メディアグランプリ

JAZZのすすめ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大室 岳(ライティングゼミ・集中コース)
 
 
暖色の照明で店内は少し暗い。カウンターに座り目の前のウィスキーグラスを手に取る。グラスを傾けるとウッドベースの弦がはじかれる音に氷の音が混ざる。ブラシがスネアの表面をリズム良く撫でる。ピアノのハーモニーが空間を包み込む。ついにサックス奏者が楽器を構えブレスを取り、哀愁を帯びた寂しげな音が歌を歌う。
 
ジャズ。ジャズをただおしゃれな音楽だと思っているはたくさんいる。そのおしゃれさゆえに敬遠している人もいるだろう。しかしジャズはおしゃれなだけではない。ジャズは一つの言語だ。ジャズの言語で紡がれる言葉の応酬はときに笑え、泣ける。ぜひあなたにジャズを、ジャズ語のバトルを肌に感じてほしい。ジャズはエンタメである。
 
私がジャズを聴きはじめたのは高校生のころだった。当時、村上春樹にハマっていた私はノルウェーの森を何度も読み、小説内で出てきた色んなことにチャレンジした。ビリヤード、トーマス・マンの「魔の山」、魔法瓶にウィスキー、クラシックギター、最後にビル・エヴァンスだ。
 
ビル・エヴァンスというのはジャズのピアニストだ。エヴァンスのレコードを主人公の渡辺くんは、直子というヒロインに誕生日プレゼントとして渡す。そのレコードを聴きながらケーキを食べ、ワインを飲んでいるときにある事件がはじまるのだが、私は事件と同じくらいビル・エヴァンスが気になった。
 
高校生のとき、ついにタワーレコードへビル・エヴァンスなるピアニストのCDアルバム「ワルツ・フォ・デビィ」を買いに行く。かなり大きな決断だった。今まで流行りのJPOPのCDを近くの本屋で買ったことしかなかった。
 
福岡天神のタワーレコードに行って、5階のジャズクラシック売り場に着くと、すぐに店員を探した。
 
「すみません。ビル・エヴァンスのアルバムを探しているんですけど。タイトルがワルツ・フォー・デビィってやつで」と声をかけると、店員はすぐに売り場を案内してくれた。
 
「ワルツ・フォー・デビィは盤がいくつかあるんですけど、おすすめはこっちですね。安いですし」
 
盤がいくつもあるとはどういうことだ、と思いながらCDを手に取った。たしかにトラックの数が違った。おなじ曲でもテイク1とか2とか、色々なテイクが収録されている。この謎はジャズを聴きはじめて、しばらくして判明した。
 
とりあえず勧められた方を買って、帰路に着いた。帰りのバスのなかでCDのビニールを破って中のブックレットを読んだが、英語でよくわからなかった。
 
家に帰ると階段を走ってあがり、自室でCDをプレーヤーにいれた。スピーカからピアノとベースのイントロが流れ出す。オシャレな音楽だった。
 
演奏の途中でベースがメインになるところがあった。まさかこれがアドリブってやつかと思い、ハッとした。よく耳を澄ますとベースが弾いた旋律に、ピアノが合いの手を入れるようにしている。まるで会話みたいだ。
 
それからジャズのCDを少しずつ聴きはじめた。高校生はあまりお金がないので図書館をフル活用した。ジャズ名盤ガイドを片手に図書館でCDを漁る。せっせとMDにダビングをして、学校の行き帰りに楽しんだ。
 
少しずつジャズの演奏がわかってきた。ジャズとはメロディーと和音の動きがある程度決まっていて、それを何度も演奏しながら奏者ごとにソロを回していく。ソロは完全に即興で演奏する。即興演奏がジャズの魅力だ。
 
しばらく聴いているうちに、新しいことに気づいた。ソロに注目して聴くのも面白いが、ソロにまわりの人の反応に注目するのも面白い。例えばピアニストが同じようなリズムのフレーズを続けると、それに呼応するようにベースもドラムも同じリズムを演奏しだす。またサックスのソロのフレーズの合間に、ピアニストが返事になるような旋律を入れたり、ドラムがフィルを入れたりする。まるで会話をしているみたいだ。
 
楽譜がないということに改めて驚く。絶妙のコンビネーションなのに予定調和ではない。まるでテレビでバラエティーショーの芸人たちのやり取りを見ているようだ。そう、ボケとツッコミの関係に似ている。
 
実際にライブに行ってみると、ミュージシャンのやり取りがよくわかるようになった。身体全体でプレイヤーがコミュニケーションしている。しかもそれを見て、音楽を聴いてお客さんも反応する。ときには「イェイ」とか言って歓声をあげる。会場のリアクションにミュージシャンもヒートアップしていく。お笑いライブといっしょだ、と思った。
 
私も少しずつ演奏を聴いて笑ったり、声をあげたりするようになった。すると自分もミュージシャンの一員のように感じるようになった。ジャズは参加型のエンタメだった。
 
正直、はじめてライブにいくと少し戸惑う部分もあるだろう。でもアイドルグループのライブでもそれは同じだ。もし今、あなたが何か新しいことにチャレンジしたいと思っていたら、ジャズを聴いてみてはどうだろうか。今はサブスクでいくらでも聴ける。手はじめにビル・エヴァンスのワルツ・フォー・デビィをお勧めする。音楽と一緒にウィスキーのグラスを傾けたくなるかもしれない。
 
 
 
 
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2022-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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