単位が足りなくて留年しちゃったけれど、そんなときは一発屋になればいい
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小西 裕美(ライティング・ゼミNEO)
大学に居場所がなくなった。
ただ、授業に出るという普通のことが私にはできなかった。
受験勉強をそれなりに頑張り、自分の偏差値に見合った地方大学へ入学したが、1回生で習うのは、高校で習ったことの復習やその延長線上にある基本的なものばかり。
ようやく、専門的なことが学べると思っていた私は1回生の時間割に失望した。
しかも、地方大学。
実家から片道2時間もかかる上に、駅周辺に遊べるようなところもない。
通う楽しみが一切、なかった。
私は入学してすぐにつまづいた。
でも、行かなきゃいけない。
頭ではわかっていたけれど、起きれない。
はじめは友達にノートを借してもらったり、出欠確認の代理をお願いしたりしていたけれど、さらに悪化していく私の出席率に、お願いすることもだんだんと申し訳なくなって、やめた。
でも、まさか留年するなんて。
いや、あれだけ来なかったら留年するだろう、と同級生からはつっこまれそうだけど、根拠のない自信だけはあった。
まあ、なんとかなるだろう、と。
地方大学と言えども、私が通っていたのは国公立大学。
予備校に通い、センター試験を受け、きちんと敷かれたレールの上を歩いてきた。
そう、今まではなんとかなっていたのだ。
いまの時代、1年ぐらいの留年なんて、企業も本人もあまり気にしないかもしれない。
でも、私は卒業したかった。
自分の意思で留年したのではなく、大学から「無理です」と拒絶されたのだ。
同級生たちがとても遠くに見えた。
走っても走っても追いつけず、いつの間にか後ろ姿すら見えなくなっていく。
「あなたは不良品です」という、烙印を押された気がした。
これはもう一生、私の履歴書から消えてくれない。
罪人に彫られたタトゥーのように思えた。
もう大学にいる意味がない。
卒業できそうにもないし、授業から学べることもない。
だから中退しようかな。
中退も烙印であることは変わらないけれど、他にやりたいこともないし、これ以上、無意味な時間を過ごしたくない。
母には、めちゃくちゃキレられて、怒られて、もしかしたら殴られるんじゃないかと想像したが、意を決して事実だけを伝えた。
「お願いだから、大学だけは卒業してほしい」
と、私は母を泣かせてしまった。
怒られるどころか、非難もされなかった。
ただただ、お願いだから、と。
いままで母からこんなに懇願されたことがあっただろうか。
私は本当に、自分の行いが情けなくなった。
穴があったら入りたいどころか、誰か私を生き埋めにして欲しい。
それぐらい恥ずかしくて、消えたくて、なくなりたかった。
大学はちゃんと卒業することに決めた。
授業には出席するしかないが、ゼミで論文も書かなければいけない。
研究室にあった先輩の過去の論文を読んでみた。
先輩の論文を手伝った経験から、私は地域活性化に興味を持っていた。
それを10年前のものから順番に、去年のものまでを読んでみたが、なんと結論がすべて同じだ。
「地域住民の意識にばらつきがあるため」
この一文が気になった。
10年もずっと研究しているのに、住民に課題があるという結論なんて、これは一体何に役に立つ研究なのだろうか。
とは言え、大学卒業後はこの地域を離れてしまう人が多い。
自らが主体となって何かを実施しても、途中で投げ出してしまうことになりかねない。
そもそも、やっぱりこの地域は、若者が残らない地域なのだ。
何かできないかなあ、と考えたときに、あるひとつのアイデアが思い浮かんだ。
それは、大学合同イベントだ。
そもそも、私自身がこの地域に魅力を感じていなかった。
本当に遊ぶところがなくて、行きたいところがない。
だったら、つくっちゃえばいいのか! という発想だ。
この県はそもそも大学が少ないし、お互いの距離がすごく離れている。
だから、東京や大阪のように、部活動やサークル間などの団体での交流がなかった。
もし、大学間で交流が生まれれば、お互いの大学に遊びにいくことが増えるかもしれない。
遊びにいくには交通費が必要だし、近くでご飯を食べることもあるかもしれない。
大学生の活動範囲が広がれば、地域活性化につながるのでは? と考えた。
私がダンスサークルに所属していたこともあり、音楽の新歓イベントをやろうと考えた。
新歓イベントだったら、入学したばかりの子たちだから、つながりが生まれれば、これから数年は交流が続いていくだろう。
他大学に友達がいる子に紹介してもらい、結局は3つの大学の合同イベントをやることになった。
その地域で一番大きなクラブに友達と乗り込み、話を聞くだけだったつもりが勢いで契約。
確か6時間利用で使用料が26万円。
そんな貯金が大学生にある訳もなく、失敗したら払えない。
もうやるしかなかった。
イベントの準備中は、「俺は出演者として呼ばれていない」や「ゲストにはお金を払うのに、自分たちは無償で不平等だ」など、いろいろな文句を言われた。
確かに、このイベントの趣旨をきちんと発信できていなかったことは私のせいだ。
端からみたら、遊びほうけた留年生が主催する、チャラいイベントに見えたのかもしれない。
でも、みんなは知らない。
運営スタッフも、地域活性化のために真っ直ぐ取り組んでいたことを。
ゲスト出演してくださったダンサーさんが、その数年後に世界大会で優勝するぐらいすごい人なのに、私たちの想いに賛同してくれて、無償で踊ってくれたことも。
当日は、出演者と来場者含めて、なんと大学生292人が集結!
これは大成功だと言ってもいいんじゃないだろうか。
クラブのオーナーからも、こんなに集まるとは! と誉めてもらった。
このイベントをきっかけに、私も自信を取り戻していった。
単位を落として留年しちゃった人が、クラブでイベントを開催するなんて、ちょっとアウトローな感じで、なんかかっこよくない? なんて思えるぐらいまで回復した(笑)
一緒に運営してくれた、みんなには本当に感謝しかない。
就職活動では、留年したことよりも、こっちのイベントの話に興味を持ってもらえることが多く、自分が思っていたよりもタトゥーは目立たなかった。
なんなら、私は就職活動で話せる話がこれしかなかった。
しかも、イベントは4月29日に開催したので、選考の真っ只中。
私には、まだ何の実績もなかった。
さらに言うならば、私はただの一発屋だ。
大学生活の中では、自堕落な生活をしている時間の方が圧倒的に多い。
でも、なんとかなった。
もし、私のように過去を後悔し、いまを絶望しているなら、誰かのために何かをはじめてみて欲しい。
いまは1回生や2回生からインターンに参加するような強者もいるから、私のような一発屋は、あまり評価されないかもしれない。
でも、誰かの「楽しかった!」や「ありがとう」の言葉で立ち直れる。
そのとっても小さなあたたかいものが、次の一歩を踏み出す勇気を絶対にくれるから。
***
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