メディアグランプリ

奇跡のジョージ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:横山裕子(ライティングゼミ4月コース)
 
 
「ウズラはどうかな?」
仕事が終わって、携帯を開いてみると、息子からのメールが届いていた。
「今晩、うずらの卵を食べたいってこと?」と返信すると、「飼いたい」と直ぐに返ってきた。「飼うー?」と思わず声に出してしまったら、「なになに?」と同僚たちの興味津々の顔。「なんでウズラなんだろうね?」それは、私が聞きたい。同僚の一人が「昔、祖父が元気だった頃、外の小屋でウズラ飼ってたよ。十羽以上いたかなー。お祝い事があると、一羽ずつ居なくなるの」と。「えっ」一瞬、全員絶句。
「続きを教えてねー」と笑顔の同僚に手を振り、スーパーへ。うずらの卵を横目に見ながら、足早に買い物を済ますと、家路を急いだ。
 
「なんでウズラを飼いたいの?」と聞くと「飼いやすそうだったから」と答える。
息子は、幼いころから生き物が好きで、いろいろ飼ってきた。ヤゴ、カブトムシ、ザリガニ、メダカ、蝶の幼虫……。カナヘビ(草むらにいる小さなトカゲ)の卵を孵した時には、さすがの私も感動した。
というのも、実は私は、生き物がちょっと苦手、できれば遠くから眺めて「可愛いねー」とか言っていたいタイプ。娘はそれに輪をかけて苦手なので、なかなか、ペットを飼うという話にはならなかったのだ。
きっと息子なりにいろいろ考えたんだろうと思った。本当は犬や猫が飼いたい、でも、あまりいい顔をされないことは分かってる。ならば、と、かごの中で飼える鳥に行きついた。でもなぜ、ウズラ? 「あまり他の人が飼ってないものを飼いたかった」今思えば、彼なりの、ささやかな抵抗だったのかもしれない。
 
かくして、ウズラを飼うべく、ペットショップ巡りが始まった。
数件、足を運んだが、普通のペットショップには置いていない。諦めムードが漂う。そんな時、同じく生き物好きの息子の友達が、あるお店を教えてくれた。そこは、ペットショップの元締め、いやいや、卸のようなところだった。
普通の住宅街、狭い路地を抜けると、それらしき建物、そして、鳴き声や生き物の気配……。おそるおそる扉を開ける。
「こんにちは~」狭い店内には、所狭しと様々な生き物が飼育されている。独特の空気と匂いに圧倒されながら、店主と見られるおじさんに、「家で飼いたいのですが、ウズラはおいてますか?」と声を掛ける。すると、奥から、見慣れたウズラのほかにも、頭に飾りのついたのや、大きいのやら小さいのやらが出てきた。息子がひと目で「これがいい!」と選んだのが、ヒメウズラ。東南アジアやオーストラリアに生息し、体長9センチほど、寿命は4~5年とのこと。当時、一羽三千円程、つがいで購入した。
 
大きめの鳥かごに、新聞紙、チモシー(牧草)を敷き、砂浴び用の砂、飲み水、ウズラフードをセットする。そして、つがいのヒメウズラ。雌はヒメ、雄はトノと名前を付けた。目を輝かせ、鳥かごに張り付く息子。世話は任せたよ!
 
トノは、薄いグレーで首のところに白い三日月のような模様、警戒心が強く、なかなか触らせてくれない。ヒメは、全体的に薄いベージュ色、だんだんと慣れて、おとなしい感じ。
そのうちにヒメは卵を産むようになった。なんと、春から夏にかけて100個近くにもなった。が、なかなか卵を抱こうとしなかった。少し温めても、すぐに止めてしまう。そこで息子は、温冷庫を活用し、温度・湿度管理をしながら温め始めた。できうる限り、転卵(卵を転がし、栄養をいきわたらせたり、殻への癒着を防ぐ)もした。でも如何せん、昼間、息子は学校、私は仕事、孵化には至らなかった。ほんの数個、殻を破って、生まれてきそうな子もいた。「がんばれ、がんばれ!」と祈りながら、誕生を見守ったが、力尽きて死んでしまった。殻を破るのをちょっと手伝えば、生まれてきたかもしれない。でもそれは、自然界ではあり得ないこと。生まれてきても、自力では生きられないだろう。
 
次々と増える卵、温冷庫には移さず、そのままにしておいた、ある朝……。
小さな小さな鳴き声がする。息子がそっとヒメを動かすと……。「雛がいる!」
親指の先ほどの雛が懸命に鳴いていた。
突然の命の誕生と、その小ささ、可愛さに、朝の支度も忘れ、驚くやら、感動するやら……。その騒ぎに、眠い目をこすりながら起きてきた娘も、思わず「可愛い!」と叫んだ。
テレビでは、先日誕生されたイギリスの王子が「ジョージ」と命名、とのニュースが流れていた。よし、あやからせていただこう。小さな命は、「ジョージ」と呼ばれることになった。
 
それからが大変だった。大急ぎで、めだかが泳いでいた水槽に砂を敷き、ペットヒーターを設置、ペットボトルの蓋に、餌と水を入れて置いたけれど、自力では食べれない。それどころか、蓋に入れた水で溺れてしまいそうな小ささだ。今度は、これまた、めだかの時に使っていた小石を蓋に詰め、水を張る。これなら、溺れない。餌は水で溶いてペースト状にし、ストローの先をカットしたもので、息子が食べさせる。水は、スポイトでくちばしの根元をつつくと、ククッと飲んでくれた。「ああ、良かった」食べて飲んでくれれば、ひとまず安心だ。
 
ペットボトルの蓋に、ちょこんと座るジョージ。
「ああ、今日も元気でいてくれる」息子も娘も、帰ってくると一目散にジョージの様子を見に行く。小さな命の輝きが、家族の気持ちを一つにして、愛おしさや、心配や、いろんな気持ちを思い出させてくれた。
ありがとう! ジョージ、生まれてきてくれて。
家族の一員となったジョージ、物語はまだまだ続く!
 
 
 
 
***
 
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2022-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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