メディアグランプリ

内ももにサロンパス


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田盛稚佳子(ライティング・ゼミNEO)
 
 
朝起きたら、内ももが痛かった。
起き上がれないほど、両足の内ももがこわばっている。
なぜだ? いったい何があったのだ?
布団の中でまどろみながら、ぼんやりとその理由を考える。
はて、夜中に金縛りにでもあったのだろうか。それとも、何か恐ろしい病の前触れだろうか。
せっかくの休日の朝なのに、不吉なことばかりが頭をよぎった。
とにかく、まず水分でも摂ってそれから考えよう。
2階の階段を、生まれたての小鹿のような足取りで降りてきた私を見て、母親が笑った。
「あら、どうしたの? よたよたしてるじゃない」
「なんかさ、痛いんだよ、内ももが」
すると、母親はすぐにピンと来たようだ。
「昨日、出先で普段と違う体勢をとったんじゃないの?」
さすが母親! だてに私を産んで育てたわけではなかった。
 
痛い理由があっさりとわかった。フォト散歩だ!
私が天狼院書店で開催されるイベントに参加するのは、ライティングに関するものが多く、「ライティング・ゼミ」を1年以上受講してきて、今回初めて「フォト散歩」なるものに参加したのである。
行く先は世界6大猫スポットとも言われる、福岡県新宮町(しんぐうまち)にある相島(あいのしま)という離島である。島の周囲は約8キロ。島民270人に対して、猫が150~200匹と言われている。
町営渡船で約20分、片道480円で島に渡る。
「いつかは、行ってみたい! でも……」
そう思い続けて数年、一番のネックは船酔いであった。
車に乗るのは大丈夫なのに、船には極度に弱い。以前、長崎県壱岐市へ旅行したときも、行きのフェリーではパンすら胃に入らず、港に着くまで船内でずっと横になっていた。
帰りは揺れないと言われる高速船・ジェットフォイルの中ですら、おえおえと涙を流しながら乗るというありさまであった。無論、景色を楽しむ余裕などない。
 
二番目のネックはフォト部という壁の高さであった。
きっと、一眼レフを持ったカメラマニアの方ばかりで、iPhoneしか持っていない私が参加したら、浮いてしまうに違いない。人見知りではないが、なぜか話の中に入っていけない自信があった。
 
この二つをクリアしたい! そして、猫まみれになりたい!!
その思いがじわじわと高まり、二の足を踏んでいた申込ボタンを押すことにした。
フォト散歩のために体調を整えて、酔い止めの薬も購入した。万が一のためにiPhoneの充電器もリュックに入れて、準備万端で当日を迎えた。
いつもなら「あーあ、今日も仕事か。あと10分寝ていたいな」と思うのだが、昨日は違った。
「早く起きて用意しなくちゃ! 忘れ物がないかも再度確認しようっと」
同じ時間に起きるというのに、まるで遠足に行く子どものようである。
 
渡船所からの行きの船は思いのほか揺れて、ちょっと酔いかけた。
酔いやすいのに船の前方に乗っていたのだ。いくつになっても学んでいない。アホである。
揺られながらも20分後、相島に到着した。
船を降りてすぐ目の前に猫がまったりと寝ている。
「はいはい。今日のお客さん、新顔ね」
と言わんばかりにチラリと見てまた寝る。この島の猫たちは人見知りをしないようだ。
 
そこからの2時間は、もうパラダイスだった!
至るところに、猫たちがのんびりときままに過ごしているではないか。白黒、茶トラ、三毛猫、サビ猫、みんなかわいいなぁ、たまらないなぁ。癒される。
すると、はしゃぐ私を見ていた島のご婦人が教えてくれた。
「この島では猫にごはんやおやつをあげるのは禁止よ。ちゃんと餌場があるの。あんたたちは、数時間いたら帰ってしまうけど、何かあったら面倒見るのは私たちなんやからね」
たしかに、その通りだ。
かわいいからおやつをあげたいと思ったとしても、ここは動物園ではない。
島民と猫が共存している生活圏である。外から来た私たちがもし無責任な行為をしてしまうと、島の猫たちの生態系を壊してしまう。
「おじゃまします」と心の中で呟きながら、私は島を巡って猫たちと触れ合うことにした。
枯木でバリバリと爪とぎをする子、突然じゃれてプロレスを始める2匹、釣り人から魚をもらってダッシュする子、岸壁から遠くを眺めている子、漁師網の真ん中で昼寝している子。
どの猫も個性的で、たくましくて、そしてお互いを尊重しながら生きている。
その姿に、私は夢中でiPhoneのカメラを猫たちに向けた。怖がらせないように、声をかけたり、優しく撫でたり。気づいたら、膝をつき、腰を曲げ、這いつくばって、できるだけ猫目線に近づくような姿勢をとっていたのだ。
今思えば、普段の生活で使わない筋肉を使ったことで、内ももがビックリしたのだろう。
実は単なる老化じゃないのか? というご意見はここでは断固否定させていただきたい。
 
今回、参加してみてフォト部の皆さんが気さくで、超初心者の私でも壁を感じることなく話せたことが嬉しかった。そして、帰りの船では船酔いどころか、デッキで潮風とトンビの鳴き声を感じながら、都会での喧騒を忘れてすっきりした気分で船を降りることができたのである。
もし、今度フォト散歩に参加する機会があれば、一つ準備を増やそう。軽くストレッチをしてから臨むこと。
この原稿を書いている今も、内ももにはまだ痛みが残っている。
そして、その傍らでわが家の愛猫が「なんか湿布くさい」と言う顔で、私と微妙な距離をとったまま、こちらをじっと見ている。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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