メディアグランプリ

大きな花束をもらった日に


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塚本 よしこ(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
全然嬉しくない……。
後輩たちが引退をお祝いする会を開いてくれている。
お酒も入って皆楽しそうだ。でも私の心は人知れず沈んでいた。
それに気づかれないように、空気のようにそこにいた。
 
「ラクロスせえへん?」
大学に入り、何をしようか悩んでいると、同じ専攻の仲間から声がかかった。
ラクロス? 自分たちで何もないところからラクロスのチームを立ち上げないかという話だった。
 
小、中、高校とバスケをしてきた私は、何か新しいことをしたいと思っていた。
球技に抵抗はない。面白そう! すぐにやる気になった。
 
ラクロスは1990年代に入ってから盛んになってきたスポーツだ。
虫取り網のようなクロスと呼ばれるスティックを使ってボールを運び、ゴールにシュートし得点を競い合う。空中ホッケーとも呼ばれている。
 
私たちは、近隣の大学に教わりに行く形で活動をスタートした。
近くで既にチームがある大学はなく、他県にまで行くことが多かった。
1年目は人数が少なく、試合なんて夢の世界だった。
2年目になると後輩ができ、ようやく試合に出られるようになった。
私はアタックという攻撃担当のポジションで、そのリーダーをすることになった。
 
上手くなりたい! シュートが決まるようにしたい!
朝からグランドで1人自主練をすることも多かった。
小学校から厳しい先生の指導の下バスケをしてきた私は、「自分たちで作り上げる」というのがたまらなく楽しかった。
お互いクロス(スティック)を持っているだけで、街ですれ違う知らない誰かと挨拶を交わし合う。登山中にすれ違うと挨拶するような、そんな文化がラクロスにもあった。
そんなところも大好きだった。
 
2年目になると、学生リーグの4部で2勝出来るくらいにはなっていた。上のリーグに行きたい! しかし、あっという間に引退の時期がやってきた。
私たちは土台を築き、あとは後輩に夢を託した。
 
後輩が引退のお祝い会を開いてくれている。
その人に合った花ということで、私はチューリップの花束を受け取った。
名前が彫られたシルバーのボールペン、そして色紙もプレゼントされた。
いつの間に準備してくれたんだろう? とても有難く思った。
 
何の不足もない状況だ。
なのに、どうして嬉しくないんだ?
 
渡された色紙の真ん中には、濃く太く「走るポイントゲッター!」と書かれていた。
そして、その周りに所狭しと後輩のコメントが並んでいる。
 
得点王! かっこよかったです! 華麗なシュート! プレーに感激……。
何も嫌なことは書いてない。
なのに、なぜ?
 
話を聞いてくれてありがとう! 相談に乗ってくれてありがとう!
Aちゃんに励まされた……。
Aちゃんの色紙が目に入った。
 
えっ、全然違う……。
心が大きく揺れた。
周りは賑わっているのに、自分のいる世界だけ音がなくなった。
そしてなぜか、今まで何か大きな間違いをしてきてしまったような気持ちに襲われたのだ。
 
その色紙には私にはない後輩からのコメントが並んでいた。
Aちゃんは、最初にラクロスに誘ってくれた仲間だ。
でも膝に怪我をしてしまい、途中から練習になかなか参加出来なかった。
センスも誰よりもあったのに、試合に出れないことが多かった。
悔しさや、歯がゆい気持ちで一杯だっただろう。
 
けれど、Aちゃんは誰よりもチームに尽くしていた。
クロス(スティック)が壊れると、仲間の分を抱えて電車で修理に持って行った。
その頃クロスは木製で、何本も重なるとかなり重かった。
自ら損な役割を引き受けるようなところが普段からあった。
練習に参加出来ないけれど、後輩たちの話はよく聞いていたのだろう。
私の知らないことをよく知っていたし、理解していた。
 
私はアタックリーダーとして点を決めることに躍起になっていた。
チームを勝利に導くのが自分の役割だと思っていた。
でも、自分のことに精一杯で、後輩がどんな気持ちでいるのか?
皆が何に悩んでいるか? そういうことは、あまり分かっていなかった。
 
Aちゃんの色紙が良かった……。
私の色紙には技術的なことしか書かれていない。
技術的なことを褒められてもぜんぜん嬉しくない!!
心からそう思ってしまったのだ。
 
鏡よ鏡、この世で私が望むのはどんな世界?
すると、後輩に慕われて楽しく談笑しているAちゃんの姿が映った。
グランドで得点を決めて、颯爽と走る自分の姿ではなかったのだ。
 
技術を高め、得点を取って喜んでいたのは、独りよがりだったのかもしれない。
私は確かに楽しかった。活躍も出来た。
でも、急に寂しくなり、吹けば飛ぶような心持ちになった。
 
「周りの人との繋がりを大切にして、心を通わせる世界」
それが私の生きたい世界だったのだと初めて知ることになった。
 
こうしてその時の色紙は、その後の私の道標となった。
自分が大切にしたい方向を指し示してくれたからだ。
頭で考えて何の問題もない状況なのに、心がざわつく、違和感がある。
そんな時は内側からの大切なメッセージが隠れているように思う。
 
春のまだ肌寒い午後、お別れする職場から今までにない大きな花束を頂いた。
「なんて人を大切にする職場だろう……」
花束に見とれていると、この学生時代の出来事が思い出された。
 
あれから私は周りの人との関わりを大切に生きてこられただろうか?
人情を心に生きてきただろうか?
出来ないこともあったかもしれない。
でも、そうありたいという思いは、あの時からずっと消えずに残っていた。
 
 
 
 
***
 
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2022-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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