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僕のぬいぐるみです!


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記事:高橋久美(ライティング・ゼミNEO)
 
 
ずっと犬を飼いたかった。いや、猫でもいい。とにかく動物と暮らしたかった。でも、高校まで住んでいた住宅はペット飼育禁止で、近所の家に頼んで散歩をさせてもらうのがせいぜい。その家のポメラニアンには吠えられて少し怖かったけれど、犬猫の種類を何十と覚えたし、性格の特徴なども自分が飼うことを想定して調べていた。
 
でも飼うチャンスは訪れなかった。両親に全くその気がなかったから。
仕事好きな母は、朝8時に家を出て夜11時に帰宅することもしばしばで、実家は今思えば「汚屋敷」だった。本当は働きに出したくなかった父はいつもイライラして、両親はよく怒鳴り合いのけんかをしていた。父には10歳くらいまでバンバン頭を叩かれた。
まあ、ペットなんていたらさらに大変なことになったのかもしれないが、いたらもしかして穏やかな瞬間がもっとあったのではないか、とも思う。
 
私は人形をペットの代わりにして過ごしていた。5歳の頃、3センチ角くらいのリスのミニ人形の顔をポケットからこっそりのぞかせ、デパートの店内を見せてあげていた。「美味しそうなお菓子だね」とか何とか、心の中で人形に話しかけていて、ぐずぐずと歩く私を母が振り返り、不審な目で見たことも多分忘れない。
 
その後、大人になって就職3年目。デザインチームに中途入社した金子ちゃんに、週末の外出時の写真を携帯で見せていて「うちのパンダ」の映り込みが見えた。
うちのパンダとは、パンダのパペット型のぬいぐるみ。最近は見ないが緑茶のキャラクターで、下から手を入れて口をパクパクさせるたび「へぇ~」という相づちをうってくれた。とても気に入っていてよくこっそり連れ歩いていた。そう、ぬいぐるみを。
 
書きながら、自分でもかなり幼い行動と思い始めたが、彼女にも関西弁でこう言われた。
「ええええ~! なにそれ。「ヘン子」狙い?????」
「不思議キャラ」を装ったキャラ作りなのかとか、そういう事を言いたいらしかった。
 
いや、別に何も狙ってないけど……。
それからぬいぐるみの映り込みを他人に見せたことはない。
でも就職したのがブラックなオーナー企業で、来る日も来る日も社長の怒鳴り声に耐える日々。4人いた同じ部署の同期社員は3週間でみんな辞めてしまったのに、就職氷河期にせっかく正社員になったのだから3年は勤め上げろと父に言われ続けたあのころ。
優しい社員の人たちが浴びせられる罵声を聞くたびに自分も傷つき、終わらない仕事に、深夜2時に自転車で帰宅し、朝9時に出勤していた、あの時の私。
 
思えば心が病んでいたのかもしれないが、大変なことも嬉しいことも全部パンダに呟いていた。私にとっては大切な相棒だった。ヘン子と言われて、帰ってから涙が出たことを思い出し、今も鼻がツンとしてくる。
 
それから大人になった去年のこと。父の大腸ガンの治療中、自分も大腸に腫瘍が見つかり1週間の入院が決まった。入院の前日、私は7歳の娘と行った店でナマケモノを買った。見た目はナマケモノのぬいぐるみで、背中にチャックが付いていてペンケースになっている。それには娘と「なむちゃん」と名付けて、病院から子供たちへのテレビ電話に登場させたり、夜の病院で胸にのせて眠ったり、アイマスク代わりにしたりしていた。気が抜けた風貌に心を和ませること数知れず。不安の中で何か気を紛らわすものが必要だったのだと思う。
 
辛いとか寂しい時ペットに話しかける人はいくらでもいるのに、ぬいぐるみに話しかけるのは変だと言われる。まあ確かにそうだと思う。私だって客観的に聞いたら引いてしまう。でも私は、今でもぬいぐるみに助けられて生きている。
 
中学受験を控えた息子にも、大切なぬいぐるみがある。そのテレビアニメのキャラクターは、すぐ泣いちゃうし、小さくて怖がりで、実際、最初は「弱いポケモン」。けれどポケモンは成長すると進化して強くなる設定になっていて、進化後はすらりとした長身と切れ長の瞳が印象的な「紳士のスナイパー」になり、みんなの憧れの的になるのだ。
 
塾の宿題に向き合えず、今日はやると言いながら遊んでしまって、後悔で涙した夜。
模試で見たこともない低い偏差値をとってしまい、このままではまずいと気づいた夜。
いつだってそのぬいぐるみは息子を励まし、塾からの帰りをじっと家で待っている。
 
勉強をみんなで頑張るアプリに、息子が写真を投稿していたのは去年の春。「僕のぬいぐるみです!」と添えてあった。あ、それ見せちゃうんだ、と思ったのは私が大人になっているから。いつか君が「ヘン子狙い」のような発言に傷ついたら、この話をするよ。
いつだってメッソンとお母さんは君の味方だから。
大人になっても大事にしていて大丈夫。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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