わずか10日間の海外旅行で2度も経験した人生最大のピンチについて
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:奥志のぶ(ライティング・ゼミ4月コース)
もうずいぶん昔、私がまだ20代のころ、ずっと憧れていた国への旅行がとうとう実現した。10日間でギリシャ・エジプト・トルコの3か国を巡るツアー。この旅で経験したことのほんの一部をご紹介するとしよう。
ギリシャ時間というものをご存じだろうか。添乗員さん曰く、なにごとも日本に比べてのんびりしているということである。そう言われてもピンとこない。添乗員さんの注意さえ守っていればなにも問題ないはず。そんな能天気な私にピンチはおとずれる。
美しい島々を巡るエーゲ海クルーズはギリシャ観光のハイライトのひとつだ。天気も良く、島内散策を楽しんだ私は港の小さな店で運命の品に出会う。サモトラケのニケ像。本物はルーブル美術館に展示されているが、発見されたのがエーゲ海だったため土産品として売られていたのだ。一目で気に入った。私は友人への土産と自分用に同じものを二体購入した。いい買い物をしたと思って私はウキウキだった。しかし、ここで私はギリシャ時間を思い知ることになる。店のお兄さんは呆れるほど呑気だったのだ。品物を包んで客に手渡す。この単純な作業が、日本での感覚と違っていて別の動作のように遅かった。客を待たせているという意識はまったく感じられない。私は焦ってきた。添乗員さんの注意が頭の中を回る。
「出航時間に絶対に遅れないこと。船は停泊時間に対してお金を払っています。超過料金を払いたくないので出航に遅れた人がいても待ちません。置いていきます。実際に遅れた人がいましたが、その人は島の漁船をチャーターしてクルーズ船を追いかけたんですよ」
おそろしい…… 置き去りにされるなんて絶対に嫌だ。いや、船はすぐ近くだし走れば間に合うさ。そう思いつつも焦りで息苦しくなってきた。つたない英語で急いでくれと言ってはみたが効果なし。どんどん息が詰まっていく。おかしい。時間に余裕はあったはず。これがギリシャ時間ということか。あぁ、添乗員さんは私を心配するだろうな。出航まであと2分。ようやくお兄さんがニケ像を渡してくれた。まるでバトンを受け取ったがごとく、私は店を飛び出した。
走った。人生でこんなにも必死に走ったことはない。船はすぐに見えてきたが思っていたより距離がある。走って走って、船の横腹にぽっかり開いている乗降口が見えてきた。もう少し。待って! 待って! 乗船するための渡しが仕舞われようとしている。あと数メートル。港のおじさんが私に向かってなにか叫んでいる。そこで、船体が岸壁から離れたのが見えた。
「まってぇぇぇぇぇー!!!」
ジャーンプ!! 中学生以来の走り幅跳び。私は、全力の大跳躍で船に飛び乗ったのだった。これは、私にとっては人生最大のピンチであった。無事に乗り切ることができてよかったが、添乗員さんが、私が乗船してないことにまったく気づいてなかったということにも衝撃を受けたことを付け加えておく。
「ピラミッド、あぁピラミッド、ピラミッド」
思わず一句詠んでしまうほど、その存在感に胸が震えた。エジプトの暑さとホコリっぽさは想像以上だった。遺跡見学では汗がしたたり落ちる。私はペットボトルを開けた。大丈夫、水分補給はちゃんとやっている。体調は問題ない。
食事は街のレストランへ。そこで私は運命のメニューと出会った。涼しげなペパーミントグリーンのデザート。スプーンでつついてみるとババロアのようなぷるぷるした感じ。暑いときにはもってこいの冷たいもの。美味しそう。食べたい…… いや、いかんいかん。これはヤバそうじゃないか。たぶん水とかミルクを使ってて火も通ってない気がする。いやでも添乗員さんの言葉を思い出す。
「水の衛生状態があまりよくないので飲食には気をつけてください。飲み物は必ずフタの開いてない新品のペットボトルを飲むように」
つまり、自分で開けたボトル以外は信用するなということだ。それを思うとこのデザートはいかにも怪しげだ。私はまわりを見た。ツアー客の誰もがデザートには手を出していない。やっぱり。でも、もったいないし暑いし私は大丈夫だと思うから食べたい。なんだかんだと理由をつけて結局食べた。で、即効。移動中のバスで腸がねじれるような腹痛に襲われた。あのデザートが犯人だとしても効き目が早すぎると思ったが他に思い当たることがない。まさかミイラの呪いか? ドコドコドコドコ、腹の中でツタンカーメンが踊ってる。冷汗が出てきた。恥ずかしい話、トイレのことしか考えられない。しかしここはトイレ事情もよくない。すぐに立ち寄れるとこもないし、なんといってもまだ20代の私は腹が痛くて漏らしそうだとはとても言い出せなかった。耐えろ、耐えるんだ。もし漏らしでもしたらもう生きていけない。あートイレ。うートイレ! もうムリ。もう終わった。こんなことなら島に置き去りにされたほうが百万倍ましだったわ。
涙目で身もだえしていたらバスが停まった。目的地のカイロ博物館に着いたのだ。あぁトイレ…… 間一髪、人生最大のピンチをまたしても乗り越えた。
何度もピンチがあった。大変だったことばかり書いてしまったが、旅は楽しくてたくさんの驚きと感動に満ちていた。思えば、私に反省すべきことが多かったのだ。船に乗遅れそうになったとき、頭の片隅では少しくらいなら待ってくれるだろうと高をくくっていた。呑気な店員を責めるのではなく、私がもっと余裕をもつべきだったのだ。腹痛は不可抗力とはいえ、危険を感じていたのなら食べるべきではなかった。自分は大丈夫という根拠のない自信はなんの役にもたたない。ピンチも含めて旅の醍醐味と思う人もいるかもしれないが、ないにこしたことはないのだ。この旅の経験は戒めとして決して忘れまい。今度旅立つのはいつになるか。次こそはピンチに出会わないようにその時を待っている。
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