本がたくさん置いてある。
 
毎日のように前をとおっているし、外観から本屋さんであることはわかっていた。僕、本屋さんは好きだから。本読まないけど……。
入ってきょろきょろしていると店員さんが話しかけてきた。正直、僕は店員さんに話しかけられるのが好きなタイプではない。服や家電を見ているときもそっとしておいてほしい。聞きたいことがあればこっちから話しかけるから、と。ワイヤレスじゃないイヤホンつけて入れば話しかけられないんじゃないかと考えてたくらいだ。
でもその店員さんは僕の排他的経済水域をものともせずに入ってきてしまった。もう話すしかない。……あれ? イヤな感じがしない。その店員さんの話し方なのか雰囲気なのか、それとも自分が覚悟を決めたからかわからないが、普通に引け目なく会話ができた。ひととおり会話したあと1冊の本の話をしてくれた。次にさっきのビラを配っていたおねーさんが、最後にもう一人の店員さんが話しかけてきた。「よく話しかけてくる本屋だな」と思いつつ不思議と3人とも、全然イヤな感じがしなかった。
 
そして3人とも同じ「赤い本」の話をしてくれた。
 
話を聞いていると、どうも内容が面白そうだ。それにこんなに感じよく話してくれたしなあ。と、自然とその本を手に取り購入。その本屋さんには珍しいことに縁側があり、庭に竹が植えてある。購入した本は実際に面白く、僕の好きな世界観で構成されており、4時間くらいその場でずっと読んでいた。
僕はその日のことを今でも鮮明に覚えている。
 
「建物」の名前は天狼院書店
「赤い本」の題名は殺し屋のマーケティング
 
僕の排他的経済水域の中に入ってこられてもイヤな感じがしなかった、そこで働く人達とその空間の居心地の良さ。泊り勤務をしている僕はそれからちょこちょこ天狼院に立ち寄り、お気に入りの席を見つけて寝落ちして帰るようになった。けっこう長い時間寝落ちしててもそっとしておいてくれた。
 
あれから4年、近所にできた妙な「建物」には今もお世話になっている。そして出会った社員さんは全員覚えている。向こうは覚えてないかもしれないけれど。ちなみに社長さん、ライティング・ゼミを担当してくださっているHさんにも実は1度ご挨拶させてもらったことがある。そういう意味で僕はずっとストーキングしているのかもしれない。
 
通信をいくつか受講してみたり、こうしてライティング・ゼミに参加させてもらったりもするようにもなったが今でも同じ場所、同じ位置で寝落ちしている。4年前に感じた柔らかな居心地の良さを変わらず感じながら、「この庭の竹、デカくなったなあ」と半分夢の中で思う。
 
現在9時03分。書く時間、かかりすぎ。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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