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鏡を見る恐怖がなくなった理由

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:後藤 修 (ライティング・ゼミNEO)
 
 
「ウオー! どうしよう! 止まらねえ!!」
 
今から30年ほど前、高校生だった僕。
鏡を前にすると、嫌な緊張感をいつも走らせていた。
 
ジィ―――。
4Kカメラのレンズのように、鏡に穴が開くように顔を見続けた。
 
どうだ? 今日はいいか? 抜けていないか?
 
一体何をやってんの? と思われるこの動き。
実は鏡を見ると、必ず髪の毛が抜けていないかチェックし続けていた。
 
高校生で早すぎない? そんな質問が飛んでくるかもしれない。
でも、この行動のきっかけはクラスメートが放った言葉だった。
 
「な、ヘアードライヤーを髪に当てすぎると、髪が薄くなるらしいぞ」
 
ギクッ……。
 
ヘアードライヤーをフフフーンと鼻歌交じりによく使っていた僕には大打撃だった。
それ以来、その言葉が僕の考えを縛り続けることになる。
 
朝、起きるとすぐに鏡を見て、顔をガン見し、髪の根元をチェック。
夕方に家へ帰り、手を洗いながら、鏡をにらむように見て、髪の根元をチェック。
そして、風呂から上がってから、鏡を見て目を開くように生え際をチェック。
 
狂ったように鏡を見ていたのだ。髪が抜けることを本当に恐れまくっていた。
その理由はと問われると、髪の毛が命だと思っていたからだ。
 
白雪姫に出てくる、悪い妃みたいだね~。あんた、ナルシストでしょ?
 
はい。そうでした。要するに格好つけ野郎です。
 
しかも、この格好つけ野郎の僕を揺さぶる悪友がいた。
 
その悪友はいつも冗談ばかりいう奴だった。
彼は毎日、ピン芸人のように周りを笑わせていた。
誰かが廊下を歩いていると
 
「おい! キュー!!」
口をすぼめて、目を思い切り開いて周りにいる人を驚かしてどこかへ逃げていくことが
得意技だった。
 
また、彼は僕も笑わせ道具と考えていたらしい。
 
まあ、僕を‘こいつは怒らないし、いじられることを喜ぶような奴だ’と見極めていたのだろう。
たいした眼力である。全くの大当たりであった。
 
そんな奴がたまに僕を攻撃してくるのだ。
 
それは自分の手をねじこむように、僕の頭をグリグリとしてくるのだった。
 
それはまあ、本当にめちゃくちゃ痛かった。
 
しかもいつ攻撃するか分からないので、受ける時はいつも丸腰だった。
 
はたから見れば、高校生がじゃれ合う光景だなと思うかもしれない。
しかし、これが僕の恐怖を強めていった。
 
とういのは、この攻撃を受けた時は必ず、家のヘアーチェックは長くなった。
つまり、抜け毛がより一層出ると危惧したからだ。
 
今、考えてもあほなことをやっていたと思うが、その時は真剣だった。
 
今日は抜けていないよな?
 
呪文のように唱えて、鏡チェックを毎日、神経質に繰り返すようになった。
本当に恐怖を感じていたのだ。
 
そんな恐怖が最大値になった時があった。
それは大学3年時に風呂に入った時、シャワーを浴びて、シャンプーで髪をゴシゴシと洗って
両手を見た時だ。
 
うわ! タワシガ出来るわ、これは? うそ!?
 
髪の毛が両手いっぱいにくっついていた。
 
もうダメや、やがて髪がなくなる……。
諦めるモードに取りつかれてしまった瞬間だった

それから、僕は20年にもわたって鏡を見ると、憂鬱になった。
 
鏡を見ると、髪の毛を見る。不安な顔になる。萎れた顔になる。
本当に嫌だった。
 
しかし、この気持ちを救済してくれるものが僕に芽生えてきた。
 
それは仕事の自信だった。
 
僕は大学卒業後に勤めてから、20年間、会社でろくな活躍が出来なかった。
 
体の不調に襲われる。不本意な部署に30歳に異動させられて、仕事の意欲を失ってしまう。
そんな状況が続けば、精神もなえてきて軽いうつ症状を抱え始めてしまう。
こんな‘典型的な外れ社員’としての生活を余儀なくされた。
戦力外通告のギリギリラインにいる人だった。
  
だが、40歳の頃に希望する部署へ移り、仕事の意欲を取り戻す。
その後、異動した部署で頑張り、周りから
「頼りになるね、君は」と言われる存在になっていった。
そして、健康も徐々に取り戻してきた。
 
すると、どうだろう?
 
仕事が出来るにつれて、鏡を見る回数がどんどん減っていった。
鏡を見て、生え際チェックをしても
 
あー。髪の毛抜けてるね。まあいいや。と思えるようになっていった。
 
大学生の頃から比べると、生えている髪の毛は3分の1くらいになっているのにも
かかわらず。大きな変化が起こった。このアラフィフの年齢になってそう感じている。
 
今、振り返るとこう思うのだ。
 
髪の毛が抜けていくことを気にしていたのは、自分の存在に自信がもてなかったから。
ここに僕居ていいの? という存在不安があったからだ。
 
だから、外見で幻想的な自信をもとうとしたかったのだ。
それは高校時代から40歳まで一貫していた。
どこかで、髪の毛がふさふさあることを唯一の自負するものとして感じて、髪の毛がなくなっていくことを極端に気にする狂気的でナルシストな行為に走っていたのだと思う。
 
もし、髪の毛が薄くなっていることに悩んでいる人がいるならば、それは‘自分は何をやっても
ダメ!’という自信0になっていると認識した方がいいかもしれない。
 
それに気が付いたら、自分が誰かから賞賛を得られる行動をしてみよう。
 
仕事、趣味、特技、やってみたいこと。
 
なかなか成果が出なくても気にせず続けてみる。
ひたすら粘り強く続けてみよう。
 
そのうち変化が出てくる。その変化に乗ってどんどんやってみよう。
そうすれば、あなたの劣等感は薄まり、確かな生きる手ごたえを感じる自分になっている。
 
そして、鏡を見てみよう。
「俺って、なんか格好よく見えてきたな」と思える日が来るから。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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