祖母の作るおはぎよりおいしいものになかなか出会えない理由は
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記事:飯髙裕子(ライティング・ゼミNEO)
たっぷり厚みのある粒あんに包まれた柔らかいもち米を一口大に切り取ると、すっと抵抗なく、硬すぎず、柔らかすぎず、もち米よりも粒あんのほうが厚みがありそうなおはぎ。
口に運ぶのがもどかしい。
「あーあ。もう少しで食べられたのに」私はため息をついた。
「おばあちゃんのおはぎ、食べたいなあ」夢を見ていた。
母方の祖母がお彼岸に作るおはぎが大好きだった。
まだそのころ子供だった私は、今ほど和菓子が大好きというほどではなかった。しかし、祖母の作るおはぎは、粒あんの甘さがしつこくなく、その量も中のもち米に引けを取らないくらいのたっぷりの量で、本当においしかった。
昔から家で作って家族に食べさせてきたごく普通のおはぎなのに、私は売っているおはぎよりも祖母の作るおはぎが好きだったのである。
今は一年中、おはぎを買うことはできるし、高級な小豆と良質の原料を使ったおいしいおはぎはたくさんある。けれど、私は今までまだ、祖母の作るおはぎよりもおいしいと思えるおはぎに出会っていないのである。
どうしてなのだろうと思った。
祖母はお菓子職人でもなかったし、料理人だったわけでもない。ごくごく普通の家庭の主婦だった。
祖母が過ごした時代は、家で食べるものを作るのは普通だったし、どこの家でもそうしていて特別なことではなかったと思う。戦争の体験から食事を作るのも大変な時代をくぐり抜けてきた人である。
そんな祖母の作る素朴なおはぎがなぜ、私の記憶にずっと残っているのか、自分でも不思議だった。
そしてもっと不思議だったのは、母がそのおはぎをおいしいというけれど作らないことだった。
母親の作る料理はたいてい娘も教えてもらったりして受け継ぐものも多い。
母は、類を見ないあんこ好きである。
それなのに祖母の作るおはぎを受け継いではいないようなのである。
私と同じように、祖母のおはぎを食べたいなあと言う。
そんな疑問を持ちながら聞いてみたことがなかったのだ。
けれど、ある時、母の料理を食べたいなあと、ふと思った時に「そうか!」とわかった気がした。
私が母の料理を食べたいと思ったのは、自分でその料理を作っても、何か母の味と違うことに気づいたからなのだ。
小さいころから母が料理を作るそばで見ていたし、手伝ってもいたのに、いざ自分が作ってみると何か違うのだ。
私たちは、日ごろあたりまえのように親の作る料理を食べていて、その味で育ってきている。
俗にいうおふくろの味というやつである。
その味が懐かしくて食べたいと思っても、自分で作ると何か違う。
何がと言われてもよくわからないのだ。
そういう料理が必ずあるし、それは、自分の中で一番おいしいと感じている。
逆に、親は子供の好きなもの、好きな味を十分知り尽くして大好きな味を作り上げる。
それが他ではそれ以上の味が見つけられない理由だったのである。
たくさんの人がおいしいと思う味は、特定の人にあてたものではないからだ。
そこには、それぞれの家庭の深いつながりと信頼の強さが伺える。
おそらく母も、作ってみたけど祖母の味と違うと思ったのかもしれない。
そばにいるときは、いつでも聞けると思っていて、そのうち離れてしまってからふと思い出して、作ってみたら、違っていた。そういうことなんだろうなと思った。
残念なことに、祖母の作るおはぎはもう食べることができない。
けれど、母は、私やその子供に大好きな味を残し、私もまた子供や孫たちに大好きな味を渡す。そんな繰り返しを続けていくのだと思う。
それはきっと、何か大切な価値のあるもので、心の中にしまっておきたい宝物のような気がするのだ。自分で作れるようになるのもうれしいけど、作ってもらっておいしかった記憶が何よりもずっと作ってくれた人を忘れないでいられることだと思うし、それを喜んでくれるのではないかとも思う。
最近なかなか会えない母に、また作ってもらいたい料理がある。リクエストすると、母は嬉しそうにその料理を作ってくれるに違いない。
作ってもらえるうちに、なるべく多く会いに行きたいなとしみじみ思う。
逆に、娘からリクエストされる料理もまた作り甲斐のあるものであることは言うまでもない。それは、食べたときに必ず「おいしい!」という一番うれしい反応が返ってくるのがわかっているからなのかもしれない。
ああ、できないとわかっているけど、「もう一度おばあちゃんの作るおはぎが食べたいなあ」私は、心の底からそう思った。
***
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