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母の日の成人式


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:今村真緒(ライティング・ゼミNEO)
 
 
ゴールデンウィークの最終日、夫と私は車で30分ほどの夫の実家に向かった。
朝から真夏日の日差しで、車の中では汗ばむほどだ。車の窓を全開にした私の隣には、ピンクのカーネーションの鉢植えが揺れている。今日は母の日。久しぶりに夫の母に会いに行くのだ。
 
出迎えた義母は、テーブルいっぱいに、いろんなものを準備していた。柏餅にロールケーキ、畑で採れたトマトにグリーンピース。健康に良いからとヨーグルト飲料を1ケースに、私が簡単に調理できるようにと下ごしらえ済みの筍。義母はうちに来るときも、いつもこんな風にお土産を抱えて来てくれるのだった。
 
いそいそとお茶の準備をする義母に、息子である夫がカーネーションを選んだことを告げると満面の笑みが弾けた。以前夫が選んだバッグをプレゼントしたときの反応と一緒だった。息子が選んでくれるって、母親にとっては格別なものに違いない。
夫に仕事はどうなのかとか、残業は多いのかと心配する義母に、どんなに歳を取ってもいつまでも子どもは子どもなのだと思った。そんな2人の様子を見たからか、今度はゴールデンウィークに東京から帰省しなかった大学生の娘のことが気にかかった。
 
「今日はアルバイトなのかな? 最近『供給』が少ないよね」
帰りの車の中で、運転中の夫に問いかける。
「毎日『供給』してくれているけどね。ビデオ電話が少ないだけでしょ」
バックミラー越しに、苦笑いで夫が答える。私たちが言う「供給」とは、娘が家族のLINEグループに上げてくれる写真のことだ。毎日のように、写真にその日のメッセージを添えてアップしてくれるのだ。おかげで私たち夫婦は、娘の生活を垣間見ることができ安心感を得られているので、日々の娘の労力に感謝しなければと思う。
 
それでも「供給」が少ないと感じてしまったのは、毎日の写真だけでなく生の声を最近聞けていないという私の寂しさゆえだ。そう思うなら電話をすればいいのだが、新学期から大学の授業がオンラインだったものが対面にようやく切り替わり、アルバイトも始めた忙しい娘の負担になってはと、毎晩一旦持ち上げた携帯を置いてしまうのだった。
 
昨年の母の日は、大学生1年生になった娘が、直接会えないからとAmazonで使えるギフト券を贈ってくれた。思わぬプレゼントに、何に使うか秋頃まで悩んだことを思い出す。私の誕生日は母の日に近いこともあって、両方を兼ねたプレゼントだった。仕送りをしているとはいえ、生活費でほぼ消えることを考えると無理しなくていいのにと心配になったが、何だか大人びた娘の行動が眩しく思えた。
 
家を出てから、娘は急に自立し始めた。洗濯掃除も段取りを決めてきっちりやっているし、私が起こさないと決して起きられなかった娘が、目覚まし時計だけで早起きしていることも驚きだ。家では甘えていたので、その落差に私はビックリした。自分で考え行動し、事後報告になることも多くなった。後から聞いて、「何でそのとき言わなかったの!」と思うこともあるが、娘が自分なりに出した答えを信じるしかないのだろう。子どもはいつまでも子どもであることには違いないけれど、躓いたり転んだりしながら進む姿に手を出さず我慢することも必要なのかもしれない。
 
夕方に、娘宛ての宅配便が届いた。送り主を見てみると、成人式にお世話になる着物屋さんからだ。今度20歳になる娘は、今年の春休みに帰省したときに早くも成人式の前撮りをしていた。
随分早くから撮るものだと思ったけれど、当日撮影するよりは慌ただしくなくて良いのかもしれない。写真を6月くらいに送りますと言われていたのが、随分早く仕上がったようだった。
 
晩御飯後に、夫と包みを開けてみた。写真は全部で4パターン。特に、見上げるような上半身のアップは、一番娘らしい表情が出ていると思い、「これ絶対入れよう!」と即決した一枚だった。
 
桜の枝を見上げたそのショットは、幼い頃、低い位置から私に向かって手を広げた娘の表情と重なった。よちよち歩きで真っ直ぐに私へと手を広げる娘を、何度抱き上げたことだろう。あの幸せな重さと甘い匂いを思い出すと、私の記憶は一気に20年前に巻き戻った。
 
大きなお腹にいた頃はただ健康に育ってくれればと願い、保育園に入れば、泣いていないかと暗くなる中駆け足で迎えに行った。娘は小学校に上がるとたまに熱を出すことがあり、私が仕事を休んで一緒に家にいると、嘘のように元気になって甘えてくることもあった。中学生になれば思春期を見守るしかなく、高校生になれば将来のことを考えるサポートができればいいと思った。成長するにつれて私の心配の質は変わっていったけれど、振り返ればあっという間の20年。長いようで、一緒に過ごした日々はあまりにも短く感じられた。
 
前撮りの写真が届いたことをLINEで知らせると、夜遅く、娘からのいつもの「供給」が来た。
どうやら今日は、遅くまでアルバイトだったらしい。写真と一緒に、「今日は母の日だけど、今度帰省したときに誕生日と一緒に祝うのでご勘弁を」とのメッセージつきだ。すぐに、「気持ちだけでうれしいよ」と返した。今日は、私も母としての成人式を迎えたような気持ちになれた一日だった。私は、「もう、母の日にふさわしい贈り物をもらったからね」と心の中でつぶやいた。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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