メディアグランプリ

長いさよなら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:モトタケ(ライティング・ライブ東京会場)
 
 
霊感やスピリチュアルパワーもない私に起きた不思議な出来事。奇跡というには大げさで、偶然だと言われると否定したくなるそんな出来事。くだらないね、と笑ってもらえたら
ちょうどいいかな。
 
30年前に死んでしまった友達に会えたのだ。
 
もちろん姿かたちがそのまま現れたわけではない。
彼は生きていた! なんて話や心霊現象でもない。
 
その友達の名はノブやん。ノブオだからノブやん。小学5年生、6年生を共に過ごしたクラスメイトだ。地味で目立たないやつだった。目立たないよう振舞っていたのだろう。嫌われていたから。みんなから『くさいマン』と呼ばれていたから。
 
5年生になった初日。クラス替えが行われ新しいクラスメイトと顔を合わせた。同じクラスになれたと抱き合ってキャーキャー喜ぶ女子たち。男子も同じく控えめに喜んだりしていた。その中でノブオはポツンと座っていた。殻を閉じた貝のようにポツンと。
『やだ、くさいマンと同じクラスじゃん』そんな声が聞こえてきた。
その言葉にムカッとした僕は、声の主ではなくノブオの方に近づき彼に初めて声をかけた。少し怖かった。しかし自分の行動を止めることはできなかった。
 
「ノブや~ん!」
 
ふざけた感じで肩をたたき、内心ビビりながらとっさに思いついたあだ名で呼んでみた。僕の顔はきっと引きつっていただろう。
いいか、こいつは『くさいマン』じゃないぞ。このクラスでは『ノブやん』だ! と皆に知らしめるために。
 
クラスが一瞬、シーンと静かになった。
 
『くさいマン』なんてあだ名を誰がつけたのか。きっと着ていた服がどれもヨレヨレのお下がりである事(よく違う人の名前が書いてあったなぁ)に加え、色黒な肌、天然パーマでどこかアフリカ系のようなルックスが故の静かないじめであったのだろう。正直に言うと僕も声をかけた時、手が肩に触れるその寸前まで触る事にためらいを感じていた。
ノブやんは別に臭くはなかった。むしろ微かに柔軟剤のような柔らかなにおいがした。
 
放課後、みんなでよく一緒に遊ぶようになりいろんな話をした。校庭を走り回ったりして遊んだ。ノブやんはけっこう力が強くて相撲では敵わなかった。
ある日『オヤジ! デンプン! 画びょう!』という言葉が僕たちの会話から生まれた。小学生が小学生たる所以の言い回しである。
昔から子供同士で相手を論破する時によく使われるセリフに、『ショーコ(証拠)あるのか?』、『そんなホーリツ(法律)があるのか?』というのがあり、そしてさらに『誰が言ったの? 何時? 何分? 何秒?』などというのもあった。
 
それは会話の中でノブやんが僕に言ってきた『何時? 何分? 何秒?』に対して、
『ハナジ(時)! デンプン(分)だ!』と返したところから始まった。
お互いに言い合っているうちに『ハナジ』が『オヤジ』に変化し、『何秒?』に対して
『画びょう』とノブやんが返してきた。ダジャレである。
ケミストリーと言えば格好よく聞こえるが、僕らが生み出した『オヤジ! デンプン! 画びょう!』は瞬く間に学校中に広まって行きブームとなってしまった。優越感と同時に先生に呼び出されるのではないかという不安感を覚えた。まさかこの言葉が学校から飛び出し、市を超え、県を超え、時をも超えるとは思わなかった。
 
午後4時30分。小学校の下校時刻。
定時の校内放送では帰宅を促すアナウンスと共に森山良子の歌う『今日の日はさようなら』が流れていた。
話がそれてしまうがこの曲にはサビが無く、8小節の2つのメロディーが最後まで何度も
繰り返されている。歌詞もシンプルで、友達との『今日はこれでさよなら、またね』
という内容であるが、もしかしたらもう会えない友達の事を想った歌なのかもしれない。
今日のJ-POPのような派手さは無く、学校の『校歌』や『君が代』、『お経』などにも通ずるシンプルな曲構成は『チル系』と呼ばれる今どきのジャンルに近いのではないかとさえ思える。今でもこの曲を耳にすると当時通った小学校の事を思い出してしまう。なんとなく寂しくて、悲しくて、でも希望がある。そんな気分なってしまうのは一種のトラウマではないだろうか。
 
話を戻すが、小学校を卒業し迎えた春、僕らは中学生になった。入学して間もなくノブやんは重い病気で入院しそのまま帰らぬ人となった。ちょうど桜の花が散って穏やかな陽が差し始めた頃だった。
 
それから何年もの歳月が流れ、私は地元を離れ友達とも疎遠になり、家庭を持ち、子育てに追われる日々をおくっていた。
小学生になった息子はたくさんの友達を連れて帰ってくることがある。都心の子供でも男の子はやんちゃだ。最新のゲーム機で遊んでいたと思ったら、ベーゴマを回したり(昭和かよ)遊び方も様々。彼らの会話は乱暴でまるでドッチボールだ。
 
そして、衝撃の一瞬!
 
『オヤジ! デンプン! 画びょう!』
 
唐突に鳴るメールの着信音の様に子供達の1人がそう叫んだのである。私は耳を疑った。長い間忘れていた言葉だ。すぐに思い出せなかったが、様々な場面が、声が、そしてノブやんがフラッシュバックした。
まさか!? と思いながらその子に声をかけた。
「ねぇ、今、オヤジ、デンプン、画びょうって言った?」と訊いてみると、
『そーだよ!』
ええっ! なんで? なんでだよ? なんで知ってるの、それを。
「誰から聞いたの?」
『ん~、わからない!』
他にも幾つか質問をすると、彼は私が生まれ育った中部地区から引っ越してきた子である事が分かった。
 
間違いない。これはノブやんと僕の『オヤジ! デンプン! 画びょう!』だ。
30年前、僕たちの口から発せられた『オヤジ! デンプン! 画びょう!』は今もなお
子供から子供へ伝わり続けているのだ。ノブやんは言葉の中で絶えることなくいつまでも生き続けているんだ。そう思いたい……。
 
巡り巡ってまた戻ってきたんだね。ノブやん、久しぶり。また会えたね。
 
限られた思い出と、記憶の中で生き続ける彼は今も少年のままだ。小学生だったあの頃、彼は将来にどんな夢を抱いていたのか? 何かに夢中になったりしてたのかな?
クラスに好きな女の子とかいたのかな? なんて事を思うのであった。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~21:00
TEL:029-897-3325



2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事