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空想は最大の味方

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木みえ(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
「また引っ越しか……」父の仕事の関係で子供の頃から引っ越しが多かった。
子供心に「それは仕方ない事」と割と冷静にそれを受け入れていたように思う。
しかし、小学生になると転校が伴うので、同じ出来事でも急にハードルが上がるというか、自分なりに何かしらの対応策が必要だった。
 
そして、その方法は空想をする事だった。それを空想といっていいのかはわからないけれど、頭の中で自分と対話をする時間をそう呼んでいた。
 
転校を経験した経験がある人ならわかるかもしれないが、小学生時代の転校生はものすごく注目される。昭和50年代、当時は一クラス40人位いて、その前に立たされて挨拶をさせられるのだ。どちらかというと内気だった私にとって好奇心一杯の目、それも40人分向けられることがどれだけ苦痛だった事か。
新しい場所では友達できるかな、とか勉強についていけるかな、なんてどうでも良くて、いかに目立たないように過ごすのかが課題。
休み時間、親切そうに近寄ってくるのは大体クラスの中心にいるような女の子だった。かわいい髪ゴムでツインテールにしていて、まるでウサギさんのようにぴょんぴょん跳ねながら近寄ってくるのだ。そして「今日、一緒に帰ろうよ」と誘ってきたりする。
嫌だ……。恐らく私は彼女の期待するような楽しい話題も提供できないし、交換できる可愛い文房具だって持っていない。
それよりもいつも頭の中にあったのは「どうせまた引っ越すだろう」という思い。そう、仲良くなってもすぐお別れがあるのだ。
今のようにスマホもないし、連絡を取る手段といえば手紙だけ。それも大抵は2,3回往復した所で途絶えてしまう。
 
そんなひねくれた私を救ってくれたのが空想の時間だった。特に空想はいつでもどこでもできる便利な方法だった。とはいえ、私の空想は、自分はどこかの国のお姫様で王子様が……。というものではなく、頭の中の自分と会話をするというとても地味なものだった。それは時には悩みを共有してくれ、漫才のようにボケ、突っ込みをしてくれたりする。何よりも安心で安全な場所だったし、お別れすることもなかった。
そんな悩みも中学入学と同時に終わりを告げる。会社経営をしていた父が、小さいけれど自社ビルを建て、そこに住まいを構えたことで引っ越しをしなくて良い環境になったのだ。
しかし、その後もその頭の中の会話の癖はなくならず、今に至る。自分の中の自分はいろんなことを教えてくれ、慰めてくれたりダメ出しをしたりする。
 
そんな空想は時折想像の世界に変わっていく。そして想像に変わった途端、急にすとん、と現実に落とし込まれていくのだ。その流れは徐々に創造へと変化をしていくのだ。
創造に変わったそれは現実的な形となり、人生を変えていく事がある。
 
ひとつ例をあげると、28年前突然旦那さんの転勤で神戸から全く縁も所縁もない東北へ引っ越すことになった。
そう、また引っ越しだ。しかも今回は子供として付いて行くのではなく連れて行く側になる。幼い頃の自分と重ねて、当時2歳と4歳の子供達を見ず知らずの場所へ行く事は想像するだけで憂鬱になった。4歳の息子がその春から行く予定だった幼稚園をキャンセルし、新しい幼稚園を探さなくてはいけない。近所のお友達と一緒の幼稚園を心待ちにしていた息子は激しく泣いた。
そんな中、空想エリアの私は自分と対話し続けた。「新しい場所でやっていけるかなあ」「いや、行ってみないとわからないよ」「幼稚園はどうする?」「今考えても仕方ないよ」と。
そして、引っ越ししてもずっとその対話は続いていた。
「右も左もわからない。誰も知り合いいないし」そんな時もうひとりの自分はこう励ましてくれる。「大丈夫! 神戸でママ友とのトラブルあったやん。離れられて逆にラッキーやで!」
そう言われるとそんな気もしてくる。
そのうちに無事幼稚園も決まり、最初は泣いてぐずった息子もようやく元気に通園できるようになった頃、自分の身体の異変に気が付いた。
呼吸が苦しくて身体もだるく思うように動かず起き上がれないのだ。病院に行ったところストレスが引き金で「若年性更年期障害」と診断され、とにかくゆっくりするようにと言われる。とはいえ、頼れる人もおらず、家事と育児もこなさなくてはならず、束の間の癒しと休息を求めて、整体やマッサージに行きたいと思い電話帳をめくった。
2歳の娘はまだ入園していなかったので、その娘を連れて行きたいと伝えると、大体は断られる。その中で「良いですよ」と言われた所に行っても、あからさまに嫌な顔をされ、抱っこしたままマッサージベッドに横になるように言われる事も。
心が弱っていた私は泣きながら帰宅し「もう嫌や。なんでこんなに嫌な気持ちにならんとあかんの? 子育て中って本当にしんどいし、身体もつらい」と自分に八つ当たりをする。
すると頭の中の自分が言ったのは「それ、チャンスやん。子育て中のお母さんが安心して子供連れて行けるマッサージサロン、作ったら?」と。全く予想していなかった答えだ。
なぜなら私はマッサージなんて全くできないからだ。
 
そこから頭の中の会話が急に切り変わり「だったらこんな場所が良い。この位の値段でこんなメニューで、もし子供がぐずっても大丈夫なように……」と想像の世界がどんどん拡がっていった。次にまず何をすれば良いか、いつまでにそうするか、といった創造のエリアに突入。そうなると早い。技術を学び半年後には自宅のリビングに子育てママ専用のリフレクソロジーサロンをオープンさせることになった。
 
それから27年。マッサージで人を癒す、から心を癒すサロンとして今も続いている。12年前には法人化し、子連れ大歓迎のコンセプトはもちろん変わっていない。
頭の中の自分が教えてくれた事が今に繋がっている。自分の中の自分は一番の理解者であり、応援者である。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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