メディアグランプリ

そして想いは紡がれる。

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:浦部光俊(ライティングゼミ・4月コース)
 
 
パチッ、はじけた薪の音に我に返る。じっと見つめていたせいだろうか、揺れる炎に、吸い込まれそうなほど集中していた。それにしても、火というのは不思議なものだ。すべてを焼き尽くし、灰にしてしまうのに、こんなにも癒される。はかないものこそ、愛おしいということなのか。
 
漂ってきた甘い香りに目をやると、10才と7才の娘たちが、マシュマロを焙っている。こんがりついた焦げ目がおいしそうだ。隣にいる妻は、さっきから、せっせと玉ねぎをアルミホイルで包んでいる。これにバターをのせて、じっくり焼くのがうまいのだ。
 
そう、これが、最近のぼくたち家族のお気に入りの休みの過ごし方、焚火だ。休みのたびに、田舎の妻の実家に押しかけて、癒しを与えてもらっている。
 
それしても、と思う。こうして、どんどんと成長していく娘たち、こんな風に、一緒にときを過ごせるは、いつまでだろうか、少し寂しい気持ちにもなる。自分自身の幼かったことを思い出してみても、父親と遊んだ記憶というのは、あいまいだ。畑で焼き芋を一緒に作ったのを、うっすら覚えているくらいだ。
 
子供の頃の記憶なんて、その程度だろう。この子たちも、きっと忘れてしまうに違いない、そう思ったとき、ふと思い浮かんだのは、上の娘の卒園式での先生の言葉。たしか、こんな風に言っていた。
 
「幼稚園のことなんて忘れてしまうくらい、これから、もっともっと楽しい思い出を作っていってください。そして、大人になったとき、みんながお父さんやお母さんになったとき、ほんの少しだけでいいから、幼稚園のことを思い出してくれたら、先生は嬉しいです」
 
幼稚園に入ったばかり頃、五分と椅子に座ることができなかった子供たち。それが今では真剣に先生の言葉に耳を傾けている。そんな子供たちの成長の様子を、ずっと見守ってきた先生たちだ、園児たちと一緒に作ってきた思い出が、全部忘れられてしまったら、寂しくないはずはないだろう。
 
でも、先生たちは知っているのだ。子供たちの人生は始まったばかり。幼稚園はその準備をしてあげる場所だということを。そして、こんな風に思っているに違いないのだ。
 
これから、広い世界へ出て行って、自分の可能性を広げていってほしい。楽しいことも、つらいことも、きっとある。でも、それを乗り切って、自分色の人生を作っていってほしい。みんな、幼稚園、がんばってきたよね。だから、これからだって、きっと、がんばれる。もう、自分の力で歩いていける。だから、幼稚園のことなんて、どんどん忘れて、どんどん新しい経験をしていってね、と。
 
そう、先生たちはわかっているのだ。寂しいけど、わかっているのだ。幼稚園のことなんて忘れてしまう、それが、子供たちの成長の証(あかし)だと。
 
それと思うと、ぼくと娘との焚火だって同じに違いない。きっと忘れられてしまうのだろう。でも、それは彼女たちが、ちゃんと成長したという証。だから、寂しいけれど、忘れてほしい。いつまでも、ここにとどまっていないで、自分の世界を見つけてほしい。
 
そんなことを考えながら、無邪気にマシュマロをほおばる頬張る娘たちを眺めていたときだ。ハタとさせられた。そう、ぼくだって、きっと、同じに違いないのだ。この子たちと同じように、たくさんの人が、ぼくのこれまでを、支えてくれたのに違いないのだ。
 
いま、こんなにも平穏な毎日が過ごせているぼく、過去に捉われることなく、未来だけを向いて生きていけるぼく、それは、両親、おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさん、近所の人たち、学校の先生、数えきれないほどの人たちが、ぼくをサポートしてきてくれたから。
 
自分たちのことなんて、気にしなくていいよ。思うままに、どんどんと前へ進んでいけばいいよ、たくさんの人たちが、そんな風に、ぼくの背中をずっと押し続けてくれたのだろう。ただ、その「後押し」は、あまりにも繊細で、あまりにも普通のことだったので、ぼくは気付くことができなかったのだろう。
 
「大人になったとき、みんながお父さんやお母さんになったとき、ほんの少しだけでいいから、幼稚園のことを思い出してくれたら、先生は嬉しいです」 幼稚園の先生の言葉の意味が、また少しわかった気がした。きっと先生は、こんなことを伝えたかったのだろう。
 
「大人になったとき、誰かに背中を押してもらっていたこと、思い出してね。そして、そのときは、みんなも、誰かの背中を押してあげて。誰にも気づかれないように、そーっと、優しくね。気づかれなくなって、忘れられたっていいんだよ。それくらいが、ちょうどいいんだよ」
 
ゆらゆらと燃える焚火に目をやる。ふと思った。ぼくも、そんな風に、忘れられてしまうくらいに、そーっと、優しく、娘たちの背中を押し続けよう。そして、いつか、ほんの少しでもいいから、彼女たちが思い出してくれたら、嬉しい。ぼくに、妻に、おじいちゃん、おばあちゃん、たくさんの人に、背中を押してもらっていたことを、思い出してくれたら嬉しい、そんな風に思った。
 
静かに目を閉じる。浮かんできたのは、誰かの背中を押してあげている彼女たちの姿。それは、とても繊細で、優しくて、誰にも気づかれていない…… パチッ、また薪がはぜる。一瞬、強くなった火の光に、まるで、自分の未来まで明るくなったような気分になる。
 
想いが続くとか、希望とか、こういうことなのかな。はかないからこそ、いや、はかないけれど、それはずっとつながれていく。愛おしさって、こんな風に紡がれていくのかな、そんな風に思った夜だった。見上げると、星がとてもきれいな夜だった。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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