メディアグランプリ

思い込みとちょっとの勇気


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記事:紗矢香(ライティング・ゼミ4月コース)
 
 
私は、友達作りが苦手だ。苦手というより怖いのかもしれない。
 
昔から転校を繰り返していたせいか、一人ぼっちが極端に嫌いだった。
小学校入学時、誰も知り合いがいない中、椅子にずっと座っていた記憶がある。
内弁慶で人に話しかけられない。最初の一声がでない。異常なくらい恥ずかしがり屋だった。
 
小学校2年生の時に、やっと仲良くなったA子さんがいた。だが、なぜかすぐにA子さんからシカトされた。A子さんしか友達がいなかったので、どうしたらいいかわからなくて途方に暮れた。半年後、A子さんがまた話しかけてくれるようになった。私はA子さんに恐る恐る聞いてみた。
 
「どうして話しかけても無視したの?」
「だってあんた、人の話全然きいてないじゃん」
 
自覚がなかった。でもA子さんが言うのだからそうなのだろう。それからは、A子さんの話を頑張って聞くようにした。A子さんは、意地悪で怒りっぽかった。だがA子さんに依存している為、言う事を聞くしかなかった。私がA子さんを苦手だ、と思っているとは夢にも思わないだろう。仲良しとはいえない。主従関係のようだった。
 
私は、小学校5年生の時に県外に転校した。A子さんと離れられて、内心ほっとしていた。
 
転校先で自分に言い聞かせた。ここでは、誰も私のことを知らない。活発な子を演じるのだ。あの子すごいなって思わせるのだ。そして実行した。自分からどんどん話しかけた。ドッジボールも頑張った。いつも笑顔で接した。うまくいった。自分でなんでも出来ると思う事が大事だと思った。A子さんのことを気にする必要がない転校先で、のびのび自分らしくふるまえた。
 
中学校2年生の時、小学校の時に住んでいた場所へ転校することになった。いわゆる出戻りだ。
実はこれが、一番たちが悪い。
思春期ということもあり、顔見知りなのに誰も話しかけてこない。生殺しにされているような気分だ。
苦手なA子さんもいた。A子さんとは、小学校の時にけんか別れのような形で引っ越した経緯もあり、話しかけてはこなかった。
話しかけてはこないがじっと見られているような気がした。思い込みかもしれないが、A子さんのクラスの前を通るときは、小走りに教室を見ないようにしながら走り去った。異常なくらいおびえていた。学校に行くのが憂鬱だった。休み時間には、トイレに籠っていた。なるべく目につかないようにおとなしく、おとなしく中学時代を過ごした。早く卒業したいとずっと思っていた。5年生で転校した時のように、自分がなんでもやれると思うことさえ出来ないくらい、思い詰めていた。
 
中学卒業後は、A子さんと違う高校へ入学し、解放感を感じている自分がいた。
高校や大学では、人並みに友達が出来たし、活発に楽しく過ごした。
仕事先でも仲良くなれる人は出来たし、結婚して子供が生まれてからも、ママ友とも仲良く出来た。A子さんのことはすっかり忘れていた。
 
実家へ戻っている時に、偶然A子さんと会った。子供を抱っこして、近所を散歩していた時だった。動揺した。気づかないふりをして、その場から立ち去ろうと思った瞬間、意外にもA子さんから話しかけてきた。
 
「久しぶりやね。元気にしてる?」
 
15年ぶりぐらいに会ったA子さんは、ちょっとふっくらしていた。
私はびっくりして返事をするのがやっとだった。
 
「うっ、うん……」
 
あんなにA子さんのことを恐れていた小学校、中学校時代はなんだったのかと思うくらい、A子さんはあっけらかんとしていた。
いやなことをした側は、覚えていないのだろう。
いやなことをされた側は、覚えているのに。
その後、少し世間話をして別れた。
なんだかあほらしく、同時にほっとした。
長い間喉に刺さっていた骨が取れたような感じだった。
そんなに気にすることではなかったのか。
ただの私の思い過ごしだったのか。
 
子供時代は、近所、同じクラス、同じ学校、仲良くする範囲が限られる。
とても小さくて狭い世界だ。
その中で仲良くなれる子を探すのは難しい。
妥協をすれば、みつかるかもしれない。もしくは、本当に気が合う人がいる場合もある。
 
私の場合は、みつからなかった。いや、無理やりみつけようとしていた。
必要以上にA子さんと友達にならないといけないと思い込んでいた。
 
あれからA子さんと近所で出くわすことも何度かあったが、挨拶する以上の関係には発展しなかった。結局それだけの関係だったのだ。
 
友達でもなんでもなく、ただの知り合い。
中学生の時にそう思えれば楽だったのに。
 
苦手な人と友達になる必要はないし、縛られる必要もない。
かといって、避ける必要もない。普通に過ごせばいいのだ。
 
長い時間がかかったが、A子さんとの経験でそのことに気づいたのだ。
 
先日、ずっと断っていた中学校の同窓会に30年ぶりに行ってみようという気になった。
知っている人も、話をしたことがない人もみんな温かく迎え入れてくれた。
ちょっとの勇気があったら、私の中学時代ももう少し楽しく過ごせたのかもしれない。
そんな気持ちになった。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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