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痴漢はやめちょ!


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石川ひろこ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
あなたが人生で一番大きな声を出したときはいつですか?
私の場合は忘れもしない17歳の夏の終りだ。
 
 
それは学校の帰り道、痴漢に遭遇したときのことである。
 
高校時代、私が所属していた硬式テニス部はかなりハードな体育会系クラブだった。
下級生は先輩からの指示にはいつだって大きな声で「ハイ!」と返事をするのは当然のこと、そして部活中は先輩のボールの行方を全て目で追い、コート内に入ったら「ナイス・インです!!」と叫ばなければいけなかった。
 
少しでも声が小さいものなら先輩の機嫌はたちまち悪くなる。
喉だけで声を出すとすぐにかれてしまう。 お腹から出さないと長時間、大声を出し続けることはできない。
 
 
そんな背景もあり、高校2年の頃には私もかなり大きな声が出せるようになっていた。
 
 
話は変わり、高校時代の私は地域情報誌を読むのが趣味だった。
今みたいにインターネットもない時代だ。 新聞では情報が広すぎる。
私は試写会が当たるなどのお得情報を得るために、くまなく紙面をチェックする高校生だった。
 
そんな私の目にとまったのが【護身法教えます】という記事だ。 会場は私が通っていた高校のすぐ近くの公民館。
「これなら部活帰りに行けるかもしれない」と興味を持ち、すぐに電話予約をした。
護身法とは読んで字のごとく、自分の身を守る方法である。
予約した当日、会場には私と、私が強引に誘った友人以外の受講生はいなかった。 ほぼプライベートレッスンだったのだ。
 
さらに、なぜか「女子高生が護身術を習いにくる」ということがキャッチーだったのか、私がいつも読んでいた地域情報誌からの取材がはいっていた。
私達に護身法を教えてくれたのは真っ白なひげをたくわえた大先生だった。
 
 
その日の授業で習ったことでまず覚えているのが「大きな声を出す」練習だ。
私にとって、これは日頃から部活で鍛錬・習得済みだ。
 
自信満々に「やめてぇ〜〜〜〜!!!」「たすけてぇ〜〜〜〜!!!!」と公民館内に大声を響き渡らせた。
その声の大きさに白ひげ大先生もびっくりしていたが、もちろん一発OKをいただいた。
それから、襲ってくる相手の手首をひねり上げる方法、力を入れずに相手を倒す方法、そして急所を蹴り上げる方法など、次々と想定される非常事態に備えて技を教えてもらった。
 
その数週間後の広報誌には、高校の体操服を着た私が、カメラマンの指示どおり悪役をしている白ひげ大先生を投げ飛ばしてる写真が大々的に掲載されていた。 なんだか恥ずかしくて誰にも言えなかったが一緒に参加した友達がいつまでもその情報誌を握りしめて笑い転げていたのを記憶している。
 
 
話を戻そう。
そう、17歳の私は、痴漢に遭遇したのだ。
部活終わりの帰り道、私は車が多く通る幹線道路より、たんぼの合間を縫った小径を自転車で走るのが好きだった。 暗くなると人通りも少ない場所なので通ることはなかったが、その日はまだ明るい時間帯だったので迷うことなく田んぼ道を通った。
 
すると、前方から黒いフルフェイスのヘルメットをかぶった原付バイクが近づいてきた。
 
「おっと。 ここは道があまりに細い。 自転車を一旦停止して相手が過ぎ去るのを待とう」と思い私は自転車を止めた。
 
前方の原付きは不思議なくらい、ゆっくりとこちらに向かってくる。 そして、一旦停止している私の傍まで来てピタリと動きを止めた。
「え? なに?」と思った瞬間、慣れた手付きで私のスカートに手を伸ばしてきた。 私はぎょっとしてその手を振り払った。
そして私は事態を把握した。
 
 
「こ、こいつは、痴漢だ」と。
さっと周りを見渡したが、人気はまったくない。
 
さ〜〜っと血の気が引いた。
 
私はその少し前に受けた護身術の内容を思い出すために必死で頭を回転させた。
「えっと、えっと……まずは何をするんだっけ?」
パニックになりそうな私の脳裏に、白ひげ大先生の言葉がよみがえる。
「第一に、大きな声を出すこと」と。
そうだ。 あの日の講座の中で私が一番上手にできた、あれだ。
 
さあ、今こそ、お腹から声を出すんだ。
だが、あまりに突然の事態。 恐怖で声が出ない。
護身術で習ったあのフレーズ、「やめてぇ〜〜〜〜!!!」「たすけてぇ〜〜〜〜!!!!」が喉まで出かかってるのに!
 
 
そしてやっと、私の喉から爆発するような大きな声が出た。
 
それまで生きてきた中で一番の大きな声が出たのだ。 自分でも聞いたことがないような大きな声が私から発せられた。 そして田んぼ一面に響いた。 私は、フルフェイスの相手をにらみつけ、全身全力で叫んだ。
 
「やめちょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」と。
 
 
それは「やめてよ!」と「たすけてぇ!」が合わさって一言になったのだろう。 渾身の一声で私は「やめちょ〜〜!!」と叫んでいた。
痴漢は一瞬その声の大きさにひるんだように見えた。
そして「やめちょ……?」と低い声でつぶやいた後、原付バイクを発進させてその場を去っていったではないか。
 
私は、あっけに取られてそのバイクが走り去る後ろ姿を見ていた。 そして、なぜか突然、抑えきれない笑いがこみ上げてきた。
 
「今、人生最大の声で『やめちょ〜〜』って叫んで痴漢を撃退した! なんかわからんけど笑える!」と。
 
大人になった今、【痴漢やめちょ事件】を思い返してみる。
あの直前に護身術を習っていなかったら。
痴漢がひるむ(いや、ドン引き!?)程の大声を出せてなかったら。
出した声が、か弱い「やめて」だったら。
事態は変わっていたかもしれない。
 
そう思うとやっぱり私はラッキーだと思う。
あの日、情報誌で護身術募集の記事を見て受講していなければこの話をこんな風に笑ってできなかったかもしれない。
愛読していた地域情報誌と護身術の白ひげ大先生に今でも感謝している。
「第一に、大きな声を出す」と教えてくれたこと。 わかっていてもなかなか声が出ないことも身を持って体験した。
 
でも、そんな中でも大声を出せた当時の自分を褒めたい。
田んぼ道に響き渡った「やめちょ〜〜!!」の一声に、ナイス!と言いたい。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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