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メディアグランプリ

アフリカへ来たら、こんな国だった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:布施京(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
それは、時差ボケから開放された朝に起きた。
 
アフリカに到着してから4日間、ホテルでは、夜中の2~3時に起きてしまうのが常だった。
5日目にホテルからアパートに移り、ようやく「自分の家」で眠れた安心感からか、
その日は朝5時までぐっすり眠ることができた。
 
気分よくベッドから起き上がり、リビングへ向かう。
すると、足元で「ピチャピチャ」という音がした。
水たまりに長靴で足を踏み入れたような音。
夜明け前の暗がりで、あり得ない音が響いていた。
 
なぜそんな音が、聞こえてくるのか……
スリッパに水が染みて、足にじわっとした感覚を得たとき、「まさか!」と思った。
 
「そういえば、アパートの中の水害が多いんですよ。どこからか水が湧き出てくるんです」
昨日、同僚が話していた、摩訶不思議なこの話を、私は作り話のように聞いていた。
本当に湧き出てきたのだろうか……。
 
急いで電気をつけた。
すると、天井の電気が、床一面に張られた水面に、鏡のように映しだされ、部屋がパッと明るくなった。
 
恐ろしいことに、ちょっと床が濡れているどころではなかった。
まさに「浸水」という言葉がぴったりだった。
それも、リビングだけではない。他の寝室や台所も床一面が水に覆われていた。
そして、何の音もせず、シーンと静まり返っていた。
どこから水が湧いてきたのか??
 
ふと、夜中に土砂降りの雨音で目が覚めたことを思い出した。
「雨のせいだったのだろうか?」
この建物は19階建て、ここは15階。天井は濡れてはいなかった。
ベランダに出ても、コンクリートの床は乾いていた。
首を傾げながらリビングに戻った。
 
「とりあえず、なんとかしなければ」
急いでモップを手に取ったが埒が明かない。
床が傾いているのか、ひどいところは3センチ以上浸水していた。
ちり取りですくい上げた方が早かった。
あっという間にバケツがいっぱいになる。
だが、床を覆い尽くしている水面の広さは全く変わっていなかった。
「終わりそうにない……」
途方に暮れた。
気付くと、外が明るくなり、6時半になろうとしていた。
大家にSMSを送ってみる。だが、返事はなかった。
 
部屋に朝日が入り込み、床の水面はキラキラ光っていた。
「ピチャピチャ」という家の中での異質な音とあり得ない光景に笑いがこみ上げてきた。
 
「朝ごはんでも食べよう」
なぜか心は穏やかだった。
ここはアフリカ。日本とは違う。
焦っても仕方がない。
 
買ったばかりのポットを洗おうと、蛇口をひねったが、今度は水が出てこない。
アパートのタンクの水がなくなってしまったのだろうか?
 
水が出ないことを再度SMSで大家に送ってみると、今度は返信が来た。
同時に、電話がかかってきて、すぐに来るという。
 
それからは、早かった。
大家が、アパートの守衛と自分の家のメイドを引き連れて現れた。それでも、終わらないと悟った大家は、またすぐに電話でアパートの掃除婦を二人呼びつけた。その間に、水道屋が現れ、問題の箇所を特定し、修理して帰っていった。
 
問題の箇所は、トイレに付いている小さなシャワーだった。理由は誰もわからなかったが、そのシャワーの付け根部分から大量の水が流れ出たらしい。その証拠に、トイレの木のドアに15センチほど浸水した跡があった。
 
大家の説明によると、うちからあふれ出た水は、階下のエレベーターホールの天井から滝のように流れ落ちていった。階下の住人がそれに気づき、夜中2時に大家に電話し、私の家にも来たが、大家も私も熟睡中だったため、住人が機転を効かせ、水道の元栓をしめたらしい。
 
私が夜中に目を覚ましたのは、階下の住人が来たときかもしれない。
「あの土砂降りの雨音は、家の中で起こっていたのか!」
以前、途上国に住んでいたとき、家に響き渡るスコールがよくあった。
その時は、一階建ての家だったから響いていたのだ。
だが、今回は、よく考えればそんなに響くわけがない。
だが、あまりの眠さに思考はそこまで回っていなかった。
 
「そのとき自分が起きていれば……」と思ったが、途方に暮れる時間が長くなっただけだろう。
思い切りぐっすり眠れたからこそ、気持ちに余裕を持って、この浸水を受け入れることができたに違いない。
 
 
長い一日だった。
 
家のベランダからは、海が見える。
夜は真っ暗な海に、船の明かりがポツンポツンと見える。
今日はそんなベランダから、トランペットの演奏が響いてきた。
真っ暗で、どこで吹いているのかはわからない。
だけど、湿気を含んだ風にからみながらしっとりと響いてくる。
 
「お疲れさま。大変だったね。
でも、始まったばかりだからね。がんばるんだよ」
 
なんだか、そんなふうに励まされているように聞こえた。
 
浸水の洗礼を受け、これからはいいことばかりが続くのか。
これは序の口で、壮大な物語が繰り広げられていくのか。
 
帰り際に大家が言っていた。
「『アフリカに退屈な日はない』という言葉がある。日曜日だからといって、のんびりはしていられないんだよ」
そして、大騒ぎだった朝を思い出して一緒に笑った。
 
アフリカで初めての日曜日。
 
すべてを受け入れる。そして、愉しむ。
考えるのはそれからでいい。
 
水分を含んで、ボコボコになってしまった木の床を見ながら一人微笑んだ。
まずは、受け入れ愉しもう。
 
これからが、楽しみでしかない。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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