メディアグランプリ

銀座三越ランプ事件


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記事:宮村柚衣(ライティング・ゼミNEO)
 
 
そもそも事の発端は、結婚記念日に1つずつ増えていくランプだった。
 
「結婚記念日にはランプが欲しい」
 
結婚当初、私は言った。
なぜならば、男兄弟の中で育ち、女性と縁遠かった夫にプレゼントを「選ぶ」というセンスがなかったからだ。
 
出会って初めてのクリスマスプレゼントは、こん棒を持って仁王立ちしている陶器の赤鬼だった。小洒落たフレンチレストランの真ん中。真っ白いテーブルクロスの上にたたずむ赤鬼と対峙した瞬間、私は夫の圧倒的なセンスの無さを受け入れることにした。
 
男の人は子供と一緒、根気強く育てなさい。というのが母の教えだったからだ。
 
プレゼントを渡したい気持ちはある。それに対して、お金を出す準備もある。しかしながら、プレゼントを「選ぶ」センスはない。
 
なるほど。RADWIMPSの有心論のように心はあるのだ。ならば、私が欲しい物のヒントを提示したらどうだろうか?
 
勉強が出来ない子に、「勉強しなさい」と言っても何から手を付けて良いか解らないように、「プレゼントが欲しい」と言っても、何をどう選んで良いか解らないのだろう。
 
そこで考えたのが、「お題」制だ。
 
「結婚記念日にはランプが欲しい」
 
センスの無い夫を救うための救済措置だった。
 
そして迎えた、1年目の結婚記念日。
夫のプレゼントは、イルカの「キャンドル」だった。もう少し詳しく説明すると、小学生の机の上に置かれているような、子ども向けの「キャンドル」だった。
 
なるほど。これが俗に言う同じ人間でありながら、男女の間には大きな隔たりがあるということか。と、私は妙に納得したのを覚えている。
 
世の大半の男性がそうであるように、夫は物の機能しか見ていなかったのだろう。そう、「キャンドル」も「ランプ」も光を発する光源であることには変わりはない。
 
しかし、機能的な物が欲しいというならば勉強机に置く卓上蛍光灯でいいのだ。そこを、わざわざ「ランプ」が欲しいと言った私の女心を汲んで欲しかった。が、しょうがない。センスなんてものが一朝一夕で良くなるはずがないのだから。
 
男の人は子供と一緒、根気強く育てなさい。私は母の教えを守った。
 
私は笑いながら「キャンドル」と「ランプ」の違いを説明し、次からは「ランプ」の中でも「オイルランプ」が欲しいと伝えた。
 
3年目のプレゼントはランタン型の「オイルランプ」だった。どんな強風にも負けないガチのランタン型ランプ。ドラクエのように冒険に出かけた先の深い洞窟では重宝すること間違い無しだが、結婚記念日のプレゼントとしてはこれじゃない感が強かった。
 
私は根気強く結婚記念日のプレゼントに機能性は必要がないこと。むしろ、日常に必要のないものだからこそ、プレゼントしてもらって嬉しいのだと伝えた。
 
4年目……、7年目……。月日が経ちランプが増えていくごとに夫と私の「ランプ」の概念は少しずつ近づいて行ったように思われた。
 
そして、迎えた10年目の結婚記念日。
 
「10年目の結婚記念日はお互いに休みをとって、昼から銀ぶらデートしようよ!」
 
夫の提案で、10年目の結婚記念日は銀座三越でオイルランプを2人で選ぶことになった。
 
あれだけ女心の解らなかった夫からの粋な提案に、私はとても感動した。
 
結婚10年も経てばドキドキすることも少なくなる。そんな私達の10年目の結婚記念日にはピッタリのイベントだった。
 
私はウキウキしながら銀座三越前に降り立ち、悠々と鎮座するライオン像に挨拶し、1階から5階まで吹き抜ける壮大なエントランス近くにあるサービスカウンターに意気揚々と乗り込んでいった。
 
しかし……。
 
「申し訳ございませんが、当店ではお取り扱いがございません」
 
美しすぎる銀座三越受付嬢が申し訳無さそうに応えた。
 
「ありえへん」
 
それまでの浮かれていた心は一転し、私は鎌首もたげた蛇みたいに殺気立った。
 
「いや……あの……。銀座三越やったら……、あると……思って……」
 
夫がしどろもどろに応える。
 
いやいや! いやいやいやいや! ありえないでしょう!
 
10年目の結婚記念日にランプ買いに行こうって言って、ランプ売っていない店に来るとか。「銀座三越なら売ってると思って」って、なんだその希望的観測。中学生か?
 
まあね、中学生男子なら許してあげるよ。初めてのデートで映画を見に行ったら、昨日で見たい映画の上映が終わっていたり、とか。2回目のデートで、前から彼女が行きたがっていたカフェに行ったら定休日だった、とか。よくあることだもんね。
 
でもね、今日は10年目の結婚記念日なの。わかる? ただの結婚記念日じゃなくてね、10年目の結婚記念日なんですよ。
 
なんで、確認しなかったんじゃーーーーーっ!!!!!
 
と、私は遂に夫にブチ切れた。目からビームが出て夫を焼き殺すのではないかと思うほどに。
 
お母さん、ごめんなさい。結婚して10年経ちますが、私はまだまだ未熟者です……。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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